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【俳句鑑賞】先人俳人へのオマージュ(二) 鈴木しづ子―伝説の人 その②

 我々自身「俳句をたのしんでいる」と周囲に伝えたとき、生きた化石を見るような視線を送られたことは一度や二度ではない。確かに俳句は伝統ある文芸だが、その中で多くの俳人が挑戦を続けてきた。荒田わこの連載「先人俳人へのオマージュ」、今回は前回「鈴木しづ子―伝説の人」の続編である。

鈴木しづ子―伝説の人 その②

荒田わこ

炬燵に眠る夢の中でも嘘をつく

渡理いすか

 ぬくぬくと心地よい炬燵の中で眠っている。人によっては最高の幸せと言う人もいるだろう。そんな気持ちの良い眠りの中で嘘をつく。現実が夢に投影されているのかもしれない。この場面からしづ子の境涯を思った。

ダンサーになろか凍夜の駅間歩く
黒人と躍る手さきやさくら散る

鈴木しづ子

相談のある目をしたる冬帽子

荒田わこ

 冬帽子は年齢を重ねるほどに似合うアイテムだ。数年前、老人ホームの読書会でしづ子の句を紹介した時、普段は口数の少ない80代後半の男性が、進駐軍でダンスを踊っていた知り合いの若いダンサーのことを語りだした。戦後の遠い記憶をまざまざと思い出したという。

親のことかつておもはず夾竹桃
暦日やみづから堕ちて向日葵黄
   

鈴木しづ子

 鈴木しづ子は『春雷』『指輪』の二つの句集を残し、忽然と消息を絶った。女工からダンサーへの転身し、恋をして俳句を残したしづ子。生きているなら100歳を超える。どんな老人になっているだろう。人に相談を持ち掛けるようなタイプではないはず。そう思ってしまうのもしづ子の境涯と開き直ったような俳句の印象が強いからだ。

 しづ子は女優のように十七音の中で生き様を落とし込み、謎を残したまま今に至る。この後も鈴木しづ子の俳句は伝説として生き続ける。


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先人俳人へのオマージュ(一) 鈴木しづ子―伝説の人 その①はこちら


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