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【2023年07月】読書記録と思考記録
真の多様性尊重は対話の先に実現される
朝井リョウの『正欲』を読んだ。
「これは共感を呼ぶ傑作か?目を背けたくなる問題作か?」のあおり文のとおり賛否両論ありそうな作品だが、「多様性」という言葉の氾濫・過大評価に対する疑問と問題提起が本書の主題であり、今の時代に必要な作品だと感じた。
同時にこの作品は、多様化の時代に個々人のコンテクストの「ずれ」とどう付き合っていけばよいのか、という迷いに対する一つの提言であるように思えた。
コンテクストの「ずれ」とは、平田オリザの『わかりあえないことから』で述べられている概念である。
人が言葉を発する時、その背後には何らかのイメージや考え方(=コンテクスト)があり、それは個々人で微妙に「ずれ」ている。
自分と相手のコンテクストの「ずれ」を認識した上で、自分のコンテクストと共通する部分を見つけて理解・共感しようとする能力が、今の時代に求められているコミュニケーション能力だと平田は説く。
その意味で、ブレイディみかこが『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で書いている「エンパシー」とほぼ同義だ。
朝井は『正欲』のストーリー全体でその必要性を訴える。
息子の泰希の今後について、由美が啓喜に何度も対話を試みている(そしてついに対話は成立せず不幸な結果を招く)のはそれを象徴するエピソードだし、八重子が大也に投げかける「また絶対、ちゃんと話そうね。私のことも、繋がりのうちに数えておいてね」というセリフが、わかりあえない二人がわかりあうための希望が対話にあることを教えてくれる。
「(多様性は)自分にはわからない、想像もできないようなことがこの世界にはいっぱいある。そう思い知らされる言葉のはずだろ」
ここで思考停止にならず、どうすればさまざまなコンテクストを持った人たちと心地よく付き合っていけるかを考え続け、対話し続けることが、真の意味で「多様性」を尊重するということなのだと思う。
7月の読了書籍
『暇と退屈の倫理学』
未消化の傷と向き合わされるが故に、退屈は苦しい
『アマゾンの最強の働き方 -Working Backwards』
顧客利益の追求 → WTPの向上 → 長期利益の達成
『<責任>の生成 -中動態と当事者研究』
「責任を取る」とは、過去と対峙し、過失を能動的に引き受けることである
『思考の整理学』
他者を参考に自らの思考の「型」を自覚・構築せよ
『正欲』
他者との正欲の共有が人をこの世界につなぎとめている
『本当の自由を手に入れるお金の大学』
5つの力(貯・稼・増・守・使)を鍛えて経済的自由を実現せよ
『わかりあえないことから』
コミュニケーション能力 = コンテクストの「ずれ」を理解し共感する能力
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