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たべるとくらす【プレイバック!はじまりの美術館10】

現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。
はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。

スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館


たべるとくらす

会期:2016年11月23日〜2017年2月20日
出展作家:浅野友理子、EAT&ART TARO+森のはこ舟アートプロジェクト西会津×三島WG、大竹徹祐、とっくん、増田拓史、松崎妙子
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/taberutokurasu/

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小林:10回目の展覧会「たべるとくらす」展について振り返っていきます。この企画は2016年度の冬の展覧会ですよね。その年の春頃から、この展覧会の出展作家でもある増田拓史さんのプロジェクトで「猪苗代食堂」というアートプロジェクトを実施していました。そのプロジェクトの成果も含めた形で企画を構成しようということで、開催した展覧会です。

大政:このときは、アサヒアートフェスティバル(以下、AAF)さんからプロジェクトの助成をしていただきましたね。

小林:奇しくも、AAFはこの年が最後になってしまいましたけれども関われてよかったなと思っています。「アートプロジェクト」に関しては、「森のはこ舟アートプロジェクト」に関わらせていただいていたので2回目という形になります。ただ、自分たちでゼロからアーティストの方にお声がけをさせていただいて実施するのはこれが初めてでしたね。初めてのことが多く、いろいろと苦労もありましたけれども、結果的には普段知り合うことのない町の方と出会えたり、逆にいつも会っている方の知らなかったことを知れたりとか、すごく意義深いプロジェクトでしたね。

岡部:そうですね。そして、地域の有名な郷土料理とかに焦点を当てるのではなくて、地域に暮らすいろんなご家庭の家族が大事にしている食事に焦点をあてるっていうところが、また味噌でしたね。

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小林:増田さんはこれまでも各地で「食堂プロジェクト」を実施されていましたが、それぞれの地域に入って「思い入れのある料理」というのをリサーチして、それらを様々なメディアにまとめて発表されています。この展覧会の寄稿も、群馬県にあるアーツ前橋を中心に行われた「前橋食堂プロジェクト」を担当していた、当時アーツ前橋の教育普及担当学芸員だった小田さんに書いていただきました。
これまでの寄稿文は後半部巻末に収録することが多いんですけれども、小田さんの書いていただいた文章がなんていうか、展覧会記録集の入口にふさわしいような内容だったので巻頭に掲載させていただきました。今回この展覧会は6組の作家さんに出展いただきましたが、なかなかユニークな方々が多かったんじゃないかなと思います。

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小林:岡部さん、印象に残っている方はいらっしゃいますか?

岡部:そうですね。やっぱり、増田さんとは一緒に町内のご家庭を訪問したり思い出深いのですが、次いで浅野友理子さんはとても印象的でした。限られた準備期間の中で猪苗代に来ていただいて、取材されたことを題材に新作を制作いただきましたね。

大政:そうですね。2点制作いただいて、一つは小菊かぼちゃ。もう一つは、余蒔きゅうりという食材を題材にされて、どちらも会津伝統野菜と呼ばれる野菜でしたね。
猪苗代町内で活動されている「のうのば」の土屋さんご夫婦がその会津伝統野菜を育てられていて、土屋さんが育てている野菜を浅野さんと見せていただきました。取材時は秋で、余蒔きゅうりは種取りをするためにパンパンにふらんでいるものをいいただいて、浅野さんが丁寧に洗ったり乾燥されたりしていました。

小林:浅野さんは命の循環のようなものも作品のテーマにありまして、そのときも土屋さんに小さなお子さんがいらっしゃるのをリサーチの中で知って。小菊かぼちゃの作品《耕地の緒》の中に胎児のようなものが描かれていました。土屋さんたちも展示された作品を見て、すごく喜んでいたのが印象的でした。

岡部:かぼちゃのツルがへその緒になってましたね。

小林:そうですね。その作品はその後喜多方でも展示されて、昨年も浅野さんと久松知子さんの2人展が喜多方で開催されたり。会津とも縁の深い感じになってきて嬉しいなと思ってます。

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岡部:大政さんは、印象に残ってる方いますか。

大政:そうですねえ。浅野さんもずっと気になっていた方だったので担当もさせていただいて嬉しかったのですが、宮城の大竹徹祐さんの作品も展示させていただけて嬉しかったですね。

