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03:アブサロン。"違い"との向き合い方が人生の質を高める

日本でも一世を風靡した北欧デザインのオシャレ雑貨屋さんのフライングタイガー。フライングタイガーもデンマークブランドであり、その創業者であるレナート・ライボシツさんが2012年にフライングタイガーを売却して、次に始めたのが教会をリノベーションしたコミュニティースペース、"アブサロン”だ。

コミュニティーというキーワードに興味関心がある人は是非とも訪れて欲しい。一見の価値が必ずある空間だと思う。

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はじめましてで、楽しむコミュニティーキッチン

アブサロンは、誰でも訪れることができるコミュニティースペースだ。昼間はコミュニティースペースとして、それぞれが思いおもいに自由な時間を過ごしている。カフェも施設内に併設されているので、コーヒーやビールを飲んだりできる。僕らが訪れた時は、若い子たちがおしゃべりしていたり、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる年配の人もいたりした。

夕方の時間からは、アブサロンはコミュニティーキッチンとして雰囲気が変わる。教会のホールには、長机がズラ〜っと並んでいるのが、そこがみんなの食事処になる。そして、アブサロンが面白いのは、レストランのように自分たちだけで、気ままにご飯を”食べれない”ところだ。

アブサロンでは、知らない人同士で、一つのテーブルに8人で座り、一緒に食事をする。誰と同じテーブルになるかは行ってみないと分からない。友達と2人でいけば、残りの6人は知らない人たちと一緒になるし、1人で行けば、同じテーブルには7人の”はじめましての人”がいる。

だけど、1人で行っても全く問題なく、むしろ知らない人たち同士がつながれるように場の運営方法も空気感も作られている。

まず、アブサロンの人がマイクを持って、全体に話をする。その中で、テーブル内で自己紹介をするようにファシリテートする時間もある。料理の紹介などもあり、全体で、いただきます的に夕食が始まる。

大皿料理をシェアしながら、思い思いに語らい合っているうちにだんだんと、ゆるくつながっていく。賑やかであり、あたたかくもあり、アブサロンという空間全体に、みんながつながっている空気感があり、心が落ち着く。

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出会いと繋がり、そして絆をはぐくむ

アブサロンは、フライングタイガー創業者のレナートさんが始めたと書いた。フライングタイガーを売却した後に、「こんな教会が売りに出ているんだけど買わないか?」という話があったという。

教会を買って、福祉施設にして運営するだけでは面白くない。特定の人たちだけが集まる場所ではなく、色んな人たちが集まり、関わり、つながりが生まれる場所にしたい。

そういう思いから、アブサロンでは、卓球やビンゴ、ダンスやヨガなど毎週60近いイベントが開催されていて、様々な人たちが集い、アクテビティーを通じて出会い、つながりが生まれ、絆が育まれている。先ほど紹介した食事もそうしたイベントのうちの一つだ。

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どんな人でも悩んだり、苦しんだりする時はある

「世の中で困っている人は、障がいを抱えていたり、福祉を必要としている人たちだけじゃない。困っている人たちは、他にもいっぱい、いるはずだ。」

「仕事でうまくいかなくて失業したり、彼女にフラれたり、大切な誰かをなくしてしまったりする人だって寂しい思いを抱えていたり、やるせない気持ちになって、悲しんでいる。そういう人たちにとっても、ふらっと立ち寄れて、一緒にご飯を食べて、会話ができたら、心が少し軽くなるはず。」

そんな思いが込められたアブサロンだからこそ、地域の人だけでなく、デンマークの人、そして世界の人に門戸が広く開かれている。誰でも、いつでもウェルカムだ。デンマーク語がしゃべれない人たちに向けて、定期的に英語での場、イベントも開かれている。

社会の中で困っている人は、福祉を必要としている人たちだけじゃない。普通に生活をしているように見える人たちの中にも、困っている人はいる。その考え方がすごくステキだと思った。

