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乳がん経験をアプリ開発に生かしたい。がんサバイバー向け治療生活サポートアプリ「ハカルテ」デザイナー

株式会社DUMSCO(ダムスコ)は、婦人科がん患者のQOL(クオリティ オブ ライフ:生活の質)について研究している京都大学大学院医学研究科と、がんサバイバー向けの治療生活サポートアプリ「ハカルテリサーチ」(医学研究用)を共同研究してきました。

(ハカルテのサービス概要はこちら

現在DUMSCOでは、研究の場に限らず一般のがんサバイバーにも使っていただけるアプリ「ハカルテ」を開発中です(2024年リリース予定)。

今回は、デザイナーとしてハカルテ開発チームに参加していて、ご自身も乳がんサバイバーである野口智可(のぐち ちか)さんにお話を伺いました。

野口智可(のぐち ちか)さん

ーー野口さんがハカルテ開発チームに関わることになったきっかけはなんだったのでしょうか?

野口:フリーランスのデザイナーとして働いていて、ハカルテ開発のお手伝いの話をいただきました。その頃ちょうど私自身が乳がんになった後だったので、自分の経験を生かしながら、がん治療のサポートをするサービスに関われたら…と思っていた時で、ぜひにとお受けしたのが最初です。

私は39歳のときにステージ2の乳がんと診断されました。幸いリンパ節への転移はなかったので、抗がん剤治療はせず乳房の摘出手術のみで、術後のホルモン治療にフォーカスするという治療の流れでした。現在もホルモン治療中です。

ーーご自身のがんサバイバーとしてのご経験を生かして、どのようにハカルテ開発に関わられているのですか?

野口:研究用アプリの「ハカルテリサーチ」や、現在開発中の一般ユーザー向けアプリのハカルテについて、UIや宣伝用の印刷物などのビジュアル面の修正やアップデートを担当しています。

photo AC

野口:患者さんが実際触れたり目にしたりする部分に携わるということで、見やすさや使いやすさを一番重視しつつ、自分もがんサバイバーの立場でもあるので「本当に患者さんはその情報が欲しいのか?」という観点も大切にしています。

がんサバイバーであるとはいえ、違うがん種の方ならではの苦労はわからない部分も多いです。
私が手術のために入院していたとき、同室に子宮がんの方がいらっしゃったのですが、子宮がんによって直接的に女性ホルモンへの影響があり、体調管理がとても大変そうでした。
乳がんで平気なことも子宮がんでは平気でなかったり、その逆もあったり、私個人の経験だけではなんとも言い切れないということは留意しています。

ーーハカルテ開発のどのようなところにやりがいを感じていますか?

野口:苦労とやりがいの紙一重だと思いますが、例えばアプリ内の問診やアンケートのようなものは、従来は病院内で紙で配っていたものをアプリ上で再現するのですが、その際ルールとして必ず記載しなければならない細かい記述なども多く、デジタル化する際にどうやって載せるのか苦心しています。
必要な情報を載せつつ、かつ使う人のストレスにならないように、「あるようでないような、ないようであるような」意識させすぎないデザインにするのが難しく、また工夫しがいのあるところでもあります。

野口:あとはアプリ内の言葉遣いや、毎日使うアプリとしての操作性なども、がんサバイバーとしての視点からお話することもあります。

ーー野口さんは現在はホルモン治療をされているということですが、どのような治療生活ですか?

野口:術後のホルモン治療を初めて1年が過ぎました。10年続けなければならないのでまだ道は長いです。
女性ホルモンを止めるためのホルモン注射を定期的に打ってもらうために通院するのですが、
注射も1ヶ月単位、3ヶ月単位、半年単位と種類があり、 通院頻度が短くて済む3ヶ月と半年の注射が人気で、在庫がなかったりもします。在庫がないときは1ヶ月単位のものを打っていただいて、また1ヶ月後に通院する、という感じです。
あとは、タモキシフェンという薬を毎日飲んでいます。これも10年続けなければいけないものです。

ーー副作用などはあるのでしょうか。

野口:注射も服薬も、再発防止のために必要な治療ですが、人によって副作用に悩まされる場合もあります。私はホットフラッシュ(上半身ののぼせ、ほてり、発汗などが起こる、更年期障害でみられる代表的な症状)にかなり悩まされています。急に暑くなって夜眠れないくらいひどいときもあって、とても辛いです。

女性ホルモンの分泌を止めているということは、その間は更年期と同じような状態になるので生理も止まり、妊娠することはできません。なので、ホルモン治療中に子供が欲しい場合は一度ホルモン治療をストップして、妊娠出産後にまた治療を再開するというパターンもあります。

また、ホルモン治療の影響なのか、太りやすくなったとも感じます。治療前と比べて体重が増えて、痩せにくくなりました。

他にも、精神的に落ちこんで鬱っぽくなってしまう人、体がだるくて気力がなくなってしまう人、頭痛が治らない人など、副作用も人によって様々なようです。

photo AC

野口:私は夏はホットフラッシュが辛くて、ホルモン治療を辞めたいと思ってしまうくらいでした。
少し外に出ただけですごく汗をかいてしまうので、 外出する気がなくなります。
私のように、副作用のせいでホルモン治療を辞めたいと思う人は多くいらっしゃると思います。

