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二郎から始まる人生ゲーム第4章 ギフト

 あの忘れられないクリスマス会から1週間が過ぎ、年も明けて朋輩が約束してくれたルミ子の中学校の友達との交流会を、親が和菓子屋を営む2階の自宅の一番広い座敷で「新年会」という名目で開催してくれた。
 和夫は新年を母の恵と二人の姉と共に、お節料理を作るための仕込みなどでクリスマス会が終わった後は慌ただしくしていた。
 新年は二郎の勤める水産加工会社の幹部達が訪れるというものだから、いつもの正月よりも、多くの種類のおせち料理を作るように二郎に言われていたので、嫁入り前の二人の姉と喧嘩したり、笑ったりしながら新年まで楽しく過ごしていた。
 (この正月が終わって3月の末にもなればカツオ船の乗るのか…家族と離れて暮らすのは初めてだから寂しいけど、今年の正月はその分じっくり兄弟姉妹と遊んで話して暮らそう)
 和夫はいつもの正月とは違う気持ちで新年を迎えようと考えていた。
 二郎が自分の勤める会社の幹部を正月に呼ぶのは本意ではなかったが、社長がどうしても訪問したいというので、それに押し切られる形で招待する事になってしまったのだ。
(社長は和夫の事を見定めたいという思いもあるんだろう、ゆくゆくはカツオ船を何艘も持つ予定だと言っていたから、中学生の和夫でも社長ならどんな人物かを見極められるのだろう)
 二郎は会社の年末の決算も終えて正月休みに入っていたので日頃和夫に任せっぱなしの畑や田んぼの様子を見に行ったりして、和夫の完璧な管理能力をみて、
「成長するもんやなぁ…恵も嬉しいやろに」
畑でタバコを吹かしながら、日々家庭におらず会社に詰めてばかりの二郎は、子供達の成長をこの目でじっくり味わっていたのだ。
 来年は水産加工会社から出向という形で、町役場に西洋簿記の講師として招かれる事も決まっていたので、更に家を空ける事が多くなるだろうと予測していた二郎は新年を和夫と同じく特別な気持ちで迎えるのであった。
(和夫も正月が済めばカツオ船に乗るための身体検査や面接もある。自分も忙しい年になるだろうが、和夫が無事出航して帰ってくのるのを楽しみに待つことにしよう)
 名古屋から恵と疎開してから恵の義実家の紹介もあり、しばらくは町役場の臨時職員として働いていた二郎は計算の能力を買われ、出納係にて町の予算をやりくりの手伝いを任されていた。複雑な処理を必要とする町役場の出納係に西洋簿記を採用することによって誰にでも分かりやすい、見やすい決算書を作れた事で、収支の処理速度を速めて経済的にも弱点が分かり、町がどこにお金を使うべきかを明確にできた事から町の発展に関わる事ができ、いずれかは町役場での職務をお願いしたいと町役場の幹部から頼まれていた。
 戦争が終わってから二郎は町の男連中の命を沢山失ってしまった事に責任を感じており、自分は町役場で働くべきではないと東京に店を構える事によって、町役場の働き口を男連中の家族に譲る事で安定収入を持ってもらいたいと願い町役場からの頼みを遠慮したのであった。
 長男の和夫がカツオ船に乗りたいと膝を突き合わせて話して来た時は、どうしたものかと子供に余計な心配をかけさせてしまって申し訳ないという気持ちと、和夫の長男としての覚悟に二郎は涙を流す思いで受け取っていた。
 明治男として涙は子供の前では見せれない。いつでも堂々として生きている背中を子供達に見せる姿も教育のうちだと二郎は考えていた。
 来る日も来る日も、残業に追われ銀行に呼ばれては融資の誘いを丁寧に断りながら会社でがむしゃらに働いた。    
 過去の事を全て忘れられるのが仕事をしている時だった。幼い金沢での出来事、戦争の事、東京の事業をあきらめた事。全て仕事をがむしゃらにやる事で忘れる事もでき、その働きぶりは他の社員も圧倒してしまうほどの難しい仕事の量をこなしていたのだ。
 何かをしていればその忘れたい何かを忘れる事が出来る。二郎はそのためにがむしゃらに仕事をしているのであった。

