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【俳句鑑賞】先人俳人へのオマージュ(一)鈴木しづ子―伝説の人 その①

 我々自身「俳句をたのしんでいる」と周囲に伝えたとき、生きた化石を見るような視線を送られたことは一度や二度ではない。しかし俳句とはただ過去にあるものなのだろうか。確かに俳句は伝統ある文芸だが、その中で多くの俳人が挑戦を続けてきた。今回から荒田わこが連載する「先人俳人へのオマージュ」を通して新たな視点で俳人に触れてみよう。

鈴木しづ子―伝説の人 その①

荒田わこ

 現代の俳句を目にして先人の俳句やその境涯が浮かんでくることがある。
 『パエリア』創刊号から思い当たったのは鈴木しづ子(1919-1952)。
 代表句「夏みかん酢つぱしいまさら純潔など」など魅力的な句を残し、1952年に自らの句集の出版記念会を最後に消息を絶った伝説の俳人。現代の句と先人の句が繋がる。

信仰のやうに手渡す鳥兜

エイミーアットマイテーブル

 解釈の難しい句かもしれない。季語の「鳥兜」は薬草にもなるが、猛毒を持っているイメージが強い植物だ。その鳥兜を信仰のように渡すという。なにやら怖く、それでいて信じる者は救われるような……。「信仰」という言葉と相対するような毒を持つ「鳥兜」そして死が連想され、しづ子の句が浮かぶ。

コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ

鈴木しづ子

 しづ子は十七音しかない句に境涯が表れていることが何とも衝撃的だ。
 しづ子の句は俳句に関心を持っていない人にもイメージを膨らませ、過去にタイムスリップさせる力がある。

絶えず不運な家がある冬桜

禾門

 冬桜の儚げな美しさが「不運な家」というイメージに良く響き合っている。なぜ不運な家があるのだろうという疑問は沸かない。「絶えず不運」とはどんな不運だろうか。時代を超えて不運が続いてしまう救いようのないことをさらりと言っている。冬桜が救いでもある。貧困という言葉が思い起こされる。家族を支えるために働く女性の姿がふっと浮かんでくる。

煖房のおよばぬ隅に着更へする

鈴木しづ子

 しづ子が女工として働いていた頃の句だ。更衣室で着替えているのだろうか。低賃金で過酷な労働を強いられていたのか。当時の女性労働者の実情を垣間見るような気がする。

鈴木しづ子―伝説の人 その②へつづく……


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先人俳人へのオマージュ(二)鈴木しづ子―伝説の人 その②はまもなく公開

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