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【詩】エンドレスワルツ乃至は三拍子の軍歌

エンドレスワルツ乃至は三拍子の軍歌

エンドレスワルツ乃至は三拍子の軍歌

              どこにいる、どこにいる 罪は   阿部薫

紙くずみたいに意味がころがり
音が崖っぷちから身を投げる
ここにあるのはどこにもない言葉だ

オレたちは病院の
 もちろん瘋癲ふうてんのだがね
そばの唯一の景色である海岸を
 もちろんそれは絵画ではなく
昨晩落成の新国会議事堂に向かってでもなく
離婚調停のための家庭裁判所の方にでもなく
歩いていたんだ
ところでルソーは
 もちろん露出癖のある変態思想家の方だが
黄昏という音楽を知っていたのかな
おわりのないこの海岸線は
 もちろん夕暮れの波にきまっているのだが
オレたちの捨ててきた写真機や人体実験グッズなんかを
うちあけばなしのようにうちあげる

おれとお前は
もちろん
雌雄の一対の別人のおれたちのことなんだが
憎み合っても 互いに自分の鏡に
互いの罰則をうつしあって抱き合い
うめきあうふりしかしていなかった

ああだれか椅子を
この海岸の暮れなづみを思考するための
ああだれかハーモニカのようにふけるサックスを
この海岸の葬列を哭くための
ああだれか
あの瘋癲病院にいるおれたち乃至はお前らに向けて
てをふるための義手を

さあ、
この海岸に打ち上げられた野生種の骨たちを
その上に朝の雨のように降り落ちた人の雨を
残り少ない夕陽でとむらおう
ここでは言葉なんてものは邪魔なんだ つまり
ネアンデルタール人の野菊のかわりに
瘋癲のDNAをリンカネーションのごとく引き継いで
我々は、もちろん生物の過激派たるわれわれなのだが
我々は
ひとりで
沈まない夕日があの水平線に沈むことを
待ち続けて
おわりのない無言舞踊を
無論、ヘルメットを被り
理論武装は解除せずにだが
やらざるをえない
ということだ

罪なき秋の罰則
罰なき春の罪禍
秋を待たない夏の穀物
春にならない冬の太陽
たらいまわしの季節が
まるごと黄昏れて
そして彼岸を悲願して
俺に三拍子の軍歌をひけと
命じる

吹けば
ハーモニカ
ブルースのようなエンドレスワルツ
たそがれ
黄昏
誰そ彼
たそがれ

    ※阿部 薫・・・サックス奏者(1978年没)

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