 和夫は父の働く姿を目の当たりにして自分も父のように、父の働く会社のカツオ船に乗って、船乗りであった父の後を船乗りになって田川家を継ぎたいと考えていた。
 正月になり家族で正月を早々に祝った後、二郎の会社の幹部たちが家にやってきた。社長をはじめ4人がお酒を持って家にやってきた。
 二郎は下戸の中の下戸であり、奈良漬けを数枚食べただけでも酔いが回ってしまうほどで、社長が持ってきてくれたお酒を開ける前に、自分がお酒に弱い事を告げると、びっくりされていた。
「田川さんは、タバコ好きだからお酒も飲めると思ったのだが人は見かけによらんなぁ!!ハハハ!!」
と豪快に笑い飛ばし、社長と幹部たちでお酒を楽しんでもらえるように二郎は伝え、長男である和夫に社長にお酌をするように言った。
 和夫はお酌をするのも初めてなのだが、二郎から目上の人にお酌をする時の所作を習っていたので緊張で手をぶるぶる震わせながら社長のコップにお酒を入れた後、
「明けましておめでとうございます。田川二郎の息子、和夫と申します。不束者ではありますが今後ともよろしくお願いいたします。」
と丁寧に正座をしながら社長に挨拶をした。
 「和夫君はえらいな!しっかりとお酌の仕方も知ってるし、挨拶もしっかりできる。人間が生きていく上で大切なのは挨拶をしっかりと行う事だ。和夫君はそれが出来ている。中学校を卒業してから我が社のカツオ船にのってくれるそうだな!その挨拶の仕方を忘れずにしっかりとカツオ船の先輩たちに挨拶をするんだぞ!私は嬉しい!今後、和夫君が我が社で活躍する事を願っているよ!!」
と豪快に和夫の坊主頭を撫でながらいうのであった。
 幹部の一人が、
「和夫君は成績も優秀だと中学校の先生から聞いているよ。先生が会社にきてお願いしますと言いに来るのだから、中学校でも期待されている生徒なんだと社長と話していてね。是非カツオ船に乗って色々な事を経験して、この会社をこの町をこの国をまた発展させて行こうじゃないか!」
と言うと
「ありがとうございます。沢山仕事を教えてもらって一日でも早く父と働いて恩返しをしていきたいと思っています。」
再度正座をしながら挨拶をして、幹部の人達にもお酌をして回った。
 社長は一杯コップ酒を飲み干すと、
「田川さん!実に立派な息子さんを育てられましたな。私も地元の奄美を離れてこの地で縁があり会社を興した。田川さんの話は戦時中から聞いておったから会社を興した時には一緒に仕事をしたいと願っておったんです。お互いにこの漁師町に貢献していきましょう。今日は息子さんにも会えてよい正月を迎えられました。ありがとう。わしらはこれでおいとまさせてもらうよ。ゆっくりと家族で正月を楽しんでください。」
 社長は幹部達がお酒を飲み干すのを見計らって、二郎にこう告げて去って行った。
二郎は、
「こちらこそ、故郷に呼んでいただき家族と過ごす事を叶えてくれた社長はじめ、皆さんに感謝しています。精進の毎日ですがこの町に貢献していきたい気持ちを同じくする社長や皆さんと仕事をできることを、ありがたく感じております。どうか気を付けてお帰りください。」
 社長は右手を大きく上げ振りながら玄関で靴を履いた後、田川家の家族に向けて、
「あらためて、明けましておめでとうございます。田川家にとっても我が社で働いてくれる人達の家族にとっても良い年でありますように!ガハハハ!」
社長は機嫌良く帰って行ったのであった。
 二郎はフーッと大きなため息をつき、和夫に、
「和夫、お前も知らない間に落ち着いて目上の人達にお酌を出来るようになったんだな。ありがとう。さぁここからは家族でゆっくり過ごそう。恵、子供達にアレを…」
 恵は押し入れの中から、二郎のカバンを取り出し、
「今年のお年玉だ。今の田川の家は親戚が少ないから、他の同級生よりも少ないかもしれないが、自分達で考えながら大切に使うんだぞ。」
 姉達を呼び、お年玉を渡した。
「ありがとうございます。お父さん!」
と上二人の姉は声を揃えてお礼を言った。
