ふつうじゃない会社員の代弁者になるときに注意すること
前回のnoteが予想を超えて反響がありまして、ちょっとびっくりしています。
PVとかスキの数はだいたいいつも通りなのですが、定性的なリアクションに驚いています。
Xでコメントをくださったり、DMでメッセージをくださったり、リアルで感想を聞かせていただいたり。
ありがたやありがたや、でございます。
その中でいくつかあったのが「もう少し具体的なアドバイスがほしいです」という声。なるほど確かに虚心坦懐であれ、明鏡止水で臨め、みたいな話は「そうだよなあ」と思っていただけても「なるほど役に立つ」まではいきにくいでしょうね。
そこで、せっかくですので第2弾として実際に社員インタビューをつくるときに注意したほうがいいことを紹介することにします。役に立つかどうかはともかく。
ちょっと評判がいいとすぐに調子にのるのが玉に瑕なんですが、寛恕の心でお許しくださいませ。
そもそも知らない人の話である
インタビュー記事には、有名人や芸能人、著名人など知っている人の記事であればこそ、という側面があります。
その人のことを知りたい、その人の発言を聞きたいと思うから読んでもらえるんですね。
だけど、一般的にさほど知名度のない会社に勤めているヤマダタロウさんのことは、まず誰も知らない。家族や友人、同僚や先輩や上司を除くと無名です。規模によっては勤務先の社長さんだって知らないかもしれない。
そんな、海のものとも山のものともどこの馬の骨ともわからない人の話を記事にする、ということをきちんと理解し、意識できているかどうかはものすごく大事です。
具体的に言うと、読み手にとって相当わかりやすく、相当興味を惹く話の運びを心がけないといけません。タイトルや小見出しはそれなりにインパクトを持たせたいですし、イントロダクションやファーストブロックはその先を読み進めてもらえるかどうかの鍵を握っているといっても過言ではありません。
もちろん、だからといって話してもいない内容を書くわけにもいきませんよね。
ときどきぼくが使う手としては予定調和を崩すやり方です。採用広報コンテンツの場合、多くは①入社動機→②仕事内容→③職場の特徴→④ビジョン、みたいな構成になりがちです。それはそれで安定して読みやすいのですが、あまりにもこればかりだと人数が増えたりすると若干ダレる。しかも知らない人の話の連続になります。
そこであえて③職場の特徴からはじめてみる。あるいは④ビジョンからスタートして最後に入社動機におとす、といった技を使うのは意外と有効だったりします。
とにかく、話をする人は無名の人。構成はもちろん、言葉選びなどの際にそのことをゆめゆめ忘れてはいけないなあ、といつもおもうのです。
伝えたいことより知りたいことを
採用広報である以上、伝えたいことが明確にあるのは当然。だからといって一方的に企業の宣伝みたいなインタビュー記事になってよいものかというと、それはちょっと寒いな…と思います。
できればここは、企業側のみに阿るのではなく、読み手が知りたいことは何かをしっかりと考えて、その上で伝えたいことを伝えるスタンスで臨みたい。これこそコピーライターがインタビューを作成することの一番の利点だと思うのです。
ほとんどのWebライター、またはライターは企業の依頼に沿って文章を書きます。どんなジャンルもそうでしょう。家電、食品、グルメ、自動車、エンタメ…企業側からのオーダーだけでない文章の場合でも、自分の感想などを挿入して構成されますよね。あたかも第三者のような立場ですが、それは企業と執筆者の第二者でしかありません。
しかしコピーライターという職業は商品や企業だけでなく、アホかというほど消費者、ターゲットのインサイトに入り込んでコンセプトを練るところから仕事がはじまります。ライティングは最後のフィニッシュに過ぎないのです(そのフィニッシュで命を削る側面もあるのですが)。
この違いは大きい。この違いをハッキリさせるためにぼくはコピーライターと名乗っているようなものです。
その観点からいわせてもらえば、伝えたいことも伝えますが同時に読み手が知りたいことってなんだろうか、というまなざしを大事にすべき。
採用広報コンテンツの場合、誰が読むのかというと、まずほとんどがその企業に少なからず興味がある人ですよね。企業じゃなくて業界かもしれない。そのあたりを一旦の大枠として、さらにスコープを絞ると求職者になります。入社したいと思っている人?いやいや。入社したいではなくて、どうしようかな、という感覚かも。
あるいは応募後に書類通過して、さて明日は面接、ということになってから読むケースもあれば、面接後に急に志望度が上がってあわてて読むこともありえるわけで。
つまりインタビュー記事で伝えたいことはいつ、どんな状態の読み手に伝えることが最も望ましいのかを最初に定義することが大事なんです。
そこが固まればこその取材内容になりますし、トンマナや強調すべき部分など構成も大きく変わってくるはず。
ね、結構大事でしょ?
