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「銀の龍の背に乗って」

(この文章のテーマソング的なモノを作ってみました。もしよければ一緒に聞いてみて下さい。)
 


窓の外に雨の音を感じ、カーテンを開けた。
雨はまるで降っていなかった。

ふと空を見上げると、満月とその少し下に一筋の長い雲が浮かんでいた。
雲は空を突き抜けるかのように左上に向けて長く長く伸びていた。

どこか違和感のある雲と満月が夜空を蒼く照らし出した美しく静かな空だった。

自然発生した雲なのか、飛行機雲なのか。。
携帯の時計は「2:30」を示していた。

ふむ。。。
 
次第にそんなことよりも、雲と月が織りなす幻想的な光景に、壮大なアートを見ているような気持ちになっていた。

そしてそれが僕を少し興奮したような、しかし同時にこころ安らかな気持ちにもさせた。
雲はゆっくりとその筋を広げながら空を舞っていた。

ふとそれが夜空を舞い上がる大きな大きな銀の龍のように思えてきた。

それを疑うことのないほどに幻想的な光景に、僕は部屋の窓から顔をだし、その一連の様子をじっと見つめていた。
 

やがてその龍の長い身体の真ん中あたりが満月とぴったりと重なった。

それは突然に起こった奇跡のような光景だった。
月が雲に飲み込まれ、ぴったりと重なり合った部分が異様なほどに赤くそして眩く光り輝やいていた。

自分が何を見ているのかよくわからなくなった。

突然に起きたその光景に目を見開き、ただただそれを茫然と眺めていた。

雲の隙間から漏れる圧倒的な光をただじっと見つめていた。

何かとんでもないものを目の当たりにしているということは直感的に感じていた。

そしてその時、その燃え上がるような光は龍に吹き込まれた命なのだと覚った。

命を宿した龍は、まるで世界を変えてしまうのではないかとうほどに力強い生命力に満ち溢れていた。
言葉を失い、思考が停止した。

僕を、そして人間というものを遙かに超えた「それ」に畏怖すら感じ、目を離すことができなかった。


やがて龍はゆっくりと月の上を舞い、いつしか群青の中を遠い宇宙へ還っていった。

雲が消えた後もその光景が僕の中に強く強く残り続けた。

長い夜になりそうだった。

月はさっきより少しだけ右に傾いて、静寂の中に佇んでいた。

ふと、「銀の龍の背に乗って、行ってみたいな、よその宙(そら)」

そんな俳句とも呼べない語呂だけのいい文章が浮かんだ。

稚拙な文章だが、それが何かを示しているようにも思えた。

僕は赤き魂を宿した大きな銀の龍の背に乗ってどこかに向かうのだろうか、世界をどこに導くのだろうか。

あの龍の意味を、それが象徴するものの意味を、それを僕に見せた月に聞いてみたかった。

月はそんな僕をよそ眼に、だけども無視するわけでもなく、世界を優しく照らし続けていた。

まるで何事もなかったかのように。
何も見ていなかったかのように。

きっとずっと僕が見ていることも、僕が考えていることも全部知っているのに。

僕も月をただただ見つめていた。

答えは分からなかった。

それでもあの夜空の龍は僕にとって重要な意味のあることだということは感じていた。

そしてそれは良い象徴であるようにも思えた。

いまは、それでいい。

その思いに月の光がほんの少しだけ揺らいだように見えた。
  


だぁれもしらない、静かなしずかな、月の綺麗な夜のこと。
 
 

でま、また。

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