「じゃあ和夫、大切に使うんだぞ。」
和夫は二郎に、
「ありがとうございます。大切に使います。」
丁寧に頭を下げた。
戦後は憲法も変わり家長制度は事実上なくなったのだが、庶民の生活は男親を頂点に生活を分担して行っていたのだ。

 和夫は父に、
「正月過ぎたら朋輩が、カツオ船に乗ると言ったら祝いの会を開いてくれるというので行ってきても良いでしょうか?」
恐る恐る尋ねると
「おう、いいじゃないか、行ってきなさい。田や畑は俺が見回るから。」
和夫は、
「ありがとうございます。」
と頭を下げ、二郎と恵の座る食卓から離れ、兄弟姉妹たちに、
「凧あげしに畑にいくぞー!!」
正月前から兄弟姉妹とこしらえたそれぞれの凧を持って駆け出していった。
 畑に着いた兄弟姉妹は凧あげを始めた。和夫は妹と弟の凧を潮風を使いながら上げていた。妹は、
「お兄ちゃん見て!!凄い高さまで上がってるわ!!」          
和夫は、
「よしその高さで、ゆっくりタコ糸を動かして風に乗せるんや!!そうすれば落ちにくいからな!」
ゆらゆらと揺れる凧を見ながら兄弟姉妹の笑い声を聞きながら、カツオ船に乗ったらしばらく会えなくなる兄弟姉妹との時間を楽しんだ。正月休みは兄弟姉妹との時間を楽しもうと決めた和夫だった。

 午後1時から3時までの2時間「お祝いの会」を開く予定なので、和夫は12時に昼食を済ませ朋輩の家に向かった。朋輩の家で自分の「お祝いの会」を開いてくれる座敷で、今日来てくれるルミ子やルミ子の学校の友達と、和夫と朋輩の友達の人数分の座布団を机に並べながら、正月に合った色々な事を思い出していた。
「和夫!!もうそろそろくる時間やもんで、お菓子いれる皿持ってくるわ。

朋輩は台所に向かって走っていった。
 そうすると朋輩の母親が上がってきて、
「和夫君いらっしゃい!うちの子は?隣の中学校の子らが下に来てるんやけど、上がってもらっていいかな?」
と困った顔をする朋輩の母親を見て、
「はい。ありがとうございます。たった今準備終わってお菓子みんなで持ち寄るもんで、大きい皿取ってくる言うてどっかいきましたよ。」
朋輩の母は
「じゃあ、上がってもらうね!楽しそうやね!おばちゃんも混ざりたいわ!」
と冗談を言いながら下に降りて行った。
 階段を数人が昇ってくる音がした。和夫は緊張して部屋に入ってくるのを待った。それと同時に朋輩も皿を何枚か持ってきて素早く机に並べた。
 横開きの障子の戸が開き、ルミ子とその友達と隣の中学校の番長がやって来た。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
とルミ子とその友達が一緒に挨拶をすると、朋輩も、
「こちらこそ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
顔を真っ赤にしながら女性陣にあいさつをするのを見た番長からは、
「顔真っ赤やど!照れるわな~」
と朋輩を見て、楽しそうに話しかけた。
「こっちの来てない2人はもうすぐ来るよってに、座って始めよか!」
和夫が用意していた机に案内すると、
「凄い立派な机やねー。一枚板でできてるん?こんなの初めて見たわ。」
ルミ子が朋輩に聞いている。
「爺さんの代から使うてるんや。普段から使ってるから手入れも出来るし、長持ちするみたいや。」
それぞれが座布団に座ると、
「じゃあ持ってきたお菓子開けて、皿置いてるから乗せてってくれへんかな?」
朋輩が上手に場を仕切る。
 和夫は自分が持ってきた芋けんぴと、餅を揚げたお菓子を皿に乗せた。ルミ子たちは近所のスーパーで売っているスナック菓子を別の更に分けた。飲み物は各自好きな物を持ってくるように言われていたので、机に並べると全員コーラだった。
「全員コーラやん!おもろいな!年の初めからみんなの気が合ってるな。」
番長が笑い転げながら話すと、ルミ子は、
「和夫君らと番長はいつから仲がええの?」
「中学校上がってからやな、ワシらが歩いとったら番長らが因縁つけてきたんや。」
