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春の終わり、夏の始まり 9

美咲との離婚後、唯史ただしの日々は変わり果てた。
情緒がきわめて不安定になり、些細なことで落ち込むことが増えた。

夜な夜な睡眠は乱れ、質の良い眠りからは遠ざかっている。
深夜に目が覚めると、そのまま何時間も天井を見つめることが増えていた。

寝返りをうつたびに、唯史の心と体は安息を求めていたが、心の奥底に渦巻く感情がそれを許さない。
この睡眠不足は、日中の仕事にも影響を及ぼし始めている。
勤務中にあくびが絶えず、会議中にはうとうとしてしまうこともあった。

「離婚してからあいつはダメになった」
そんな陰口もちらほら耳に入るようになった。
そろそろ、そんな自分に嫌気がさし始めている。

唯史の日々は、自己否定の感情が増すにつれ、孤独に包まれていった。
他人との関わりを避けることで、自分を守ろうとしたのだ。
その行動が、自分を傷つける外部からの影響を断つ手段だと、唯史は信じていた。
しかし、それが逆に内面の孤独を深め、自己価値観のさらなる低下を招いていることに気づいていなかった。

週末。
たまには気分転換と思い、唯史は近所の公園を訪れた。
三月上旬の温かい日差しが心地よいはずだったが、周囲の家族連れやカップルを見ていると、自分の孤独が際立って見えた。

子供たちの笑顔やカップルの談笑が、唯史には遠い世界の出来事のように思える。
自分は社会から取り残されている……
唯史は、心が重く沈んでいくのを感じていた。

孤立を深めるにつれて、唯史の自己否定はさらに厳しいものになった。
鏡を見るたびに「どうせ誰からも必要とされていない」と自嘲するようになった。
唯史は自分自身をさらに責め、もはや自分の価値を認めることが困難になっていた。

そのような状態は、健康にも影響を及ぼしている。
食欲は減退し、体重も徐々に減っていった。

かつての美少年は、その面影をすっかりなくしていた。
顔の輪郭が以前より細くなり、頬はこけ、目の下には暗いクマが常に見られた。
疲れ切った表情が唯史の新たな常であり、笑顔を見せることはほとんどなかった。

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