見出し画像

布は手間のかたまり~名古屋「トヨタ産業技術記念館」で産業革命を理解する

歴史の授業で、奈良時代の税「租・庸・調」を習いましたよね。そのうちの調。布が税として納められていたと聞いた時、
「なんで布なんかが税?」
と思いませんでしたか? 私は思いました。

その意味がよくわかったのが、名古屋にあるトヨタ産業技術記念館に行ったときです。
布って「手間のかたまり」なのです。

・最初は糸

糸を作るには、繊維を引き伸ばして、縒りをかける(ねじる)ことで、丈夫な糸にしてゆきます。

古代から中世(12世紀くらい)までは、手で引っ張った繊維におもりを付けて回すスピンドルという形式。綿や羊毛、麻などの繊維で40~50センチほどの糸を作るのに数分かかります。中世、紡ぎ車が発明されて速くなったものの、それでも1分間あたり数メートルが限界。

・糸を布にする

近代まで使われていた織り機は、鶴の恩返しの絵本に出てくるあれです。
機織りのシーン使われる擬音「キー・カラ・トントン」は、
・キー → タテ糸を動かしてヨコ糸を通す道を開ける
・カラ → ヨコ糸を巻いた杼をタテ糸の間に通す
・トントン → ヨコ糸を叩いて詰める

という工程を示しています。つまりキー、カーラ、トントン1巡で、糸1本分の作業。
布一反(12~13メートル)を織るのに、3万回から4万回ヨコ糸を通すと言いますから、布になるまでに一週間、ものによっては一ヶ月かかっていました。
糸を作る手間と、布に織る手間。この手間を人件費に換算すると、Tシャツ一枚が数十万円くらいになるという試算もあるくらい。

下は、トヨタ産業技術記念館の動画ではありませんが、昔の機織りはこんな感じだったということで。

・そして産業革命が起きた

紡績機と、織機が変化するのが産業革命ですが、その意味を実感します。
一人でちまちま作っていた糸が、機械の発明で何十本も一気に紡げるようになる。そこに動力が付いて、人力の数百倍の製造ができるようになりました。

ちなみに展示してある最新の紡績機はもっと速い。

織り機も、有名なケイの飛杼で数倍の速度に。さらに、動力がついて加速してゆきます。

昔、ワットの蒸気機関の話を聞いても
「そうか、動力ができたのね」
くらいの感じでしたが、こうして機械が動くのを見るとその意味がよくわかります。そうして普通の人が何着もの服を買える価格にまで引き下げられます。産業革命は、貧富の差や労働の過酷化などの面で語られることもありますが、布を一般人にまで普及させる力でもありました。

下の動画は現代の織り機。一分間に1000回ヨコ糸を通せるので、布一反が30分で折れる計算。


・展示の中に、嘘が一箇所ある

本当に、全ての中高生に見て欲しい博物館ではあります。授業で聞くだけではわからない産業革命の意味が、本当に体験できるところです。

ところで、この博物館の展示で、一箇所だけ嘘があります。それは入口に書いてあるコース案内で、見学時間の目安を45分と書いてあるのですが、そんなのですむわけがない。繊維館だけで半日いましたよ。
見学される方は、ぜひ時間をたっぷりとって、お楽しみください。
ホントにおすすめです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?