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禁忌を破った男女の行く末は……【映画『狗神』の感想を書き綴る】

2001年の日本のホラー作品。
R15+です。

坂東眞砂子による同名小説の実写化。
小説は読んだことないので事前知識無しで鑑賞しました。

主演の天海祐希さん、今とほとんど変わらんな……20年経ってるのに!
渡部篤郎さんは、今は白髪混じりでシブい雰囲気してるから、この映画のあどけなくて甘い感じなのは不思議な感じがしました。

ネタバレしつつ、思ったこと垂れ流します〜

◎あらすじ

高知県の尾峰に住む『坊之宮美希(ぼうのみや みき)』は紙漉きを生業とし、一人きりの工房で黙々と和紙を作り続けている。
代わり映えはしないが平穏な毎日を送る美希。

ある日、村の小学校に赴任してきた若い教師『奴田原晃(ぬたはら あきら)』と出会ってから、彼女は若々しく美しい姿を取り戻していく。

一方で、村では「狗神様の祟りだ」と不吉なことが立て続けに起こり、「狗神筋」と呼ばれている坊之宮家に暗い影を落としていくのだった。

惹かれ合う美希と晃だったが、ふたりの間には隠された秘密があった。
連綿と受け継がれてきた因襲から、ふたりは逃れることができるのだろうか……

◎ネタバレ感想・考察

❇一般的な『犬神筋』とは

・犬を使ったヤバい儀式で作った『犬神』とされる化物を使役する一族。
一族に富と繁栄をもたらすが、一族に敵対する者には害を及ぼすため、恐れられる。
また、『犬神』の世話を疎かにすると祟られるので、とても面倒。

・源頼政が退治した『鵺(ぬえ)』という化物の一部が四国に流れ着いて『犬神』になったという民間伝承があり、作中ではこの由来のほうを採用。

・女系に憑くとされ、『犬神筋』の女性は結婚するときに相手側の家族に反対されることも多かったとか。

作中では「坊之宮の直系女子」に代々受け継がれ、世話をするしきたりがあった。
美希の母親、美希、姪の理香が『狗神』の姿が見えるとされてました。
土居製紙の誠二は理香との交際を、ばあさまに大反対されてましたね。

・また、オカルトな話とは別で、『共同体内部の富の偏りによる妬み』によって、金持ちな家が差別を受けるという側面もあるそうです。

「あの家が金持ちなのは、犬神を使って不当に富を得ているからだ」と思い込んで、貧しい自分に折り合いつけてるんですね。嫌な因襲……

❇『狗神』は本当にいたのか?

作中には『狗神』の姿は出てきません。

美希が壺の中に『何か』を見ますが、母親の霊を降ろしているときのやり取りなので、本当にいるのかわからない。
(そもそも『母親の霊を降ろす』こと自体も、もしかしたら美希の強い思い込みによる可能性もある。だって美希以外は誰も『母親の霊』を見てない。)

たまにモヤのようなものが画面を横切るのが、たぶん『狗神』かな?という程度。
しかし、それも言及はされてないので視聴側の憶測でしかない。

『狗神様』が起こした悪さと言われていたものは……

・多くの人が悪夢を見る
・東京から来た家族が一家心中
・土居のばあさまが心筋梗塞で死亡
・バイクのおばさん倒れる
・園子が発狂して子供を殺し、首吊り自殺
・連日霧が濃くなる
・誠二のパソコンがおかしくなる

悪いことは全部『狗神様』のせいと村人が言うので、真偽は分からない。

誠二のパソコンは明らかな怪奇現象だったけど、他のは「たまたま」が重なったと言い切れなくもない。

土居のばあさまは黒く染まって何か吐いて死ぬ描写されてたけど、目の前で見ていた孫の態度は普通だし「心筋梗塞」と言ってるから、あんな見た目で死んだわけではなさそう。
あれはイメージ映像だったのだと思う。

・『狗神』が本当にいるかどうかは分からないけど、美希には不思議な力があるのかもしれないなぁ、とは思う。

メガネが要らなくなったり、白髪が減ったりは、「恋の力で美しくなった」レベルを超えてると思う(笑)

❇男の見栄に振り回される女の悲劇

坊之宮の女たちの立場の弱さは色んな場面で散見されました。

・美希→『狗神筋』の直系女子なので村人から忌み嫌われる。
村で結婚も恋人もできるはずもなく、冒頭では草臥れていて、まるで隠居生活。40代なのに「婆さん」扱いをされても受け入れていた。