朋輩が芝居染みた様子で話し出した。
「お前ら隣の中学校やろ!ワシらの中学校の縄張りの中に入ってくんな。って番長が言う訳や。ほしたら、和夫が出来て番長に啖呵切ったんや。」
ルミ子は
「そうしてどうなったん?」
朋輩が、
「ワシら浜に遊びに来たんや、遊ばせたってくれへんかな?あかんか?って和夫が言うたら番長が、そうや浜で喧嘩して強かった方がこれから会うたらいう事聞く言うのはどうやろ?っていうんや和夫も面白なって来たみたいな顔して、浜までいこか!言うて一緒に浜まで行く途中に番長が和夫に蹴りを入れたんや。」
ルミ子は番長に向かって、
「あんた卑怯やね~。」
笑いながら言うと、番長は、
「和夫は、ようみると身体は細いように見えるけど、腕に筋肉付いとるやろ?こら負けるとおもて、先に蹴り入れて逃げようとしたんやけどなぁ…」
和夫は笑顔でルミ子たちに、
「番長、ワシの背中に蹴り入れてそのままベターンとコケてしもて、ワシもいきなり蹴られたから腹たったんやけど、思いっきりベターンとコケてるから馬乗りになって頭をはり続けたってん。そうしたら番長が、コケてしもたわー。って言うもんやから二人で笑うてしもて。なぁ?」
和夫は番長の方を見ながら、
「それから仲良うなったんやな。懐かしいわ~あん時コケてなかったら、浜でえらいど突かれとったんやろなー。」
ルミ子の友達が、
「番長、負けてるやん!そこから喧嘩もせんと、仲良うなったんや?」
番長は、
「そん時は上級生や高校生が何かあると、年下の者らを殴ってくるよってに、和夫の中学校と仲良うなって、よう殴ってくる上級生や高校生を教え合って気を付けとったんや。」
ルミ子は、
「小さい町やのに何で、殴ったりするんやろうねぇ?女子の私らは上級生に裁縫を教えてもろたり、編み物教えてもろたりしたんよ。」
ルミ子の友達も、
「私達の学校の女子はみんな仲良かったなぁ。ここで結婚する子らはみんな海女やらないかんやろ?せやもんでかな?」
和夫は
「男言うもんは、威張りたいんやろな…上級生が歳が下の者殴るって、自分の弟やったらそんな事できひんと思うんやけどなぁ…」
ルミ子の友達は
「和夫君優しいんやね?兄弟は何人いるの?」
和夫は頭をかきながら、
「上に姉が2人と下に妹弟がおる。」
ルミ子の友達は、
「せやから弟が殴られとったら嫌なんや。優しいねぇ。」
和夫は
「田川の家はこの土地に親戚がおらへんから兄弟姉妹が殴られたり、ひどい事を言われたら俺が出ていって話をつける。イジメられるような事はないけど、理由もなしに殴られたとか弟から聞くと腹立ってなぁ…自分の弟や妹がこんなにして殴られたらどう思う?って言うて、もうやらへん言うたら許したるけど、文句言う奴はボコボコやわ。」
朋輩が、
「せやから和夫、段々と喧嘩が強なってきてな、去年の秋に高校生が俺らを殴りに来た時も和夫が追い返してくれたんや。」
ルミ子は、ハッと思い出した。
「そう!覚えてる!机を頭の上に上げて高校生追い回してるの見た!和夫君らの中学校にクリスマス会の会議に行った時やわ!怖い人がいてるんやって思ったら、こんなに優しい人やったんやね。」
和夫は、
「優しいというのか…自分の身に置き換えてしまうんやろな。殴られたり、悪口言われたりするのを見ると、身体が震えてきて、気づいたら殴ったっとるな。」
朋輩が、
「遅いな…ワシらの中学校の奴ら…高校生に絡まれてへんかなぁ?」
和夫は
「さすがに正月からそんな事ないって。見てきたろか?」
朋輩は
「大丈夫やからもうちょっと待っとろう。みんなお菓子食べて!!」
和夫達は持ち寄ったお菓子を食べながら、まだ来ていない友達の到着を待った。
朋輩は、
「和夫、便所いかんでええんか?」
和夫は
「ちょうど良かった、便所借りるわ!」
と便所に歩いて行った。

 その時だった隠れていた、和夫の中学校の遅れていると聞いていた同級生が違う部屋から入ってきた。ルミ子達の中学校の仲間と話を合わせて寄せ書きをしたり、花を用意して和夫にカツオ船に乗る前の送別会としてこの場を作ろうと、和夫の朋輩はクリスマス会が終わった後、番長の所に出向いて何回も話し合いに行ってプレゼントを用意していたのだった。
