日常から非日常への通路。
5年前、28年間続けてきたお店を閉じるとの報告をいただき、静岡に急いだ。少し狭い店舗。たくさん物が置かれた木造カウンター越しに、ラガーシャツの店主が目立つ。気さくで話しかけやすい印象で、常連のお客様もたくさんいるようだった。ふと、隣を見ると、すでに常連客の女性が涙を流し、店主に思い出を話しかけていた。なんだか店主の人柄が見えて、私もじんと来た。帰り際、長年お世話になったことと、出会えたことに感謝を込めてお礼を述べた。そして、固い握手を交わし、その場を離れた。
それから3年、ご本人も「まさか、こんなに早く再開するとは…。」と述べるほど、早いお店の再開だった。同じ静岡市のA区に移転。内装も以前とは違い、清潔感のあふれる作りだ。
「ちゃんとした服着ていないと、先生(設計士さん)に怒られるから。」と、パリッとした白いシャツにエプロン姿。30年間使い続けてきたコーヒーポットを左手に持ち、老眼鏡をはずし、ドリッパーに着きそうなほど顔を近づけてコーヒーを淹れる。そのすべてが、たった一杯のコーヒーの味をさらに引き立てる。
少し懐かしさを感じながら話をしていると、すでに18時になっていた。コロナの影響で人との接触頻度を減らすために、車で訪問していたのだが、さすがにもう帰らないと。挨拶もほどほどに席を立つ。
帰り際、出口までの長いエントランスを進む。
来たときは、意気揚々と通ったこの通路。
帰りは、日常の世界へ戻るための通路のように感じた。
喫茶店の通路。それは、日常と非日常の境界線なのかもしれない。
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