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葛飾北斎が信州小布施のお寺に描いた、圧巻の天井画を見てきました!

昨年(2022年)は、長野県の小布施おぶせという街を訪ねる機会を得ました。小布施に行った主な目的は、いずれも温泉でした。そこには穴観音あなかんのんの湯というすばらしい日帰り温泉施設があるんです(大人650円)。そのため、はじめはピンと来なかったのですが、その街が北斎推しだということは、すぐに分かります。そこで、一緒に行っている家族&親戚が、スイーツを食べたいというのを聞いて「それじゃあ、スイーツを食べている間に、信州小布施おぶせ 北斎館へ行って来たい」と願い出たんです。その時の様子を記したのが、9月にnoteに記した『小布施おぶせで、北斎の画力を体感!』でした。↓ これですね。

たいていの人は、この『信州小布施おぶせ 北斎館』とセットで行くのが、同じく小布施おぶせにある岩松院がんしょういんです。まぁお寺なのですが、本堂の天井に葛飾北斎が描いた大きな鳳凰の絵で有名なんです。

『北斎館』へ行った時に、岩松院へも行きたいなぁと思ったのですが、なにせ家族&親戚を、北彩館の近くにあるカフェ『|小布施堂《おぶせどう》』で待たせてしまっていたので、言い出せませんでした。

というこで2022年の年末(12月30日)、またまた小布施の穴観音の湯へ行き、女性陣が温泉+マッサージをするというので、「しめた!」と思い、その時間に一人で岩松院へ行くことにしました。

■『八方睨みはっぽうにらみ鳳凰図』とご対面

岩松院がんしょういんです

言い方が悪いかもしれませんが、よくある田舎のお寺というおもむきです。“よくある”というのは、“親しみやすい”と言い換えても良いです。古くから地元の人たちに大事にされているお寺なんだろうなと、境内の中に入ると感じます。

岩松院がんしょういんの本堂です

立派な山門をくぐると、朱色の屋根の立派な本堂がド〜ん!と建っています。ちなみに境内に入ってお参りするだけであれば無料です。ただ、今回は北斎の描いた天井画を観たかったので、拝観料500円で本堂の中にお邪魔させていただきました。

売りは天井画だけなのかなぁなんて思っていましたが、この岩松院さんって、福島正則がよくお参りに来ていたそうで、いくつかの遺品が飾られていました。そのほか、江戸時代以降の大事なものが並んでいて、本堂の中は(これまた言い方が悪いかもしれませんが)ちょっとした博物館のようでした。

そしていよいよ本堂の真ん中にある部屋へ入り、天井を見上げました。

すると……なんて形容したら伝わるのかな? なんて考えたのですが、うまい言葉が浮かびませんでした。ただただ、北斎の描いた『八方睨みはっぽうにらみ鳳凰図』がですね、ぐわぁ〜んと視界に入ってくるんです。天井の鳳凰が迫ってきて、ひととき呆然とするというか、体を動かせなくなるような感覚を味わいました。

やっぱり大きいっていうのは偉大ですね。大きいっていうだけで、迫力が違います。そのうえで、約175年前に描かれたのにも関わらず、鮮やかな色が残っていることに驚きます。

さらに、この『八方睨みはっぽうにらみ鳳凰図』は、北斎が亡くなる1年前の89歳頃(1848年)に描かれたものだとされています。その歳になっても、なお画力の衰えが全くみられず、むしろ迫力を増しているようにも思えます。

本堂の天井画のある場所では、(おそらく)住職による、10分弱の『八方睨みはっぽうにらみ鳳凰図』についての解説が聞けます。その解説によれば、鳳凰図の大きさは21畳。12枚のヒノキの板に描かれているといいます。

八方睨みはっぽうにらみとは、どこから見ても、鳳凰から睨まれているように見えるから……鳳凰が八方(どこもかしこ)にも睨みをきかせているから……その名前がつけられたと言います。