 和夫は手をズボンにこすりつけながら部屋に戻って来た。ルミ子は、
「和夫君、ハンカチ持ってないの?はいコレ!」
と言って新品の男物のハンカチを手渡すと、和夫はびっくりして、
「えっ?どうしたん?新品やん!」
周りの友達はクラッカーを勢い良く鳴らすと
「和夫君、気を付けて船に乗って来てください!!」
と声を揃えて言った。和夫はクラッカーの音にびっくりしながら、
「何なん?どうしたん?」
朋輩が、
「和夫が卒業したらカツオ船乗る言うて番長と聞いたから、今日は送別会を
早いけどやろう言うてな、ルミ子ちゃん達と新年会やるんやったら送別会もって言われてな、さすがクリスマス実行委員会の子やしっかり計画立ててくれたわ!」
今度は番長が色紙を渡して、今いるメンバーの寄せ書きを渡した。
「1年外国にも行くんやってな頑張ってこいよ!」
和夫は
「ありがとう、せやけどお前も愛知県に行くんやろ?」
「俺は同級生も先輩もあっちに行けばおるけど、和夫は一人で大人の中に混じるんやろ?すごい根性やわ!!」
番長が励ますように言うと、和夫の中学の同級生が花束を手渡してくれて、
「どんな花が良いのか分からなかったけど、色々な花混ぜてもろたんよ。」
と照れくさそうに言った。和夫は、
「みんな…ありがとうございます。まだちょっと先の事で想像もつかへんけど頑張ってくる。みんなが此処まで用意してくれとるなんて思わんかった。ありがとう。ありがとう…」
和夫は花束に顔をうずめるように泣いてしまった。
 この場にいるみんなも一緒にもらい泣きしてルミ子の友達が、
「ルミちゃんも、卒業した遠い所にある親戚の家に住み込みながら働くんやて、中学校卒業したらホンマに皆バラバラになってしまうんやなぁ…今の時間を大切に過ごさなあかんね!」
和夫も朋輩に
「お前も東京の高校に行くんやろ?」
朋輩は泣きながら、
「そうやこれから試験勉強の追い込みや!みんな卒業してからも時々こうして集まろうな!!」
和夫は
「そうや!みんなで集まって、色々話そう!いいやんソレ!」
その場にいるみんなも泣きながらうなずいていた。
 そこに更に朋輩の父が入ってきて、
「和夫君良かったな!おっちゃん写真が趣味でな、こんなめでたい席やからみんな並べ!写真撮ったる!」
店で聞いていたのだろうか、カメラを既に手に持ってふすまの前にみんなを並ばせた。
「これみんなに写真出来たら配るでな!ええ顔してくれよ!」
パシャ!
「もう1枚撮っとこか?はい笑ろうて!」
パシャ!
朋輩の父は、
「ありがとうな、ウチの息子と仲良うしてくれて、若い時の仲間は一生物やでな、このできた写真見返しながら、歳とっても過ごしたらええで。くじけそうな時に今日の事思い出すのに。”初心忘るべからず”って言うやろ?」
そう言って、店に帰って行った。
 和夫はまだ夢の中にいるようで、
「ほんまにありがとうな、サンキューな!」
感極まって、思うように言葉が出てこない。

 みんな中学校を卒業したらバラバラに各地に働きに行ったり進学したり、それぞれの人生を歩んでいく。その前にこうやってみんなと送別会を開いた事は、和夫の人生だけではなく、参加したメンバーの記憶に一生残り続けるのだった。
 この日に名前を付けるのならば「ギフト」と名付けたいと和夫は考えた。
和夫は、
「この会の名前をギフトってつけようや!みんなのこれからの話を聞くのは自分にとって贈り物や、ギフトや!」
番長も
「それええな!ギフトのメンバーで集まろかって言いやすいもんな!」
そうやって送別会の時間は終了に迫って来た。
 ルミ子の友達がノートを出して、
「このノートにみんなの住所と名前書いて、みんなで交換しよ!そしたら手紙出し合うて連絡取れるやろ?」
朋輩は、
「ホンマ頭ええなぁ!よしみんなで住所書いて、手紙出し合おうや!」
 それぞれ住所を書いて住所を交換した。
