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伊藤若冲・円山応挙・呉春を当たり前に並べるトーハク展示 @東京国立博物館④
先日「今季トーハクの江戸期美術が豪華過ぎて……ドキドキするレベルでした @東京国立博物館」というnoteを記しましたが、今回は、その第4弾になります。タイトルに統一性がないので、シリーズだって分かりづらいですけどね……まぁそのへんは気にしません。
今回は、伊藤若冲さんと円山応挙さん、それに呉春さんが一列にズラッと並んでいるんですよ。こんなのを一度で観られていいんですか!? という感じですが、7カ月前にも同じように「集結!」みたいなことになっていたので(↓)、定期的にそうなるよう展示しているのでしょう。
そして、今回は右から伊藤若冲筆《松梅孤鶴図》、円山応挙筆《雪中老松図》、呉春筆《戴勝勧耕図》というラインナップでございます。↓
一番右の伊藤若冲さんの作品から、じゅんぐりに観ていきましょう。
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■伊藤若冲「卵に棒を突き刺したような後ろ姿の見返り鶴」
まずは、以前から本物が見たいと思っていた、伊藤若冲さんの《松梅孤鶴図》です。見たいと思ったきっかけはは、トーハクで毎年新年に開催されている企画展『博物館に初もうで』の、何年か前のポスターに使用されていたから……と思ったのですが、検索しても出てこないから、別のポスターだったのかもしれません。
解説パネルにも「卵に棒を突き刺したような後姿の見返り鶴」と書かれている通り、少なくとも絵や写真でよく見かける一般的な鶴と比べると、異様です。また、その嘴(くちばし)も、実際よりも異常に長いように見えます。
たしか鶴の部分だけがトリミングされて使われていたポスターを見て「なにこれ?」って、インパクトを受けたのは、今回も同じでした。
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でも、実物を見て感じたのは、鶴を含む全ての線に、まったく迷いがないこと。鶴自体を描く細い線にしろ、スーーっと、切れ目が分からないほどです。松の枝や葉にしても、細い筆や刷毛のような筆を使い分けながら、ザッザッザッと勢いよく描かれています(わたしの推測)。素人のわたしからすれば……もしかするとプロからしても……神ワザです。そうした描法を、解説パネルには「強烈な造形」と表現されていますが、同意するしかありませんね。
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さて、同じく解説パネルでは「若冲は、京都大雲院に伝わる明時代の『松上双鶴図陳伯冲筆』を原図に用い、極端なデフォルメを加えて斬新な作品に再生させました」と記しています。
その手本にしたという陳伯冲の《松上双鶴図》を見たいと思いましたが、大雲院が|秘蔵しているようなので、ネット上では見つけられませんでした。ただし、どんな絵だったかを想像できる材料(絵)を見つけました。
《松梅孤鶴図》と同じく、伊藤若冲さんが模したという『Pair of Cranes and the Rising Sun』……日本風に言うと《旭日双鶴図》ですね。なぜ英字タイトルを先に書いたかと言えば、クリスティーズのサイトで見られるからです。Price realised=落札価格は159万ドル……っていくらだ?……2億1400万円だそうです。
という金額の話ではなく、本当に《旭日双鶴図》は、陳伯冲の《松上双鶴図》を模したものなのか? と思うのですが、同ページの伊藤若冲や作品自体の解説文……Lot Essay……を読むと、下記のように記されていました。
The painting shown here is based on a hanging scroll in the Daiun-in Temple, Kyoto, by the sixteenth-century Chinese artist Chen Baichong. The Chinese model is more realistic and literal, with a distant waterfall suggesting spatial recession. Jakuchu, on the other hand, has an innate sense of abstraction and his work is bolder, more modern, with a striking originality.
