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自分の生き方、これからの社会について想いをめぐらす旅:01 デンマークの楽園“クリスチャニア”

「Life design x Social design」というコンセプトのもと、毎年9月にデンマークをめぐりながら自分の生き方、これからの社会のあり方について想いをめぐらすソーシャル スタディーツアーを企画開催している。

デンマークの政治・経済・教育・食・エネルギーという5大テーマを見てまわり、現地の人の取り組みや考えに触れ、その生き方を感じながら、参加者同士で感じたこと、気づいたことを語り合う。自分のこれまでの生き方を見つめなおし、これからの生き方に想いをはせる。そして、何かしらの決意を持って、未来に新たな一歩を踏み出していく。そんなツアー、そんな機会になったらいいなぁと思っている。

3年前。海外スタディーツアーを手がけていくと決めた時、

「ツアーに参加した人たちが、これからの日本を各々の興味関心ある分野でリードしていって、より良い社会、いろんな人が幸せで暮らせる社会をはぐくんでいく。そんなきっかけとなる場になったらいいなぁ。詳しいわけじゃないけど、現代の岩倉使節団みたいなイメージ。」

そう願って、いろんな人たちとの貴重なご縁を通じてツアーが実現し、ありがたいことに今年で3年目(3シーズン目)を迎えている。

筆不精のぼくだけど、今回はここでの時間、ここでの出来事を綴ってみようと思う。気負うと嫌になっちゃうので、カジュアルに、気ままに。

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”楽園”と呼ばれるクリスチャニア

まずは、クリスチャニアについて。コペンハーゲンの中心部から、ほんの1km弱の場所にある自治区であり、人によっては”楽園”と呼ぶ場所である。クリスチャニアはデンマークの中心部にありつつもデンマーク政府の統治から距離を置き、自治権を有している。独自のルールの中には、デンマークでは違法だが、クリスチャニアでは大麻が楽しめるというのもある。

そんなヒッピー的要素を色濃く残すフリータウンであり、既存の価値観とは一線を画す暮らし方が可能なクリスチャニアには世界中から数多くの観光客が訪れる。その数、年間100万人。リトルマーメイド像、チボリ公園に並んでデンマークの三大観光地となっている。

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運河沿いに広がる小さな街クリスチャニア

上の写真にあるのがクリスチャニアの地図だが、ダウンタウンと呼ばれる右下の中心地区から運河沿いに、横に長く展開している。端から端までおよそ1.5kmで、中心部に限れば、300m x 300mくらいの範囲なので、とってもコンパクトな街。

そんな街におよそ800人の人たちが暮らしている。ヒッピーっぽい人たちが暮らすフリータウンと聞くと、みんなお酒と葉っぱで働いていないんじゃないの?と思う人もいるかもしれないが、意外や意外?、クリスチャニアで暮らす人の多くは職についている。クリスチャニアの中で働いている人もいれば、クリスチャニアの外で働いている人もいる。今回、ぼくらをガイドをしてくれたピエロさん(本名)は、教師としてコペンハーゲンで働いていたという。そんなピエロさんが教えてくれた話を中心に、クリスチャニアについて書いていきたい。

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軍の跡地に若者たちが住みついて、生まれた街

クリスチャニアがある地域はその昔、軍の施設がある地域だったが、移転を機に軍が退去して空白地帯となった。そこに若者たちが住みつきフリータウンと宣言したことからクリスチャニアの歴史が始まる。それが1971年4月。もうすぐ50年という節目を迎える。

デンマークの若者だけでなく、デンマーク外からもフリータウンに憧れる多くの若者が集まり、クリスチャニアは賑わっていく。ガイドのピエロさんもその1人。イタリアのパレルモから移住してきた。

「もう最高のパラダイスだったさ。」

ちょっとくたびれた感じなんだけど、イタリア人らしいちょいワルな感じとイタズラっぽさを感じさせる笑顔で語るピエロさん。今までのガイドさんの中で、個人的には一番話が面白くて好きだった。イタズラっぽい彼の姿を写真に収めることができなかったのがちょっと残念なくらい。

