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俳句「老いて残るもの」

母と子のあはひに立てる朧かな

 ここに二つの朧がある。認知症の母とその子どもである私を隔てる朧と、母からはもう子どもと認識されることはほとんどなくて、子どもなのか他人なのか、中途半端な立ち位置にいる私の朧……。

 ここに到るまではいろいろ葛藤もあったけれど、いや、いまも葛藤がないわけではないけれど、これもまた悪くはない。例えば、朧月には、秋の月のような美しさや冬の月のような鋭さはないけれど、なんとも言えぬ優しさがある。もちろん美しさや賢さと優しさは両立しえないものではあるまい。事実、若き日の母はいま思えば美しく賢く優しかった。

 老いてゆくなかで母に残ったのが優しさであることは、私にとって何よりうれしい。

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