岡部:ガムの包み紙の裏なんかにも描かれてましたね。

大政:そうでしたね。食材や食べ物をモチーフに作品を作ったり絵を描いたりされる方って、結構たくさんいらっしゃると思うんですけども、大竹さんの作品は、なんというか……食べ物や植物の瞬間や息づかいをそのまま切り取ったような表現が記憶に残っています。それとは対照的な文字の羅列も、絶妙なバランスで、おもしろいですよね。大竹さん自身は食べ物だけを描かれる作家ではないのですが、今回は食べ物や植物モチーフの作品を中心にお借りさせていただきました。

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小林:大竹さんはすごくリアルな作品を描かれる方でしたね。似ているようで、だいぶ違うようなのが、松崎妙子さんの作品でしたね。松崎さんもすごくリアルな野菜や食べ物を貼り絵でされていますが、色の濃淡というか、そのグラデーションがすごくリアルで。それがなんか一体感を生んでいるなと思いました。

大政:大竹さんも松崎さんも、実は限られた色数での表現なんですけどもそれを感じさせない表現で、つい足を止めて、はっと目を見張るものがありますね。

岡部:松崎さんの貼り絵の作品はファンも多く、ワインのラベルや、和食の料理屋さんやパン屋さんの紙袋のデザインなどにも選ばれています。

大政:好評ですよね。展示では貼り絵作品だけではなく、松崎さんが利用されている「あゆみの家」という事業所で開催されている料理教室のとき書き留めている、料理のレシピを記録したファイルも展示させていただきましたね。

小林:今回、展覧会タイトルが「たべるとくらす」だったのですが、暮らしの中に食べることも含まれるかもしれませんが、あえて食べるっていうことを暮らしと合わせてフォーカスする。そのことが当たり前にある日常みたいなところを少し改めて見つめるというか、そんなきっかけになればななんてことを思っていました。

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岡部:松崎さんのお向かいのエリアでは、「EAT&ART TARO+森のはこ舟アートプロジェクト西会津×三島WG」という形でプロジェクトをご紹介させていただきました。実はTAROさんは、はじまりの美術館が開館するときに、カフェをどんなものにするかっていうのを一緒に考えてもらったこともある作家さんでした。

小林:そうでしたね。私はまだスタッフになる前でしたけれども、「猪苗代の『おやつ』 TAROさんにおしえて!」というイベントに参加して、猪苗代のこびる(農作業の休憩に食べるおやつ)の話なんかを、お隣のしおやぐらさんでお茶飲みながらしましたね。

大政:今回展示いただいたのは、森のはこ舟アートプロジェクトで制作されたとち餅の作り方をテーマにした紙芝居と、「幻のレストラン」というプロジェクトの記録映像でした。紙芝居の作品は撮影禁止だったんですけど、村の中で大切にしていきたいという想いと、実際に奥会津の三島に来て欲しいっていう想いがあり、そのような対応をとった記憶があります。

小林:三島で伝統的に行われている「とち餅作り」という食文化でしたけれども、だんだん作れる人も減って、作り方も失われていくっていう状況があるそうです。この、森のはこ舟アートプロジェクトでは会津地域の伝統や文化を残そうとしていくプロジェクトでしたが、その中であえて「紙芝居」っていう形をとられました。村の中の公民館などで残るし、いろんな人が見れる媒体じゃないかっていうことで採用されたっていうエピソードがすごいと思うし、いいですよね。

岡部:この作品では、「アーカイブ」っていうことをそのときもすごく考えさせられました。デジタル全盛期において、あえて“紙”っていう媒体で次の世代に伝えていく。伝わりやすい手段が、残っていく手段ということもあるんだなと知りました。

大政:はじまりの美術館でも いなわしろの食文化をつぐプロジェクトという活動を実施しているのですが、「猪苗代の食文化を残すために、何がいいかな」と考える中で、遊んで学んで残って伝えていけるものとして、「いなわしろ食かるた」を作りましたね。

