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新たな炭の始まり。焙煎師とともに林業の皆さまの思いに触れる。

【はじまり】
和歌山県有田川町で林業を営むマルカ林業さま(以下、敬称略)を訪問させて頂いた。灘区のいちばたけで「炭火焙煎のアナログの世界と麻袋活用・分解から遊ぶ」。そんなテーマのお話をさせて頂いた際に、ご参加されていたお客さまよりご紹介頂いたことがきっかけだった。

マルカ林業では、どの山のどの部分に植林し、伐り出して運搬するか。運搬効率・人手・工数など、複雑かつとても緻密に練られた計画に基づいて林業を営まれている。

【炭づくりのきっかけ】
もちろん、材として植栽されていく木々はスギやヒノキが中心となる。間伐、皆伐の過程で作業の支障となる、カシノキなどの様々な広葉樹も伐られるのだが、それら雑木は伐ってもその用途が限られてくる。炭素固定(CO2吸収)と燃焼時のCO2排出の観点から、燃やすだけでもよいのだが、「燃やして終わる。ではなく、もうひと活躍して欲しい」と言う言葉が印象的だった。

マルカ林業では、数年かけて「白炭が製造可能な窯」を1基手づくりされていた。備長炭は長さや径、樹木の種類などによって規格が決められている。その規格をもとに、高品質な炭づくりをすることはとても重要だが、規格の上位に入らない、さまざまな樹種(雑木)で製造されるものや、短かったり、割れたりした炭も、どうにか用途があれば色々な樹木が伐られる意味が生まれてくる。

手づくり備長炭の窯

【焙煎師の使う炭】
萩原珈琲では炭の消費が年間8t弱あり、そのうちの約2割を備長炭で賄っている。火つきに時間はかかるが、火のいこりや火持ちの良さが理由だ。一方で、焙煎窯の投入口の広さや燃焼の性質上、長いものは焙煎師が使いやすいように割って使っている。つまり長く太いもの(高級品)を仕入れた場合、焙煎師が割りいれてしまうので台無しになるし、コストや効率の両面で使用が難しい。

【私たちの役割】
以上から、林業の皆さまが備長炭を作る上で出てくる、選定後の短い炭や割れた炭は、私たちにとって「ちょうど良い大きさの炭」になっている。さらに焙煎において大切なのは「何分の時に何度を経過したか」なので、特定の樹種にこだわる必要はない。つまり、マルカ林業の目指されている「もうひと活躍して欲しい」と言う想いに、私たちの炭の消費が寄与するかも知れないし、森林保全における伐採された雑木の出口になれる可能性はあると思う。

有田川町の風景

焙煎の効率化を図る上で、制御しやすい機械の導入もあり得る。しかし、私たちは敢えて手づくりや人間力にこだわり、非効率でアナログな「炭火焙煎」を継承してきた。この昔ながらの手法だからこそ生まれる、さまざまな人との出会いや学びがある。今回のように林業の皆さまにお会いすることができるし、その思いを教えて頂く機会も生まれる。そして、私たちのコーヒーを通じて、林業の皆さまの想いをお客様に知って頂くことができるかもしれない。

【未来につなぐ、アナログの世界】
森の案内の最後に、担当者から聞いた言葉がある。「森の仕事の結果は、10年・20年じゃ見えない。今の子ども達がおとなになる頃に結果がでてくる、未来の森を作る仕事。業として使う森の手入れも大切。あわせて、広葉樹も混ぜ込みながら自然に近い森を作ったり、残していくことも必要だと思います。」

森は放っておいても良くはならなくて、手入れ(間伐)によって光を取り込み、新たな芽吹きが生まれ、生き物が集まり、循環が生まれる。森林保全を担う皆さまの想いに触れながら、その過程で作られる「炭」を消費することで、私たちにも果たせる役割があるのではないかと思った。そして、何よりも作り手の皆さまの顔が見えるこの炭を、これからも大切に使っていきたいと思う。2024年5月10日、萩原珈琲に新しい炭が加わります。

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