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【詩】小町幻想

 

小町幻想

  
 はなの色はうつりにけりないたづらに 
            我がみよにふるながめせしまに  小野小町

ほほえんでみると
誰よりもうつくしかった

拗ねてみると
誰よりもあいくるしかった

いろんなをとこが
わたしを抱きにきた

無垢なる恋に飽き
自らの手管に溺れ
知恵の虚しさにくちびるを噛む日々
蛇の勝ちほこった笑い声が
十六夜の山あいに谺し
花の雨を降らせる

どれだけの生贄が
恋などというつまらぬものに
捧げられてきたことか

あっという間の人生
あっという間の春
あっという間のさくらいろの肌

触れずに朽ちてなお
触れずに朽ちてなお 深草の
狂い乱れて舞い散らす幻の花

見事な嘘は
鏡を報いとし

ああ   それはすべて散る花の
無常が教えたわが身世の
なれの果ての
卒塔婆
なの


ずいぶん前になりますが、謡曲の「卒塔婆小町」をたまたまテレビで観たとき、百人一首の「花の色はうつりにけりな~」という小町の歌がとても真に迫って感じられてきました。
 「卒塔婆小町」はYouTubeでいつでもどこでも観られます。便利な世になりました。

 朽木の卒都婆に腰掛けている乞食の老婆
 かつて絶世の美女と謳われた小町の今の姿
 旅の僧を相手に美貌を誇った往時を懐かしみ、
 老いを深めた今の境遇を嘆き、狂乱状態となってしまう
 その狂乱は百夜通いの深草少将の怨霊のしわざ
 不時着のままに終わった彼の愛の亡霊が小町に取り憑いたのです
 すさまじい執念というほかありません

  シテ (小町)「あら苦 し目まひや。」
       地      「胸く るしやと悲しみて。一夜 を待たで死し たりし。
                                 深草の少將 の。その怨念が附き添ひて。
                                 かやうに物 には狂はするぞや。」

 烏帽子をつけて深草少将の格好になった小町が、少将の百夜通いの様子を再現するシーンは圧巻。胸に迫ってきます。

  YouTube⇒ Minakata Kunio 能 卒都婆小町 その3


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