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トーハクの特別展『やまと絵』で、「白描画って、いいよね」って思ったお話

先日、東京国立博物館(トーハク)で開催されている特別展『やまと絵』へ行ってきました。特別展『やまと絵』へ行くのは、2度目です。1度目は前期展示を見に行ったのですが、後期にのみ展示されている、大阪の天野山金剛寺所蔵の国宝《日月四季山水図屏風》が、どうしても見てみたくて、閉会間近いなか、訪ねてみました。(『やまと絵』展は今度の日曜日で終了です)

《日月四季山水図屏風》も素晴らしかったのですが、まぁ混んでいたこともあり、作品をじっくりと見ていくような雰囲気でもありませんでした。《日月四季山水図屏風》を見てから、展示ケースの近くの人混みから少し離れて、散歩するように展示室を巡りました。しっかりと近づいて(近づけて)見たのは、全作品の中で1割くらいだったと思います。その時にですね……強烈にググっとくる何点かの作品と、出会うことができました。

一つは、鎌倉時代 13世紀の《伊勢物語下絵梵字経》奈良・大和文華館蔵、もう一つが、その隣に展示されていた同じく鎌倉時代 13世紀の伝冷泉為相筆《源氏物語絵詞 浮舟・蜻蛉》愛知・徳川美術館蔵です。

いずれも白描(白描画)と呼ばれる作品。白描とは、著色されていない、パッと見た感じでは「これは練習ですか?」という雰囲気の絵。なのですが、《源氏物語絵詞》をよく見れば、その絵は、細くて繊細な線で家の柱や人の表情、着物などが描かれているのが、いとをかし……なのです。色に目移りすることもないので、線が際立ち、線が命なのですが、その線はいわゆるスケッチのように何本も引かれるわけではなく、それぞれの対象物を描くのに最小限の線だけで描きました……といったシンプルさです。その線の一本一本には迷いが一切感じられず、緊張感が感じられてもおかしくないはずなのに、全体としては堅苦しさもなく、むしろ柔らかい雰囲気なのに、ググッときたのだと思います。

さらに《伊勢物語下絵梵字経》については、伊勢物語の絵が「下絵」になっていて、その上には、梵字経がブワァ〜っと版刷りされています。その梵字経の文字の中から、伊勢物語の絵が垣間見るのですが……はじめは梵字が目につくのですが、じ〜っと見ていると男性や女性を描いた、これまた細い線が徐々に浮かび上がってくるんです。おもしろさとありがたさが一遍に体験できる絵巻でした。

そのほか、今回「おもしろいなぁ」と思ったのが《年中行事絵巻(鷹司本)》でした。おそらく「巻第十一」が描かれていたのだと思います。原本は常盤光長が描いた《年中行事絵巻》なのですが、この模本を描いた人は、だれだか分かりません。

下の画像データは、同じく《年中行事絵巻》の模本。おそらく特別展に展示されていた「鷹司本」とは異なり、国立国会図書館で見られる、谷文晁が出版者として記されているものです。

藤原光長 繪『[年中行事絵巻]』[11],[谷文晁] [写],[江戸後期]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2591109 (参照 2023-11-28)

特別展では、おろらく上のような場面が展開されていたかと思うのですが、定かではありません。ただ、下の拡大図にあるような“馬”の絵が、なぜだかおもしろいなぁと思ったんですよね。これも、著色されずに白描の状態だから、おもしろいと思ったんじゃないかなと。そういえば、同じく『やまと絵』展に展示されている《鳥獣戯画》も、白描ですよね。今回は、ゆっくりと見られず、ひとの肩越しからチラッと見ただけでしたが……。

藤原光長 繪『[年中行事絵巻]』[11],[谷文晁] [写],[江戸後期]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2591109 (参照 2023-11-28)

特別展『やまと絵』は、今週で終わってしまいます。ちょっと寂しい気もしますが、人気の展覧会が終わると、常設展というか(トーハクでは)総合文化展に落ち着きが戻るので、早く終わって欲しいという気持ちもあります。現在、本館で展開されている、特別展『やまと絵』関連の、特集展示も終わってしまいますが……まぁぶっちゃけ、総合文化展には、いつでも『やまと絵』の多くの優品が展示されているんですよね。最近は、本館が混んでいるので、東洋館などへ行く機会が増えていますが、特別展が終わったら、また本館へ戻って、それらの「やまと絵」を、じっくりと見て回りたいと思います。

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