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トヨタ自動車を支えるCE制度とは何か⁉ 【トヨタ生産方式と並ぶトヨタの強みCE制度について】


『トヨタ チーフエンジニアの仕事』を読みました。


本書はトヨタ自動車でカムリ、プロボックス、サクシードなどのチーフエンジニアを勤め、ダイハツ工業で執行役員などを歴任された北川尚人さんの著作です。


チーフエンジニア(CE)は、車両コンセプトの創造からデザイン、設計・評価、生産、販売、品質保証、サービスにいたる、あらゆるプロセスの監督者です。
複数分野の専門知識に精通し、専門外のことでも専門家集団とコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めていくCEは「車の生みの親」であり、技術系の憧れのポジションだそうです。

実はGAFAの大成功の裏には、トヨタのCE制度を徹底的にベンチマークし、プロダクトマネジャー制度として導入した経緯があります。

日本企業の地盤沈下の中、トヨタが世界一の自動車メーカーとして君臨しているのは、このCE制度がとても大きな役割を果たしています。


本書では、
① CEはどのようなことをしているのか?
② CEに求められる資質は何か?
③ CE制度を支えるトヨタの仕組みとは?
  が著者の経験を交えて紹介されています


具体的にまとめていきます。

① CEはどのようなことをしているのか?

CEは製品企画部に所属しています。
商品企画部が中長期的なラインナップやモデルチェンジ時期、新市場への新車種投入などをまとめ、
新商品計画を立案し、それを基に各モデルのセリングポイントや販売価格のおおまかに検討します。
それが経営陣に承認を得たときに、CEが任命され開発・生産のための製品企画がスタートします。

商品企画と製品企画の何が違うかというと、以下のような違いがあります。

商品企画:商売、営業面からみた車両についての規定
製品企画:開発、生産面からみた車両についての規定

製品企画部の中には各CEごとにZ〇と呼ばれるチームが存在します。
Zの名はアルファベットの最後=車両開発の最終責任を負う、ということに由来しているそうです。

CEは製品企画から始まり、
デザイン・設計・試作、評価・生産準備・量産トライ・発売準備などを同時並行で一気通貫に監督します。

さらに、原価管理、原価目標の達成もしなければならないのです。

当然のことながら、社内外との打ち合わせが多く”よろず相談所”と呼べるほどだそうです。

こうした業務のかたわら、土日は新聞や雑誌の取材対応や販売店でのトークイベントへの出席もこなすしていて、まさに「超人的」です。

「その製品の社長」と呼ばれるのも頷けますね。


② CEに求められる資質は何か?

では、そんなCE求められるのはどのような資質でしょうか?

本社では、著者のCE 17カ条が述べられています。
その中で印象的だったものをいくつかピックアップしてご紹介します。


その1「車の企画開発は情熱だ、CEは寝ても覚めても独創商品の実現を思い続けよ」

技術力が最重要だが、情熱も不可欠です。
「一人でも多くの人を幸せにする乗り物を開発したい」という夢、「他社はできて、トヨタはできない」という報道への対抗意識、困っている人や障碍のある人に「自動車メーカーの人間としてとして何とかできないか」という想いを開発の原動力とされていたのです。


その2「CEは高い目標を完遂できる段取り力を身につけよ」

できないのは能力が低いからではなく、段取りが悪いと思え。


著者はプロジェクトの初めにラインオフまでの全プロセスを思い描いていたそうです。
終わりから思い描き、関係各署とアイディアを出し合うことで、世界記録の最短開発を達成しています。


その10「CEは自分に足りない専門知識は専門家を上手に使え、しかし常に勉強を怠るな」

超人的なCEと言えど、全てに精通するのは不可能です。
しかし、全てにおいて専門家と議論できないといけません。
そのため、専門家と対等にやり合えるように努力を続け、質問力を磨く必要があるのです。


