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それでも、採用できない理由

日本中の求人広告制作関係者を勇気づけたいっ!というピュアな思いで連載を続けております、毎週月曜日のこちらのnote。あと少しで100回目を迎えるみたいです。まあ、よく次から次へと書くことがあるもんだ。

さて、今回は求人広告そのものというよりも選考プロセスに関わる話。

すごくいい求人広告を作っていたとしても、なかなか人が採用できないことってあると思うんですね。そんなとき「求人媒体オワタ」とか「金返せ」とか言わないで、少し冷静になって足元を見直してみてはいかがでしょうかというご提案でござるよ。

まずはいつものように、ぼくの体験談から…

会えばわかる。だがしかし

入社時は20人にも満たないベンチャーだったのにあれよあれよという間に上場し海外にも拠点を出し事業拡大のあげくリーマンショックでショックのパーになりながらも持ちこたえ、社員数数千名という業容にまで成長した某ネット求人専業の会社を「辞めよう」と思ったのは45歳のとき。

理由はいろいろめんどくさいので割愛しますが、求人広告で育てられた身としては求人広告で転職しよう!と奮起するわけです。

ところがですね、これがまあ、書類不採用の嵐。

応募しても応募してもぼくの今後のいっそうのご健勝とご活躍をお祈りされるんです。でもおっかしいなあ…とは思いません。

だって

  • 45歳配偶者有り

  • 上場企業の制作部門統括(立ち上げ)

  • 最大170名、40億の納品マネジメント

  • 年収はごにょごにょ800を超えるか

  • 求人広告+居酒屋店長+商品広告

これ、扱いにくいでしょう。一応、エントリー先としてはライティング業務を中心に絞っていったのですが、それでもなかなかポジションが微妙なんだと思います。採ったはいいがどうすんの?みたいな。

さらにライター風情にポン!と年間800マソ払う会社はございません。会社からしたらお前は芥川賞作家か?直木賞作家か?ってことになります。

もちろんぼくもライティングスキルだけでそれだけのお賃金をいただいているつもりもなく、採用教育、評価や社内活性化、ビジネスサイドとの協働スキームづくりなどさまざまな付帯業務あっての金額ということは自覚しております。

でもですね、そのことをいくらWebレジュメに書いたとて、そんな都合よくぼくのスキルやキャリアがスポッとハマる会社なんかないわけです。

ぼくはくる日もくる日も届く不採用メールを前に、こうつぶやいていました。

「会ってくれればわかるんだけどなーっ!俺の良さ!」

ま、しかし書類通過しないことにはどもならん。

そして途方もない勘違い

そんなある日、ぜひ一度お会いしたく…という天からの声が!ぼくはもうあわてて面接のアポを確定させます。と、同時に「どんな会社だっけ」とあらためてHPをチェックします。

するとメールの送り主の名字と、その会社の管理部門取締役のそれが同じ。はっはーん、なるほどな。ぼくぐらいの人材になるとアレだ、初回の面接からいきなり役員面接になるんだな。うん、わかるわかる。そういうことね。

ぼくは面接の30分前に渋谷ヒカリエ11階の男子トイレでネクタイを締め、髪型を整えます。え?オフィスがヒカリエ?違います。オフィスは宮益坂の脇を抜けた青学のほうにあるとのことです。

ま、でも渋谷のベンチャーですからそこそこスタイリッシュなんでしょ。

そうしてグーグルマップが指定するオフィスのビルに行くと。

ん?

なんだこの場末の雑居ビル。
なんかの間違いじゃないの?

ぼくは辺りをウロウロ。するとビルのエレベーターから若い子たちが笑いながら出てきます。エレベーター脇のプレートには目指す会社の名前がありました。どうやら間違いではなさそう。

ちょい低めのテンションで3階へ。エレベーターが開くと目の前に受付電話が。そしてなんだか狭いスペースにいかにも面接に来ました、みたいな男女がわらわらと押し合いへし合いしてます。

あれ?おっかしいなあ。
俺は役員面接だから別の場所でやるのかな?

他の候補者たちと待っていると、ドアが開いて小柄な女の子が出てきました。そして一人ひとりの名前を読み上げて奥のブースに案内していきます。そこにぼくの名前は当然…ありました。

なんと8人の合同面接。
みんなヤング。ぼくだけおっさんです。

すごい狭いブース、いまにも脚が折れそうな丸いパイプ椅子。あれ?