小林:「かるた」になった経緯もこの紙芝居とかがヒントになった気がしますね。もう一つは「幻のレストラン」という、三島と西会津をつなぐ街道の歴史から生まれた作品でした。新潟までをつなぐその街道から海と山の食材の流通が生まれていたということを、一日限りのレストラン形式で紹介したという面白いプロジェクトでした。これも実際に参加者が味わう経験ができるなど、どうしたら文化を伝えて残していけるかが考えられたものでした。

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岡部:そしてもう一つプロジェクト型の作品がありましたけれども、入り口で、ドーンと控えていたのが、いわきの下神白(しもかじろ)で行われたアーティスト・とっくんの「おでんプロジェクト」でした。

大政:そうでしたそうでした。

岡部:あれは展覧会の会期が始まってからトラックに積んで、いわきから運んだのが思い出されますね。

小林:下神白という地域が、震災後に復興公営住宅になっていたんですけれども、そこにはいろんな地域の方々が集まっていて。そのため、なかなかコミュニケーションをとることや意思の疎通が難しいという中で取り組まれたアートプロジェクトで、このおでん屋台が生まれました。とっくんはおでん屋台を媒介にすることで、各地域のおでんの特色で話が盛り上がったり、男性の方たちが屋台を作る大工仕事で活躍の場が生まれるのではと考えたそうです。実際にプロジェクトが進んでいってコミュニケーションが生まれることで、住民の方たちの結束力も生まれてきたというようなエピソードもありました。
会期がはじまる週に、下神白でその屋台を使うイベントがあったので、それが終わった後にお借りしに伺いました。なんか、会期の初日にないのはどうなのかと思ったりしたんですが、逆にその地域で活用されていることも伝える形になりで説得力が増したんじゃないかなって、いま振り返ると思います。

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大政:思い返すと、「プロジェクト」というものを展示作品としてはじまりの美術館で紹介したのは、この展覧会が初めてですかね。しかも、プロジェクト型の作品が出展作家の半分を占めているっていうのがなんだか面白いですよね。

小林:やっぱり「猪苗代食堂プロジェクト」が発端だったというのが大きいかなと思いますね。やはりプロジェクトの展示ってなると、どうしてもテキストベースというか、何かそういう形のものが多いんですけれども、いかにはじまりの美術館という場所で作品として出会っていってもらうかということも、すごく考えさせられた展覧会だったなって思いますね。あと、展覧会会期中にはオハコカフェの方でもいろんな企画を開催しました。「いいたてミュージアム」もこの時期にありましたね。

岡部:そうですね。今、プロジェクトを展示していくという話がありましたが、まさにこのいいたてミュージアムっていうのは、「ミュージアム」という名前のプロジェクトのご紹介でしたね。

小林:いいたてミュージアムは、いいたてまでいの会さん主催の巡回企画でした。飯舘村の中で震災後・原発事故後に残されたものを保存しながら、それにまつわる持ち主のエピソードだったりとか、村の人の言葉だったりが一緒に展示されている活動です。プロジェクト型でありながらも、移動可能な形のミュージアムで全国いろんなところを巡回されています。なんというか、ミュージアムというものの可能性といいますか、いろんなことを考えさせられるプロジェクトで、展覧会と合わせて開催できてよかったなと思う企画の一つですね。

岡部:はじまりの美術館が始まってからこのとき3年目だったんですけれども、なんかこう、アートや美術館とは一体なんなのかっていう問いがずっとあった時期で、このようなプロジェクトというものを通じて、アートにはいろんな切り口があるということを知ることができた時期っていうこともあったかもしれませんね。

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大政:いいたてミュージアムのあとに「たべるとくらしにまつわる手仕事市」も開催しましたね。食べることや手仕事にまつわる素敵な東北の商品を集めてご紹介・物販させていただきましたね。

小林:そうですね。はじまりの美術館は冬の時期はどうしてもお客さんが少ないっていう課題がありますが、この物販の企画では展覧会とは別でDMを制作して、力を入れて広報したおかげか、かなり賑わったような記憶がありますね。出展いただいた方々もみなさん魅力的な商品だったのが大きかったかと思います。

大政:冬の時期なのでオハコカフェにコタツも出していたのですが、東北各地の素敵なものが集まったことで、展覧会を楽しむお客さん以外にも買い物やおしゃべりを楽しむお客さんなど、いろんな人の集いを見ることができました。

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岡部:そうそう、小林さん。

小林:なんでしょう岡部さん。

岡部:小林さんがこの展覧会のときに受けたインタビューのこと、小林さん記憶にありますか?

