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金沢から岡山へ、女ひとりリトルカブで走った2日間450kmの旅路 ~前編~

ちょうど10年前、大学4年生の夏のこと。
ふせんだらけのツーリングマップル片手に、金沢を出発しました。目に映るのは、朝なのに黄昏時のような感傷的な景色。ジェットヘルメットに付けた、オレンジ色のバブルシールドのせいです。

カブに乗れば、どこにだって行ける。

排気量50cc、赤と白のリトルカブ
スーパーカブより丸っこく、かわいらしいボディの原付バイクです。
運転免許を取得した翌日、中古車ショップで買いました。
きゅっ!と右手のアクセルをひねり、ガチャコン!と踏み込んでギアを変える楽しさ。
ガソリンスタンドで「郵便屋さんみたいですね!」と声をかけられるうれしさ。
風を切って走る爽快さ。
ハマりました
これに乗ればどこだって行ける!行動範囲がぐっと広がりました。
道は、どこまでも繋がっているんだ。
そして、「学生のうちにどうしてもやりたいことリスト」に「カブで金沢から岡山に帰省する」が追加されたのでした。

出発して2時間、いきなりトラブル発生

早朝に石川県を出発して、お隣の福井県に入ってまもなく、トラブルが発生しました。
走りながら、チェーンから異音、足元のカバー内部にガチャガチャと当たるような違和感
なんだこれは。昨日、近所のバイク屋でメンテナンスしてもらったんだけどな…

異変に気付いた場所は山の中だったので、とりあえず走れるところまで走って、市街地のガソリンスタンドに入りました。
金沢ナンバーを見て、「金沢から走ってきたんですか?どこまで行くんですか?」と聞かれ、「今日はとりあえず滋賀まで行きます。そこから明日岡山へ…」と、若気の至りで無謀なことするアホ学生だと思われないだろうかと不安になりながら答えました。

異音の状況を説明すると、「奥の整備場で、直せるか見てみますね。あちらのロビーでお待ちください」と案内されました。
対応してくれるらしいことに、とりあえず一安心。

半端ない場違い感

しかし、ふと奥を見渡すと、やたら広い整備場。
そこに並ぶ車は、全てピカピカのBMW
通されたロビーはガラス張り、ソファーは革張り
完全に場違いな空気に赤面しながら、いそいそと1シーターなのにやたらでかいソファに座り、汚れたヘルメットを抱えて待ちました。待ち時間にコンシェルジュ的なお兄さんが出してくれたアイスティーが、冷たくておいしかったのを覚えています。

ほどなくして修理が終わり、「無事に直りました」と声をかけられました。
旅を続けられることに安堵しつつ、こんな高級車専用スタンドみたいなところでの修理なんて、一体いくら請求されるんだ…とびくびくしていたら、
旅の途中とのことで、お代金は1000円で大丈夫ですよ」と。

ああ、旅は一期一会。
なんという神対応
ありったけの感謝を伝え、「お気をつけて~」と送り出していただきました。

難関・敦賀の峠越え

その後、リトルカブは正常な音で快調に走ってくれました。感謝。
次に思い出深いのは、福井県と滋賀県の県境。
敦賀から山を越え、琵琶湖が見えるところまで行く道が大変でした。
くねくねの急こう配、右手首のスナップを思いっきり利かせたフルスロットルでも、時速20km程度しか出ません。
のろいリトルカブの後ろに連なる大型トラック。
心の中で「すみません!すみません!弱小カブでこんな道を走ってすみません!」と焦りまくりでした。
まるで、巨大なローリングストーンにじわじわと追い詰められるネズミのよう。
いつクラクションを鳴らされてもおかしくない。
直線になった瞬間に強引に抜き去られ、去り際に「おせーぞ!」とドヤされるかもしれない。
じわじわと迫り来る恐怖に、文字通り手に汗握ってグリップが滑ります。

でも、クラクションを鳴らされることも、強引に抜き去られることもありませんでした。
もしかしたら、トラックの座席上からは、カブの左グリップにかけたトートバッグの中に突っ込んであるツーリングマップルが俯瞰できたのかもしれません。
トラックの運転手さんも、峠を攻めた若い頃を思い出し、ほんのりとしたノスタルジックに浸り、決して悪い気分ではなかったのかも。
と、ポジティブにとらえておくことにしています。

ともかく、ハラハラしながら山を登りきり、なんとか峠を越えました。
そして眼下には琵琶湖
1日目は、琵琶湖沿いのインターネットカフェに宿泊すると決めていました。
予定通り、日が落ちる前に到着し、ほっと一息です。

後編へ続く

長くなったので、後編へ続きます。
後編の見出しは以下。
・宿は漫喫、なのにうっかりリゾート温泉施設へ
・京都の山で迷子、姫路でも迷子
・ラスト30kmで雨に降られる
・私がこの旅で手に入れた3つのもの
・あのリトルカブは今

どうぞお楽しみに!(近日更新)


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