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便利なラベルと区別と心の距離

障がい者、失業者、シングルマザーなど、ラベルがつくとすごく分かりやすく、区別がつけやすい。そして、世の中には色んなラベルが溢れている。

障がい者、健常者。ストレート、ゲイ。既婚者、離婚者。上司、部下。日本人、デンマーク人、etc。

ラベルは識別しやすく、便利ではあるけれど、区別が簡単につくからこそ、その間に分断が生まれやすいという落とし穴もあるだろう。

あなたは障がい者、僕は健常者。そう区別した瞬間に生まれる違いが双方の間に、“僕と、あなたは違う”という見えない心の距離を生んでしまう可能性がある。

会社でも上司と部下という区別をした瞬間に、互いに違う存在、異なる存在として距離ができてしまっていないだろうか。経営者と社員という間でもそうだ。

同じ人間であるはずなのに、ラベルが付いた瞬間に、そのラベルに囚われ、心が柔らかさを失って、頑なになってしまっていないか。

「部下には、この気持ち、わからないだろう」「経営者には、この気持ち、わからないだろう」

「子供には」「親には」「先生には」「生徒には」「ゲイには」「ノンケには」「日本人には」「アメリカ人には」「リア充には」…、

そうやって、世の中に存在する色んなラベル同士が、どうせ分からないだろう、分かり合えいないよね、とぶつかりあってしまう時があると思う。

便利なラベルが、区別を生み出し、断絶や排除を生み出すこともある。そのことを、しっかりと心に留めておきたいとアブサロンのことを考えながら思った。そして、自分とは異なるものに対して”違う”と思う心のうごきが、相手を理解したいという気持ちや、理解しようという心の姿勢を妨げてしまわないようにしたいと思う。

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違うけれど、違わないということ

「最近、学校で嫌なことがあった」
「仕事で大きなミスをして、自信をなくした」
「誰にも自分の苦しみを分かってもらえない」

1人1人、個別具体の悩みは違うけれど、悩みを抱えているという点ではみんな同じ。住んでる場所や、普段働いている場所は違うけれど、この地球で暮らしていて、働いているという点においても同じ。

違うけれど、違わない。違うんだけど、同じである、共通しているという感覚が、分断ではなく、僕らをつないでいく。そういう感覚を持って生きていけたら、自分にも周りの人にも、もっとやさしく生きていけるのだと思う。そして、そうやって生きていけるように心がけていきたい。

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違いとの向き合い方が、人生の質を左右する

生きるということは、たくさんの違いが生まれ、たくさんの違いを味わうことであると思う。違いなくして生きていくことはほぼ不可能だと思う。僕らは生まれながらにして、違う。そして、日々を生きる中で、新たな違いも生まれていく。自他の違いとどう向き合い、どう付き合っていくかが、人生であると言ってもいいのではないだろうか。その向き合い方、その付き合い方が人生の質を左右する。そう思ったりしている。

だから、違いは忌むべきものではなく、よく見つめ、向き合い、分かち合い、楽しむものでもあると思う。

そんな時間を、色んな場所で、はぐくんでいきたい。会社でも、学校でも、家庭でも、地域でも、政府でも、国家間でも。

違いを分かち合い、違いの理解を深め、違いを生かしあっていく、その為の始まりは対話だと感じている。そして、そんな対話は豊かな土壌、しなやかな場づくりから生まれ、醸成されていく。

アブサロンには、まさにそんな土壌がある。リノベーションされた教会を舞台に、色んなラベルを持った人たちが集まり、共に食事をしながら、語らい、一期一会の時間を楽しむ。アブサロンで直接的に提供されているのは食事だが、そこから対話が生まれ、色んなラベルを持った人たち同士の間に絆や連帯意識が紡がれていく。

アブサロンに集まる人たちは、違いを越えてこの時代を生きる共同体感覚を分かち合っているんだろうと感じたし、はぐくむも、そういう場をつくっていけるように、もっと頑張りたい気持ちがより一層強くなった。

                           (文・写真:小寺 毅)

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