あとで質問させていただいたのですが、鳳凰図が描かれたのは、既に現在の本堂の完成から約20年が経った頃だといいます。葛飾北斎は、まずは天井の寸法を測り、12枚の板に鳳凰図を描き、その板を本堂の天井に設置したということです。

話をうかがったのは、たぶん住職さんだと思うのですが、その方によれば……葛飾北斎は、小布施でのアトリエで絵を描き、完成した絵を岩松院に運んできたのではないかと思います……ということでした。そのアトリエとは、冒頭で記したカフェ(和菓子屋)・小布施堂のあるあたりです。住職は「歩いて30分ほど」と言っていましたが、いちおうGoogleマップで調べると、たしかに徒歩30分弱です。

「毎日、30分の道を歩いて通うのは難しかったんではないでしょうか。ですので、おそらくアトリエで描き、完成したものをこちらに運んできたと思います」と住職がおっしゃられるのを聞いて、「昔の人なら30分程度なら歩けるのでは?」とも思いましたが……やはり90歳手前の年齢で、毎日30分の道のりを歩いてくるのは、難しいのかもしれないな……とも思い始めています。

ということで、はじめは「せっかく小布施に来るんだから、記念に『八方睨みはっぽうにらみ鳳凰図』も観ておきたいよね」なんていうミーハーな気分だったのですが……いやぁ、これは本当に観に来てよかったなと思っています。

なんだか葛飾北斎を知れば知るほど、彼の偉大さを思い知りますね。

■『八方睨みはっぽうにらみ鳳凰図』の高精細複製

以下は2023年1月4日に追記。

岩松院の『八方睨みはっぽうにらみ鳳凰図』は、撮影不可なので、わたしのカメラには残っていません。ただし株式会社NTT ArtTechnologyなどが300億画素のデジタルデータとして保存しています。また同データを活用して、鳳凰図を実物大で再現して展示した展覧会「Digital×北斎」特別展 「大鳳凰図転生物語」 − 小布施とHOKUSAI 神妙に達していた絵師 –が、昨年の6月に東京都新宿区にあるオペラシティで開催されていたそうです。

なんで誰も教えてくれなかったんだぁ……と言う感じですが、その頃にはまだ本物を観たこともなく、北斎への思い入れもそれほどでもなかったので、知っていたとしても行かなかったかもなぁ……。今なら絶対に……とまではいかないかないけど……行っていましたね。

岩松院天井絵原図「鳳凰図」(岩松院所蔵)プレスリリースより
岩松院本堂天井絵「鳳凰図」(岩松院所蔵)プレスリリースより

同展覧会では、天井絵「鳳凰図」を再現したほか、岩松院にある天井絵の原図の複製、それに東町祭屋台天井絵「鳳凰」と「鳳凰図屏風」(ボストン美術館所蔵)も展示されていたそうです。

ボストン美術館蔵の「鳳凰図屏風」(部分)

これら葛飾北斎の鳳凰図を同時に検証したことで、岩松院の天井絵『鳳凰図(八方睨み鳳凰図)』は、一定の方向から光をあてると絵が光ることが分かったと言います。これは、葛飾北斎が“光らせる”ことを意図して用いた、線描の手法が見られると言います。

そのほか、光の反射時の見え方を考慮して行なったと考えられる、原画からの変更点も見えてきましたし、もしかしたら天井絵は未完成だった可能性も考えられるとしています。すでに終了していますが、今後もどこかで見られることでしょう。(トーハクに呼んでほしいな)

ちなみに展覧会の基本情報は以下の通り(終了しています)
・タイトル:「Digital×北斎」特別展 「大鳳凰図転生物語」 − 小布施とHOKUSAI 神妙に達していた絵師 –
・会期:2022年6月2日(木)~7月3日(日) 木曜日~日曜日開催
開催日程詳細 https://www.ntt-east.co.jp/art/hokusai-special/
・時間:11:00~18:00(入場は17:30まで)
・会場:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] ギャラリーA(東京オペラシティタワー4階)
・入場料:一般・大学生 1,500円

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