 和夫は乗る事になるカツオ船の持ち主の会社の名前と自分の家の住所を書いた。
「船に乗っとる間は、会社宛てに出してくれれば船に届くようになっとるみたいやから帰ってくるまではここに出してくれへんかな?」
みんなは頷いた。
番長は、
「俺たちの友達の中で一番初めに外国行くん、和夫やから絵葉書とか送ってくれよ!」
その場にいるみんなも、
「それいいね!お手紙待ってるね!」
ルミ子の友達は言った。
 時間が来てお開きという事になった。ルミ子とルミ子の友達は最後まで片付けまでやっていくと聞かなかったのだが、朋輩は
「ルミ子ちゃん達はクリスマス会で最後まで残って片付けしてくれたやろ?今度はワシらにやらせてくれ。気を付けて帰ってな!来てくれてありがとう!!」
番長とルミ子とルミ子の友達を2階の玄関まで送りにいった。
 和夫は遅れてきた同級生の女子2人に聞いた。
「めっちゃ綺麗な花やなぁ!ありがとう!どこで頼んだの?」
同級生は顔を赤らめながら、
「来年、ウチ花屋の商売始めるんやって、お父ちゃんが名古屋に修行に行って来年の夏には出すことが決まったみたい。和夫君と同じカツオ船に何回も乗って、お金貯めたんやって。」
 和夫は、
「めでたい事つづきやな!おめでとう!これからウチで花買うんやったら、頼むよってに!」
「ありがとう。親も喜ぶわ!私も卒業したら名古屋の花の店に修行に行って、こっちで店始めるようになったら戻ってきて店手伝うの。」 
 朋輩はルミ子たちを見送り戻ってきた。
「よし!これから俺達みんな頑張らなあかんな!!残ったお菓子みんなで分けて持って帰ってってルミちゃん達が言うとったから、店から袋もろうて来たよってに女子は分けといてくれるか?和夫と俺は座布団と机を元の場所に戻すわ。」
 あ・うんの呼吸で和夫と朋輩は座布団と、机を片づけた。最後に朋輩が、
「今日の事、忘れんと卒業するまで…いや!卒業しても忘れんと生きていここ!!」
その場を締めて、和夫と女子二人は家路についた。

 和夫は帰り道を歩きながら、2時間の間に起こった事を脳内で映画を映し出すスクリーンに映し出すように思い出していた。正月が明けた冬とはいえまだ寒い日が続いていたが、吹いてくる潮風もいつもは痛いほど強く身体に当たってくるのだが、今日の潮風は穏やかで心地よい強さで身体を包み込んでくれるような強さで気持ちが良い。
 道に生えている雑草も冬の風の吹く中、緑を強く見せてくれて励ましていてくれるように感じた。和夫はもらった花束を大切に両手に持って家に帰った。
「おかあちゃん、これもろうてきた。」
と花束を渡すと、恵は顔をしわくちゃにして喜んだ声で
「兄ちゃんにくれたん?綺麗やねぇ!花瓶用意して仏様に飾るわ。」
と今にも踊りだすような足取りで、新しく建てた納屋に花瓶を取りに行った。戦中戦後に米や野菜と物々交換で得た骨董品や着物や反物が丁寧に仕分けられて、その中に素敵な白い漆器の花瓶があった。たぶんその花瓶を持ってくるのだろうと和夫は感じた。
「兄ちゃんこの花瓶に生けてもお父ちゃんに怒られへんよね?」
予想した通り、白い漆器の花瓶を持ってきた。
「お父ちゃんも、この花瓶に花生けて仏壇に置けばいいのにって言ってたから、良いんちゃうの?」
和夫の家はまだ亡くなった人はいないが、二郎が金沢の実家から先祖の家系図の写しをもらい、こじんまりとした仏壇を買って先祖を祀っていたのだ。
 恵は花を生け終わると和夫にも花を見せて、
「ありがとう。兄ちゃん、仏様も喜ぶわ!」
と言って仏壇の前の台において手を合わせていた。
 あまったお菓子を持っていた事に気づいて、
「かあちゃん、このお菓子チビ達と姉やんと食べて。ワシは食べて腹いっぱいやから昼寝するわ。」
と子供部屋に行き手拭いを顔に乗せ、まぶしい西日をさえぎるように昼寝をした。

次回はやっとカツオ船で髪を切ってもらう場面に戻ってきます。
乞うご期待を!!









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