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アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート:本の紹介(ネタバレ少)

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インパクトのある表紙。およそまともな本には見えない。

アウトサイドの文字の元、日の丸に富士山と、紹介する内容が我が国・ニッポンで起こっていることだと主張してくる。イキイキとした老人たちが「俺はここだ」と言わんばかりに存在をアピールしている。

「水道橋博士、絶賛!」の帯がかえってうさん臭さを放つ本書。出会ったのは、中野ブロードウェイのとある書店だった。2018年初版の本書は、全編カラーの代わりに荒い紙で製本されている。こだわりと哀愁、そしてここで買わなければもう一生出会えないだろうという、謎の強迫観念がぼくに迫ってきた。金額を確認すると、1,980円。ためらいと深いため息とともに、2,000円をレジへ差し出した(釣りもしっかり握りしめた)。

あなたのご近所にもよくある、と言えば語弊はあるが、もしかしたら、知らない街や通りすがりの民家、あるいはすれ違った人で、「?」と思うようなソレを見かけたことはないだろうか?およそ、一般的な美的感覚や常識的なご近所付き合いでは測れない、強烈な個性を放つ。ごみ屋敷や廃人とは違う。観察すると、理解しきれないが、なにやらルールがあることに気づかされる。これは表現であり、センスの上で成り立っているとわかる。怪しくて気軽に近寄れないが、なんだか気になる。人だけで言えば大阪界隈に多い気もしないでもないが、住宅で言えば全国に位置しているのではないだろうか。本書に掲載は無いが、ぼくの記憶では、阿寒湖から女満別へ抜ける道すがらや、川口市の住宅街でも見かけたことがある。

本書ではそんな、一般人の人知を超えたソレを「アウトサイダー・アート」として紹介している。ヤバさばかり強調しているが、わざわざ文字化してnoteで紹介している。ぼくは本書が好きだ。

さて、本書では、本当に様々且つ全国津々浦々のアウトサイダー・アートが紹介されていて、作品自体は「おお、案外好きかも」と思えるものがあるかもしれないし、ないかもしれない。被写体にしたい!と思うカメラマンはいると思うし、動画や番組にしたい!と思うディレクターもいるだろう。だが、ぼくが最も気に入ったのは、その「アウトサイダー」たちが笑顔で写真に納まり、彼らの半生や作品への思いを語っている、文章だ。ぼくはシンプルに、これまで日の目を浴びてこなかったであろう、全国のアーティストたちの数奇な人生が面白かった。写真が大きく面積をとって、説明は数行のみだったりするのだが、その数行が圧倒的に個性の塊なのだ。さながら、フジテレビの「ザ・ノンフィクション」に登場する人々のようだ。

まともに本書を読むと、全く意味不明だと思う。しかし、Amazonを見ると、カテゴリーは「アート・建築・デザイン作品集」の他に「倫理学入門」にも分類されている。さすがはAmazonだな、と妙に納得した。道徳は説けないが、ダイバーシティ(多様性)を説明するには有用、かも、しれない(ぼくは使わないが)。

彼らのアートや表現はどれも個性的であり、モノによっては早すぎただけだったり、理解ある仲間や指導者に出会えなかっただけかもしれない(出会って上手くいくかは知らないが)。でも、アートとは案外「そんなもん」であって、特に先端アートや現代アートに価値を見出すかどうかは、所詮は好き・嫌いが大きく由来するのではないだろうか。作ってる側も後付けのストーリーはいくらでも作れるが、制作意欲はなんとなくのパッションだったりすることは往々にしてよくあるだろう。だが、その源泉には彼ら自身の人生や価値観が反映される。つまり、彼ら、アウトサイダー自体が最高の作品であり、本書はその人物に切り込んだ、本自体が「先端アート」であるとも言えなくもない、かもしれない。本文を打ち込んでいる今、ぼくはアウトサイダーではないのでわからないが、一歩間違えれば彼らの様な自由な表現をはじめるかもしれない。多分ないけれども。つまり、このくらいの距離で、本として読めるから面白いのであろう。

本書の著者・櫛野 展正(くしま のぶまさ)氏は、日本唯一のアウトサイダー・キュレーターと称し、知的障害者福祉施設職員として働きながら、キュレーターとして活動したのち、独立してアウトサイダー・アート専門ギャラリーを運営したり、美術手帳に連載を持ってみたり、TV出演をしたりと、活動の幅をぐねぐね変化させている。障害者のアート作品や小物を専売しているお店(吉祥寺 マジェルカ 等)や展示はいくつかあるが、何となく、この世界観と近いものを感じてならない。櫛野氏の職員時代の感性はこういったところにも紐づいているのだろうか。さほど興味はないし裏どりをする気もないが、妙に納得してしまった。

ぼくが小学生時代、未熟児で知的障害がある同級生と大変仲が良かった。彼はできないことが多かったのは確かだが、柔らかいタッチの絵が上手で、優しい子だった。ぼくは人付き合いが苦手だったので、素直に話を聞いてくれた彼とばかり遊んでいたことを覚えている。

たまには大人ぶった目線や、学んできたアートの目線を捨てて、社会の窓をのぞいてみるのも良いかもしれない。

上段で記載した通り、中野ブロードウェイの奥まった店に行かず、Amazonで購入できるので、まずは立ち読みからしてみてはいかがだろうか。

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