ブランディングにおける運用力を高めるために必要なこと
何事においてもそうですが、ブランディングは特に、継続して動かさなければ望む成果は出ません。少し前に比べると、ブランディングの重要性はだいぶ浸透してきて、多くのビジネス系メディアでもその価値が語られている。しかし、その影響で見た目に凝ったブランドが増えてきた一方で、そこにストーリーや人の気配が感じられないことがある。
見た目として素敵なロゴマーク、WEBサイトがあっても何かデザインが機能化している感じがあり、その理由を探ってみると、運用が停滞してしまっていることが多い。また、コンセプトが曖昧で、言葉自体が美しくても中身が伴っていないケースもある。
運用は育てること
運用とは「ブランドを育てる」ということ。コンセプトに沿ったアクションやコミュニケーションを継続し、ブランドの姿勢や価値を伝え続けなければ、生み出しっぱなしの状態になってしまう。また、コンセプトから大きく外れた発信もよく見かける。伝わってしまった情報や印象、一度出来上がってしまった顧客との関係性は、覆すのが難しいからこそ、慎重に運用していくことが求められます。
ここからは、運用を強化するために最低限抑えておきたいポイントをまとめていく。
課題の洗い出しとプロジェクト化
運用をうまく進めるためには、まず中長期ビジョンから逆算した現状の問題や課題を整理し、優先順位を決める必要がある。洗い出された課題を一旦並べ、実施しやすく重要度の高いものから取り組む。取り組み内容が決まったら、プロジェクト名やプロジェクトミッションを策定し、本格的に体制を整えていく。プロジェクト名やプロジェクトミッションは案外蔑ろにされがちですが、案外大切なので意識的に言語化しておく。
プロジェクトリーダーを決める
プロジェクトリーダーの人選は、プロジェクトの行末を大きく左右する。しかし、よくやってしまいがちなのが、その人選をやる気や頼みやすい人になんとなくお願いしてしまうこと。
やる気があること自体はとてもありがたいことなのだが、そうした人選をしてしまうとプロジェクトが失敗に終わるケースが多い。なぜならプロジェクトは試行錯誤の繰り返しで、基本失敗の連続です(もちろん失敗することが当然になってはいけない)。やる気の種類にもよりますが、そうしたうまくいかずにいる時こそ、やる気はあてになりません。
一つの選定基準として参考にしていただきたいのが、"問題をつくれる"ことや根本的な課題の特定が得意で、チームメンバーのニーズを把握している人にお願いすること。あえてもう一つ加えるなら言語化が得意であることも大事なポイントだと思います。
また、プロジェクトリーダーに「具体的にどこまで任せるか」も慎重に決める必要がある。リーダーが権限や裁量を持たず、意思決定ができない状況では、プロジェクトは容易に停滞してしまう。名ばかりのリーダーにしてしまうと、本人も混乱し、意思決定のたびに多くの確認が必要となり、次第に伝書鳩のような役割に陥ってしまうことも少なくない。
予算設定や最低限確認を入れてほしいことなどを細かく伝達しておくとこの問題は解消されるはずです。
小さな目標の設定
先ほど、「実際に取り組み際は、実施しやすく、重要度が高いものから取り組むのがおすすめ」と書いた。それは小さな成功体験を積み重ねることがとにかく大切だから。いきなり大きな成功を目指すのではなく、少しずつ目標をクリアしていくことで、士気を保ち、長期的な目標にも近づくことができる。
大きな目標から逆算した小さな目標を設定し、一つずつクリアしていくことに”まずは”集中する。
ルールの設定
人は自由すぎると、かえって動きが鈍くなることがあります。かなり極端な例えですが、誰かに手紙を書こうと思った時に、真っ白な紙を用意すると一瞬どこから書き始めようか迷うと思います。ここに罫線・ラインがあれば自然と紙の先頭に手が動き、スムーズに書き始めることができる。つまり一定のルールを設定することで、一つひとつの判断が容易になり運用のハードルが下がり、一貫性も保つことができます。
ちなみにルール化の一つの例として、クリエイティブガイドラインを作成しておくことがお勧め。クリエイティブガイドラインには、最低でも以下の項目に対して自社ブランド独自のルールを設定しておく。
▼主に構築フェーズで明確にした内容を基に作成する
ブランド戦略に関する情報
→(インサイト、ターゲット、ポジショニング、ブランドアイデンティティ、ブランドパーソナリティなど)ロゴを使用するにあたってのルール
→(デザインのコンセプト、プライマリーロゴ、セカンダリーロゴ、アイソレーション、使用禁止例など)カラーに関するルール
→(プライマリーカラー、セカンダリーカラー、アクセントカラー、カラーの使用例など)タイポグラフィーに関するルール
→(和文英文それぞれの魅せる書体、読ませる書体、WEBフォントなど)写真の使用ルール
→(被写体やテイスト等のNG例、推奨例、ブランドによってLightroomプリセットを用意しているところもある)テキスト/文章作成時のルール
→(1人称、2人称、口調、使用可能な記号等)
上記で設定したルールの範囲内で自由に思考し行動できる状況を作ることが大切。ちなみにクリエイティブガイドラインは一度作って終わりではありません。これに関しても運用していく中で気づいたことや課題となったことがあれば絶えず修正ブラッシュアップしていく。
最後に
継続的にブランドを育てていくためには、日々本質的な課題を突破するために、適切な判断を下すことが求められる。モノや情報が溢れ、単に見た目として綺麗なビジュアルも飽和状態にある現代において、運用力がブランドの成否を大きく左右します。
今もこれからも運用の時代。そんな時代の流れをどう味方につけていけるか。