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社会実験へと発展していった若者たちの理想郷

「3年間あげるから、その間は楽しんでもらっていいけど、それ以降は退去だよ。」

若者たちがフリータウンと宣言して、完全にアナーキーな場所となったクリスチャニアに対してデンマーク政府はとても寛容だった。イタリアならあっという間に鎮圧されていただろうね、こんな風にボコボコにさ、と殴りつけるジェスチャーをしながらピエロさんは語る。

3年間という時間がオフィシャルに与えられてから、クリスチャニアに住む人たちは壁をペイントしたり、街を綺麗にすることに積極的に取り組み始める。それは3年後にここを潰されないように、ここから退去させられないようにする為の彼らなりの考え方からだった。

クリスチャニアが、外の世界から閉ざされていて、不気味で危険な場所、ヤバい奴らが好き勝手に暮らす場所というイメージを持つ人が多ければ、3年後にはここはなくなってしまう。

デンマークのパブリックオピニオンとして、「あそこもいいよね」と感じてもらえて、発信してもらえたら、クリスチャニアは存続できるかもしれない。そんな想いから、クリスチャニアの人たちは積極的に外部の人たちと交流を始めた。

その結果、「どんな風に暮らしているか見せて欲しい」と訪れる人たちが増えたし、ピエロさんの自宅にも多くの人が訪れたという。

そして、3年後のその日。クリスチャニアの存続を訴える3万人の人たちがデモをしてくれて、政府はクリスチャニアを潰せず、存続を認めていくことになる。以降、クリスチャニアはますます人が増え、街をなしていく。若者たち中心の街から、家を建てて少しずつ家族で住むようになっていった。今も800人のうち150人ほどの子供たちが暮らしている。

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クリスチャニアを支える「コモン・ロー」と「コモン・ミーティング」

ヒッピー、大麻、フリータウンと聞くと無秩序でカオスとなりそうだが、クリスチャニアには、ここで暮らす人たちが”ピース”に生きるための "COMMON LAW(コモン・ロー)"、ガイドライン的なルールを設けている。

「武器の所有、使用は禁止」「コカインなどのハードドラッグは禁止」「暴力禁止」といったものから、「防弾チョッキ禁止」「車の所有禁止」や「花火の禁止」などもあるが、ルールは上記写真に記載されている9つのみ。

法律って、何が記されているのかその全部を普通の人は理解していないケースが多いと思うが、クリスチャニアでは9つのルールのみが明文化され、それを尊重しながら互いに暮らしている。とてもシンプル。

あれこれと全てをルールで縛るのではなく、基本指針となる部分だけを明文化して、それ以外の部分はその都度、必要に応じて当事者で話し合い、判断していく。

市長もいないし、ヒエラルキーを生み出す階層もない。特定の人たちだけが権力を持っていて、その人たちだけで決める、という権力構造もない。

何か問題があったら、その時に”コモン・ミーティング”という話し合いの場を設けて、そのテーマに興味関心がある人たちが集って話し合い、そこでみんなの納得感が醸成されたことを決定事項としていく。参加しなかった人は、そこで決まったことをリスペクトする。

そういう運用をして、成り立っているのがクリスチャニア。

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自分が他よりも優れていると思うな

「クリスチャニアは、スカンディナヴィアン メンタリティーそのものをよく表している。」

イタリアじゃ絶対できないし、お隣のスウェーデンやノルウェーでもできない、デンマークだからこそ成り立つ、デンマーク的文化の現れだとピエロさんは言う。

デンマークには、ヤンテロー(ヤンテの掟・Law of Jante)という不文律がある。10ヶ条からなるその掟の中心概念は、

【 自分が、他のみんなよりも優れていると思うな 】 である。

このヤンテローの価値観が根底にあって、クリスチャニアは成り立っている。自分が特別で、自分だけ優れているわけでなく、自分はみんなと同じ。だから、みんなで集まって、みんなで話し合って、みんなで決める。

