氷ニスト
今月で退職される先輩が、社内で何人かと話している。
「遠藤さん、この仕事辞めたら次は何されるんですか?」
「アタシねぇ、1年間凍ることにしたんだ。」
ん、なんだそれ。聞いたことないぞ。
「すみません、どういうことですかそれ?」
後輩の馬場は食いつくようにして訪ねた。
「だから、1年間凍ることにした。しらないの?そいうプログラムがあるんだよ。もうこんな毎日毎日働くのはうんざりなんだ。だから1年間だけ、寒くて辛くて苦しい思いをして耐えるの。そうしたらアタシの人生この先安泰なんだから。」
聞き耳をたてて聞いているが、なんのことかピンとこない。
「え、それってもしかして、あの実験のことですか?遠藤さん、待ってくださいよ。大丈夫なんですか?」
「うん。だって、それになるために3年前から地道に訓練してきた。最初は10分から始めて、いまは毎日5時間は冷凍庫に入れるようになった。耐性はついてきたと思う。あとはさぁ、正直もう運だよね。」
どうやら遠藤さんは、1年間無事に凍っていることが出来たら、この先の人生すべてにおいて保証しますという科学実験に立候補するようだ。
もちろん1年間凍っていられたらという前提のためその間の命の保証はない。
死んでしまうかもしれない。
命、というものの冷凍保存は可能なのか。
そういう人体実験である。
「だって、1年間凍っていられたら、あたしこの先の人生すべて保証されんの。どんだけ遊んでも旅行行ってもすべて負担してくれて、一生お金に困ることがないんだよ。死ぬかもしれないけどさ、毎日会社に行って働いて家に帰って、の繰り返しなんてもううんざりなんだ。だからこの決断はアタシ、ちゃんと覚悟があってのことなんだ。」
「でも、遠藤さん。それって成功しないかもしれないんですよね。もう会えなくなるかもしれないってことですよね。そんなのあんまりです。考え直した方が。」
「ううん。いいの、アタシ決めたんだから。その道を極める。氷のプロになる。氷ニストになんだから!!見ててよね!」
氷氷氷氷氷氷氷氷氷1年後 氷氷氷氷氷氷氷氷氷
「、、、。」
1年間、遠藤さんはどんな想いで凍ってたのだろうと考えると、
涙があふれた。
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