さっきの小柄な女の子は自己紹介します。確かに取締役と同じ名字です。しかしその子はまったく取締役でもなんでもない採用担当者。

そうです、ぼくは面接前に自分だけ特別扱いしてもらえると勝手に思い込んでいたんです。なかなかのバカです。

勘違いの魔法が解けるとき

さらに勘違いしているぼくを屈辱が襲います。
なんと、ガリ版刷りのプリントが配られて、いまから30分で問題を解いてください、というではありませんか。

はあ?なんでいまさら俺が?!
バカバカしい、帰るか。

と、一瞬にして逆上しかけました。

プリントには漢字の読み書き、正しい助詞を選ぶ選択問題、Xの値を求めよという計算式、分解されたサイコロを組み立てて右に3回左に2回転がした時の一番上の面はいくつか、財布の中に5000円冊が一枚と1000円札が三枚…みたいな応用問題が並んでいます。

それらの問題を眺めていたら涙が出てきました。

しかしすぐに気持ちを取り戻します。

バーカお前なんかいまの会社の看板引っ剥がしたらこんなもんよ。市場価値なんかゼロ以下だ。せっかくこうやってテスト受けるチャンスもらったんだから四の五の言わずにやれよな。こんなのお前のこれからの転職活動の序章だよ序章。こっからはじまんだよ。やれ!

なんということでしょう、ぼくはいつの間にか「そこそこいい会社の偉い俺様」という恥ずかしい座布団の上であぐらをかいていたんです。少なくとも精神的に。

そこからはがんばりました。漢字書き取りはともかく方程式なんかは必死に計算して、なんども検算して。ひさしぶりに鉛筆と消しゴムでプリントがグチャグチャになりました。

そしてテスト終了後は質疑応答。ぼくの隣の女がなんだかやたら労働基準法を持ち出してあれこれ聞いています。ぼくはひとつだけ質問しました。

「あの、HPを見たんですが、管理部の役員の方の名前が…」

「あ、そうなんですよ!まったくの偶然で私と同じなんですぅ、うふふ」

「そ、そうなんですね!あはは」

「そうなんです、うふふ」

「あははは」

と、いうことで勘違いバカ野郎の一次面接は無事終了。手応えはまるでありませんでしたが勘違いの魔法から解けたのが何よりの収穫。ちなみに労働基準法女は雑居ビルを出た瞬間、ぼくに名刺交換を持ちかけます。

そして自分は労働関係の印刷物を扱う会社の人間だ、ときどきこうやって個人的に現場の実態を調べている、この会社は間違いなくブラックだから選考は断ったほうがいい、と言って夜の宮益坂に消えていきました。

ぼくは、ふうん、と思ってその名刺をくしゃくしゃにして捨てました。

何がいいたいかというと

あれです、最近は特にリモート面接が定着してしまい、一次から二次ぐらいまではディスプレイ上でのコミュニケーションになっていますよね。

だからよけいに、ということなんですが、リアルな接点の作り込みはかなり重要です。

別に豪奢な面接スペースをつくれとか、WeWorkみたいなシャレオツな空間を用意せよと言うわけではありません。それだけのために特別感を演出するのは、ぼくは逆に反対論者です。

そうじゃなくて、せめて清潔で快適な面談の場を整備する。訪れた応募者のテンションを上げないまでも下げることはないだろうと思うんです。そのためにできる限りのことをする。

それが応募者へのせめてもの礼儀ではないでしょうか。

たとえばわかりにくい路地裏にある雑居ビルならその案内をメールで行なうであるとか。築年数が相当経ってる建物ならそのことを予め伝えておくとか。同時に何人も面接するのであれば前もって断っておくとか。

そういうところの整備に気を行き届かせることもまた、採用成功には欠かせないファクターだと思います。

もしあなたが作る求人広告が素晴らしいもので、それでも採用に至らないというクライアントがいたら、ぜひ後工程におけるUIというかUXというか、そういう接点を一から見直してみてはいかがでしょうか。

あ、ちなみにその渋谷の会社には年収300万円下げて入れてもらってかれこれ8年になります。

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