すでに閉経後で更年期を迎えている方ならそこまで強い副作用症状が出ない場合もあるのかもしれませんが、若い方だと急に重い更年期障害になってしまったようで、より辛いのではないでしょうか。

対処法が、漢方で症状を緩和するくらいしかないこともつらいです。私には漢方が全然効かなかったので、今かなり困っています。
他にも豆乳などでイソフラボンを摂ると症状が和らぐなどとは言われていますが、気休め程度だなと思っています。

ーーお辛いですね…。ハカルテは、現在は抗がん剤治療などの積極的な治療の間の体調管理に使う機能を中心に開発していますが、今後は野口さんのような術後の体調管理にも使えるような機能の展開も検討しています。そういった展開は必要だと感じますか?

野口:本当に必要だと思います。アプリで体調管理ができるとありがたいのはもちろんですが、ハカルテでホルモン治療中のがんサバイバーの体調のデータが集められれば、様々な症状への対処法を見つけやすくなると思います。
いまは自分ひとりでいろいろ試すしかない上に、何をどこまでやっていいのかもわからない状況です。
たとえば、私のホットフラッシュを改善するために、美容外科でやっているような多汗症の治療をやっても問題ないのか?多汗症を抑える薬を服薬して、ホルモン治療に影響はないのか?などは情報がないので、どうしたらいいのかわからないんです。

ホルモン治療中のがんサバイバーがハカルテを使うことで同じような症状で悩んでいる人たちのデータが集まって、研究に生かせるようになれば対処法も見つけやすくなるのではと思います。

一般向け「ハカルテ」は2024年リリース予定

野口:また、私は乳房再建手術を行う予定なのですが、自分の体の他の部位の組織を乳房に持ってきて、血管を繋げるというものなので、事故に遭って入院してるようなものです。
術後の体にどんな変化が起こるのかは分かりません。そういった状況に対してもハカルテで何かできることはないのかなど、カバーできる領域が広まったらいいなと思います。

ーー抗がん剤の副作用も、ホルモン治療の副作用も、直接命に関わるわけではないので医療機関での優先順位は低く、対処するための薬もあまりないため、これまでは「我慢するしかないもの」とされてきた背景がありますよね。だから研究もまだ少なく対処法もまとまっていないと。

野口:そうなんです。いろんな対策を日々自分で試しています。「ココアを飲むと一気に体が熱くなっちゃうからやめよう」とか、「温かい飲み物を一気に飲むとダメだった」とか、「湯船に浸かると夜発汗が少ないかも」とか。
誰も教えてくれないし、人によっても症状が違うので試して記録するしかありません。

乳房再建手術についても、人工物を入れるのか自分の組織で再建するのか、自分の組織ならどこから取るのか、お腹?足?とずっと迷っていたので、自分と近い年代の方がどうされていたのかなども相談しやすい場所があったらいいですよね。自力でネットでそういう方を探して、連絡してみて色々相談できたのでよかったのですが、探すのにとても時間がかかりました。

がんサバイバー専用の、いろんな症状や効果があった対処法を質問・投稿できる口コミプラットフォームみたいなものがあったらなぁ、といつも思います。それをハカルテの中に作るのか、別のところでやるのかは分かりませんが、そういうものができたらいいですよね。

ーー最後に、野口さんが今後ハカルテ開発で目指したいことを教えてください。

野口:私はがん家系だったので「自分もいつかがんになるだろうから、心の準備をしなければ」くらいに思っていました。こんなに早くなるとは思っていませんでしたが、心構えは多少できていたんです。
でも乳房摘出手術で入院していたとき、同室だったがん患者さんたちは、「会社には伏せています」「後輩や部下を怖がらせたくないから言えない」など、がんになったことを人に言えないと言っていました。
でも私は、これからがんになる人たちが、「がんになったらこうすればいいんだ」と思えるように、がんになったことを公表して今後の道筋にしてもらうということも必要なんじゃないかと思うんです。

もちろん言いたくない人もたくさんいると思うのですが、私は「なったからには私の経験を誰かに役立ててもらおう」と思って、ハカルテ開発にも携わっています。
だから、ハカルテを使った人に「がんになっても大丈夫だよ、一人じゃないよ」という安心感を与えられる、お守りのようなサービスにできるように、これからも協力させていただければと思います。

ーー野口さん、ありがとうございました!

ハカルテは、がん患者向け治療生活サポートアプリ。
スマホがあれば簡単に体調を測定・記録でき、医療者に心身の状態を伝える手助けをします。
自分の状態を知り、より主体的に治療やケアを受けられるようサポートすることで、がん患者の自己効力感を高め、治療生活のQOL向上につなげます。2024年に一般向けアプリをリリース予定!

今後もこのnoteやハカルテ公式X公式Instagram にて最新情報を発信していきます。
ハカルテサービスサイトはこちら▶︎https://hakarute.com/


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