小林:ん〜、何のインタビューだったでしょうか?

岡部:なんのインタビューだったかは覚えていないんですけど、そのとき小林さんが話してるとこことがすごくいいなと思って覚えてて。小林さんの前職が料理人だったっていうようなことも踏まえた話でした。そのインタビューでは「畑違いの転職をされて、美術展の企画を組み立てるってどういう感じですか?」といったことを聞かれてたんですよね。小林さんの答えが「企画をすることは、料理に似てると思うんです」っていうことを話してました。覚えてます?

小林:全然インタビューは思い出せないんですけれども(汗) そうですね、料理に似ているっていうのはちょっと言い過ぎかもしれないですが、自分の頭の使い方としては料理を考える時と企画展を考える時はすごく似ていると思っています。いろんな作り手の方がいて、作品と食材をイコールにするのはおこがましいですけれども、素材があって、それをいかに食べる人見てくれる人に美味しく召し上がっていただくかみたいな。料理の仕事をしていたときも、作り手を伝えることを大事にしているところで働いていたので、とくにそう思うのかもしれません。

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小林:ちょっと話が繋がるような、別な話になるようなですけれども、改めて記録集を読んで思ったことがあります。さっきお話した小田さんの文章は、「はじまりの美術館という家に招かれて」というようなタイトルで文章を書いていただきました。それに加えて美術館でも何度かイベントでご一緒している明治学院大学の猪瀬浩平さんという先生がいらっしゃいますけれど、このときにも「地域と食のこころのたねとして」というイベントを行いました。この記録集では猪瀬さんにも文章を寄せていただいていまして、その文章の中で「はじまりの美術館は人々が持ち寄った物とともに食べる大きな食卓だった」っていうようなことも書いていただいてます。お二人の言葉から、何かこの「たべるとくらす」っていうテーマの中で、家だったり食卓っていうフレーズが出てきたっていうことが何か企画を通してすごく温かい気持ちになるというか、気持ちが伝わったような気がして、改めて嬉しいというか、良かったなと思ってます。
デザインも会津で様々なイベントのフライヤーを手がけていたノガワアイさんにお願いしました。ノガワさんにも食文化だったりとか伝統的な食べ物とか、そういったところをイラストで可愛く仕上げていただいて、このチラシもすごく大事な作品で成果物の一つとして残ってますね。

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大政:今、「家」というキーワードが出ましたけど、はじまりの美術館は靴を脱いで入る美術館っていうこともあって、すごくお客さんと作品の距離感みたいなものが近くて、フラットな関係で出会える気がしています。そういう美術館の特徴も、この展覧会に合っていたのかなと思います。
今回、一番奥の部屋で、増田さんの展示の一部として地域の方々からお借りした食器を展示していたんですけども、季節や行事に合わせて食器の種類やレイアウトを変えたりして。そういう遊び心もありました。

小林:そうでしたね。いろんな方が家の食器を持ってきてくれて。なんか、料理こそ盛ってないですけれども、すごく華やかな食器が広がっていて食卓が再現できたなっていう感じでしたね。
展覧会会期中の関連イベントでも、節分の催しとして紙袋を使って鬼のお面を作るワークショップを実施しましたが、「福は内(家)」っていうのはすごくこの美術館に合っている行事だったんだなって今の話を聞いて思いました。

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小林:食べるということ、暮らすということっていうのは、農が暮らしの一部になっているこの猪苗代でも大切なことですよね。なので、これからもいろんな形で食文化だったり暮らしのことだったりとかは考えていきたいですね。
あと、やっぱり増田さんのプロジェクトで思ったのが、「(個人の)思い入れのある料理」だと郷土料理とは違ってその地域の公式の記録や文書で残りづらいですが、間違いなくこの街に住んでいた人の記憶だったり料理やレシピなんですよね。なんかそういう何もしなかったら失われていってしまうものみたいなことを記録したり、何かの形で留めるような、そういう活動っていうのはこれからもしていきたいなと思っています。

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