「話し合いはすごく時間がかかって、かなり疲れるんだけどさ…。」

うんざりするような仕草で語るピエロさんだが、コモンミーティングがあるからこそクリスチャニアがクリスチャニアとして成り立っていることを本人も感じているのだろう。

コモンミーティングは、およそ月に2回ほど開催される。議題にもよるが住民のおよそ20%が毎回参加する。ということは、だいたい160人くらい参加しているのだが、その規模感での合意形成ってどんな感じなのか、ちょっと想像を絶する。

コモンミーティングでは投票しての多数決はしない。全体での納得感が醸成されるところまで、とことん突き詰めていく。

それって、どういう運用をしているのだろう?議題発案者がオープニングスピーチをして、そこから意見がある人が都度都度、全体に向けて声を上げているのか?それとも、少人数のグループに分かれて話し合いをしたりしながら進めるのか?そんなことがぼくの仕事がら、とても気になった。

コモンミーティングについてもっと詳しく知りたくてピエロさんに聞いてみると、ミーティング自体は、何か問題を感じた人がクリスチャニア新聞に、これについてどう思う?、いついつに話し合おうよと寄稿するところから始まるらしい。だから、誰でもミーティング開催を呼びかけられる。

そして、その投稿を読んで興味関心がある人が集まり、ミーティングが始まる。ミーティングをリードするのは議題発案者。なので、コモンミーティングごとにリードする人も違うので、場の進み方も異なる。都度都度、ユニークなわけだ。

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クリスチャニアとTEAL型組織の類似点

ここまで読んでいただいて、組織に興味関心が強い人は、「これって、TEALとかで話題になっている次世代組織で行われていることじゃない?!」と思われると思う。

コモンローやコモンミーティングの運用方法、クリスチャニアのあり方は、次世代型組織で行われていることや、その根底にある考え方に類似している。

特定の人が権力を握って、ルールをもって人を縛ることはない。制限を課すのではなく、人を解放する方向に軸足がある。1人ひとりの個性、ユニークさを尊重しながら、対話をもって物事を進める。強制参加ではなく、興味関心のある人が集まり、興味関心のある人たちで話し合う。そこで決まったことを参加しなかった人たちもリスペクトする。だから何かを開催する時や、何かが起きてる時はしっかりと周知する。

こういう環境や集団組織では、自分が何に興味関心があって、どうしたいのか、どうありたいのかっていう自分軸がすごく大切だと感じている。自分をよく知っている必要がある。そして、それをしっかりとオープンに主張する力と、オープンにするスタンスが大事になる。ちゃんと様々な立場の人たちと対話できる力というか、素養が求められる。

「〇〇さんのあれ、絶対上手くいかないと思うんだけど」「本当はもっとこうだよね」「俺は反対なんだよな」

と、ミーティングが終わってから、本音を陰で話し始めるのは残念極まりない。それまでの話し合いの時間はなんだったの?ってなるわけだから。

ミーティングに参加したら、しっかりと自分の意見をのべる。異なる意見にも耳を傾け、それを理解し、どうしていくのがより良いのか考え、知恵を出し合い、妥協点ではなく着地点を探る。そういうプロセスに本気で参加者が参画するから、コモンミーティングなどには相当な時間がかかる。だけど、そこで生まれたものには、みんなの想いがつまっているので、しっかりと定着して、実施されていく。

そういう意味では、常に自分が問われていて。上記のような自分を常に捉える力や対話力などがなければ、クリスチャニアに住んでも、TEAL型組織に所属しても、”幸せ”に暮らしたり、働いたりはできないのではないかと思った。

                           (文・写真:小寺 毅)

自分の生き方、これからの社会について想いをめぐらす旅:デンマークのブログシリーズ

01:デンマークの楽園“クリスチャニア”

02:知れば知るほど面白い クリスチャニアのあれこれ

03:アブサロン。”違い”との向き合い方が人生の質を高める

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