その人のブランドを毀損しないこと
最後にお伝えするのが、その人のブランドをインタビュー記事によって毀損するようなことがあってはいけない、ということです。
どういうことか、例をあげてご紹介しましょう。
ある日、ぼくはネットベンチャーの人事にインタビューすることになりました。そのメディアは人事のインタビュー記事が集まっていて、ふだんなかなかスポットが当たらない彼ら彼女らの日々をリアルに、魅力いっぱいに伝えていこうという目的で運用されていました。
依頼主からインタビュイーについての情報をいくつかいただいたのですが、その中にその方のインタビュー記事があったんですね。
ぼくはそれを読み終えたとき、不遜にもこう思ってしまった。
「この人って、ちょっと、ノリが軽いというか、あまり考えが深い人ではなさそうだな…」
そうとれるインタビュー記事だったのです。そして、そういう方でも答えやすそうなレベルの想定質問を作成し、事前にお送りしておきました。
インタビュー当日。ぼくはその方の聡明ぶりに舌を巻きました。想定質問に真摯に答えてくださるだけでなく、関連資料まで用意して解説してくださったり、将来のビジョンも人事にしておくのはもったいないぐらい視座が高かった。
あれ?あのインタビューって、なんだったの?
大いに盛り上がったインタビューは、これは書く前からいい記事になる予感しかしない、とワクワクする気持ちをぼくにもたらせてくれました。それと同時に、既出のインタビューがまるで別人みたいに思えて仕方がありません。
仕事場に戻ってもう一度、件の記事を読み返していてふと気づきました。
これは、この記事のクオリティが低いんだ。ライターの仕事が雑というか、インタビュイーのインテリジェンスについていけていないからこんな消化不良で言葉足らずな文章になっているんだ。
そうして、あらためてこの仕事の恐ろしさに震えがきたものです。
やばい。俺たちインタビューを書くライターの腕次第で、インタビュイーの人格やスキルレベル、ブランディングまで貶めてしまうことになりかねない。
心して書かねば。
あだやおろそかにしてはいけないのだ。
ライターはインタビュイーの代弁者なのだ。
そう。
代弁者。
これもコピーライターという職業に通じるポイントでもあるのでした。
と、いうことでふつうのようでふつうではないが一般的にはふつうとされる会社員の方の代弁者になる、すなわちインタビュー記事を書くときに大切にしなければいけない注意点を3つご紹介しました。
ほかにも細かい話はいくつかあるのですが、まずはこの3つが無意識に意識できるようになることが大事かなと思います。
採用広報コンテンツは効率化やコストダウンの観点から内製化に向かっている、とも聞きます。もしかすると特段ライティングを仕事にしたことのない方も、ある日いきなりその任に就く可能性もなきにしもあらずです。
そのとき、今回ご紹介した3つの観点を思い出していただきたいなあ、と思っています。またこれを読んだ発注者側の方がいらっしゃれば、なんでもない事例紹介や代表インタビューの記事などもぜひ、コピーライターおよびコピーライター出身のライターに依頼してみてはいかがでしょうか。
きっと、ふつうのライターがこしらえるものより、目的を持ったシャープなテキストがあがってくると思いますよ。
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