ここに描かれている絵画は、16世紀の中国画家、陳伯冲の大雲院寺の掛け軸に基づいています。中国の陳伯冲の描いた原型はより写実的であり、遠くの滝が空間的な後退を示唆しています。一方、若冲は抽象感覚に熟達しており、その作品は大胆で現代的であり、印象的な独創性を持っています。
陳伯冲《松上双鶴図》→伊藤若冲《旭日双鶴図》→伊藤若冲《松梅孤鶴図》
上記のような流れで描かれたと仮定すると、徐々に簡略化……簡素化されていったという一面があるようです。分かりやすいのは、陳伯冲《松上双鶴図》に描かれていたという「滝」が、伊藤若冲《旭日双鶴図》では省略されています。さらに2羽だった「鶴」も、伊藤若冲《松梅孤鶴図》では1羽になり、「旭日」も省かれました。最後まで残った要素は、「鶴」「松」それに「梅」です。
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クリスティーズのサイトで観られる伊藤若冲《旭日双鶴図》では、一見しただけだと見落としかねない「梅」ですが、こちらの《松梅孤鶴図》では、鶴や松と同じくらいに存在感を増していますね。松鶴梅のバランスが良くなっている感じすらします
それにしても、この「鶴」の姿を、ぷくぅ〜っと描いたのは、なぜだったんでしょうか。たしか北海道には、冬になると、こうやって羽を雪だるまみたいに膨らませる鳥がいた気がします。鶴も、寒かったんでしょうか? でも、梅が咲いているくらいだしな……。これは「模した」というか「パロった」という印象すら受けます。より印象的で見入ってしまうのが、よりシンプルに描かれた方だというのも、おもしろいです(あくまで個人の感想ですけど)。
■円山応挙「平易な画風がよくあらわれた作品」
伊藤若冲さんの鶴の絵から左に目を移すと、そこには円山応挙さんの《雪中老松図(せっちゅうろうしょうず)》が架かっています。伊藤若冲さんの鶴のインパクトが強かっただけに、円山応挙さんの松は……地味な感じです……。そういう意味で言っているのでは無いはずですが、解説パネルにも「平易な画風がよくあらわれた作品」と記されています。
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ただ、こちらも……写真では全く分かりませんが……特に構図の上部の手前に垂れ下がる松の枝葉などは、作品を前にすると本当に立体感を感じます。解説パネルでは、次のように記されていました。
墨色の濃淡によって松の幹と枝の立体感をあらわし、背景に薄く金泥はを刷いて、絹地の白さを生かし枝上の雪を浮かび上がらせています。
せっかくですので、昨年(2022年)の同じ時期に展示されていた円山応挙さんの掛け軸も貼り付けておきます。
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円山応挙さんが44歳の……11月に描いた作品
桜の咲いているはずもない季節に描いた桜とうぐいす
ちなみに円山応挙さんですが、かわいい子犬を描くのも得意だったんですよ。もう少ししたら、また観られるかもしれませんね。↓
■呉春……少し違和感を感じる「桑の木の下に鳩」
最後に呉春です。なんとなく、わたしのキャラ付けでは、3人の中で最もチャラい性格だったんじゃないかと……なぜかって、司馬遼太郎の『天明の絵師』を読んだからだと思うんですけどね。
さて、今回の展示品についてです。
作品名は、《載勝勧耕図(たいしょうかんこうず)》です。ずいぶんと難しいタイトルですが、解説パネルによれば下記のような意味だそうです。
「戴勝勧耕(たいしょうかんこう)」とは七十二候の一つで、旧暦3月下旬ころ。文字の意味は「戴勝(カッコウ) が鳴き、農作業を勧む」
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ただし同作は「桑の木の下に鳩」と、いたって身近な自然が描かれています。
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とはいえ、わたしの身近では桑の木を見かけることもないので……どこかで見ているのかもしれませんが……それほど身近とも言えません。なのですが、この呉春の枝葉を見ると、とても生生しいです。一見すると植物標本にさえ見えますが……この絵……なんか構図に違和感があるなと思ったのですが……これって、木の上から地面の鳩を見ているアングルですよね……だから違和感を感じるのかと。呉春からすると、少しチャレンジングなアングル設定だったのかもしれませんね。桑の木と鳩をそれぞれ見ると、すごく良いんですけど……やっぱりいっしょに見ると、ちょっとヘン……。
■森狙仙「動物の迫真の描写は狙仙の真骨頂」
書くのが疲れてきましたが、あと一作を……。
森狙仙(そせん)さんという方が描いた、《秋山遊猿図》です。元は襖絵だったという2枚の絵。解説パネルにもありますが、猿と鹿の描写がすばらしいです。
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山中に遊ぶ日本猿や鹿たち。松樹や岩は円山派の表現ですが、動物の迫真の描写は狙仙の真骨頂。毛並みの描写が圧倒的です。もと襖二面分で、両端の引手の痕を金砂子で隠しています。右下の落款「狙仙筆」に「狙」の字を用いており、筆者の還暦以降の作であるとわかります。
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見てください、このお猿さんたち。特に親サルの進行方向をカッと見ている目……眼力ですよ。その親サルの後ろ足に抱きつく子サルが愛らしいです。
一方で、左隻(左側)には鹿が2頭。夫婦でしょうかね? ちょっとメスの方の目が、可愛らしく描かれ過ぎている気もしますがw 毛の描き方などは見事です。
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松の描写だって、すごいです。これだけ大きな松を、集中力を絶やさずに最後まで描き切るって……絵師さんって、やっぱりすごい……。
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今回は、以上となります。
<関連note……『トーハクでドキドキ』シリーズ>
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