その13「CEは開発日程遅れを最大の恥と思え」

CEは仕事を受けた段階で何が何でも日程を遵守せねばならず、日程遵守はCEのマネジメント力の最も問われるところです。
著書は米国との開発においても、日程順守を徹底し日程遅れすることなく立ち上げています。

著者はどんな人がCEになるのかという質問をよく受けるそうで、以下の4点を挙げています。

1 開発する製品が好きで好きで仕方ないこと=情熱

2 複数の専門分野に精通し、短期間で知識習得できる能力と専門家集団を動かす論理的思考力とコミュニケーション力を持つこと

3 商品価値とそれを実現する各要素に関しての詳しい知識
  人文系…   社会や顧客の動向、法律、規制など
  経済系…   利益、原価など
  アート系…  意匠、質感、感性価値など
  自然工学系… 使用環境条件、実現のための各専門技術など

4 日本語力、リーダーシップ、人間力をもっていること 

こうしたご自身の経験や先人の教えを基に、ダイハツに移籍してから自動車について新入社員が体系的に学べるよう、
「走る、曲がる、止まるの基本」から「1人乗りFFカートを組み立てテストコースでの走行」までを行う教育体制を整えたそうです。
純粋にどんな内容になっているのかとても気になりますし、受けてみたいですね。

③ CE制度を支えるトヨタの仕組みとは?

CE制度を支えるトヨタの仕組みとして、10カ条がまとめられています。
ここでも印象的なものをピックアップしていきます。

1 原価企画
トヨタでは量産段階だけでなく、企画・設計段階においても原価低減が行われています。
原価低減の効果としては上流に行くほど大きくなるので、ここでの原価低減が非常に重要です。
部品別原価低減検討会には、役員参加の下、設計だけでなく経理や調達、生技も出席し叡智を結集するそうです。

2 問題解決
QCで習う問題解決法を新入社員から管理職、事務屋も技術屋も現場作業者も徹底的に教育されます。
そのため、問題解決法の考え方が染みついており、実践することができるのです。

私もQC検定を取得したときに学びましたが、実務にこの手法を落とし込んでいる人は少ないのではないかと思います(品質担当をしているとよく考えますが)。
※参考までに問題解決法のプロセスを貼っておきます。

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3 伝え方
トヨタでは「伝える」ことの本質は、「最終的な行動につなげること」と言われています。
「どうしたら行動に移してもらえるか」を意識し、言葉を極限まで磨き上げます。


5 日程管理

CEの資質その13で「CEは開発日程遅れを最大の恥と思え」とありましたが、CEだけでなくトヨタでは、
全社員が一度決められた日程は何が何でも守るぞと強い気持ちを持ち、日々仕事に向かう意識が社内隅々まで浸透
しているそうです。

そのため、

国産の民間航空機が何度も納期延期となっているが、トヨタのような日程管理の下ではまずありえないと思う。

まとめ

以上のように、
本書ではトヨタの強みであるCE制度の解説と、それを支えるトヨタの仕組みが述べられています。
著者の豊富な具体例により、とても理解しやすくなっています。

著者はCE制度をトヨタ生産方式と並ぶトヨタを支える二大システムと述べています。
トヨタ生産方式が製造の効率化を突き詰める How だとすると、心血を注ぎ開発を行うCEはWhatの部分になるわけです。

トヨタを真似て、プロダクトマネジャー制度を導入したGAFAの成功を考えれば、この制度の持つ影響の大きさがわかります。


CASEやMaaSといった新しい概念・用語が登場するたびに、
自動車業界の巨大ピラミッドの危うさや業界の転換が声高に叫ばれますが、
Howの部分にだけ焦点を当てるのではなく、見えない参入障壁として、こうした制度があることも念頭に置く必要があると感じます。

トヨタ自動車の開発体制への理解を深めるのに大変良い一冊です。


また、仕事に対する姿勢などとても参考になるのでご一読いただくのをおススメします。




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