・富枝(美希の母親)→分家に嫁ぐときに『狗神様』の入った壺を譲り受け、毎日ずっと世話をしていた。
分家に行ったのに本家の狗神の世話を押し付けられるとか地獄……

若い時に駆け落ち騒動を起こしたが、すぐに連れ戻された過去がある。
この人も、全てを諦めて淡々と毎日を生きるしかなかった悲しき女性だったみたい。

・園子(本家の嫁)→本家当主である隆直の嫁なのに不遇の人物。
夫は仕事もせずに浮気や投資失敗で金を使うばかりで、妻を顧みない。
夫の不満を美希にぶちまける割には、夫にすがるしかない悲しい女性。
暴力をふるわれても耐えるのみである。

最後には、村中から『狗神筋』だと村八分を受け発狂。
自身の子供を殺したあと、首を吊り自殺。

・百代(美希の兄嫁)→言いたいことはバンバンいうが、やはり家での立場は弱い。

子宮筋腫が見つかったときに、本人の了承無く子宮を全摘出術されてしまった過去がある。
旦那と医者で勝手に決めちゃうってヤバいですね……そら根に持たれますわ。

終盤、知らずに毒の酒を飲み吐血。
死にかけながらも、夫の首に噛み付いて引導を渡す。

・理香(美希の姪)→百代の娘。
この子も直系女子になるので『狗神様』を見ることが可能とされている。
村を出て暮らしていこうと計画しているが、土居誠二からアプローチを受けている。

最後は生き残ったが、村を出てったほうが幸せになれそうだな……

誠二を受け入れて結婚したとしても、土居製紙の御曹司は村を離れられなそうだから、結局は『狗神筋』という運命から逃れられないもの。

・喜代美(美希の甥の嫁)→生まれたばかりの子供の写真を撮ろうとしたら「カメラで撮ったら魂が穢れる!」と家のしきたりを持ち出した夫にカメラを破壊される。

終盤、先祖祭の際に赤子は死んでしまい茫然自失となりながら、山に火を点ける。

なまじ力のある名家に生まれた、嫁いだために逃げることも叶わないという……不満はあれども、どうしようもできないという諦念が見え隠れしてました。

一方で「坊之宮の男」たちは男だけで集まって、あーでもないこーでもないやってましたね。

一族の女には強く出る割に、村人にはそこまで強くは出られない。
長年の『狗神筋』としての扱いで、迫害されることに慣れちゃってる面もありそうですね。

時代錯誤なしきたり(テレビ、カメラ、コンピュータ不可なくらし)を守ってるのも、ただ思考停止してるだけな気がする。

最後には当主である隆直の発言通り「みんなで一緒に死ぬ」という集団自決に走るわけですね。
男の誰かが「逃げ出すような無様を晒したくない」とか言ってたけど、命より面子取るのか~😩

酒に毒を混ぜて、それを知らずに飲んだ女子供が死に、残った人も斬り殺す。
無理心中と同じ身勝手さを感じます。

❇血と血を交じらせて先祖の姿蘇らん

『近親相姦』もこの作品の大きなテーマでしたね。

まさか惹かれ合ってる美希と晃が親子とは……しかも晃は美希と実兄・隆直との子。

『狗神』というのは「犬が親子同士でも交配する」という点と「美希と晃の近親相姦」にも掛けてるんでしょうね。

美希と隆直によって、坊之宮の血が濃く生まれた晃。
そして、その晃と美希の間に出来た、更に血の濃い子供。

この子は果たして『鵺』として生まれたのか?

そこは作中では描かれませんでしたが、血を掛け合わせていけば『鵺』が蘇るとか、オカルト的なロマンはありますね。

血が濃くなると遺伝的に奇形児も生まれやすいんですよね。
『鵺』って色んな動物のキメラみたいな化物で奇形っぽい形してますよね……
何か符号的なものも感じます。

あと『源頼政に退治された鵺』と『坊之宮の先祖が平家落人』というのも、『源氏に負けた』という点で同じですね。
意味深。

◎総括

流石、有名どころの俳優さんを多様して、お金をかけて作った映画なので安定感あって、安心して観られました。

当時はドローン撮影なんてなかった時代だから、ヘリ撮影なんでしょうけど高知の山々や自然の美しさが素晴らしい!

あと美希が紙漉きしてるシーンは静謐で神々しくすらありました。

たぶん、この作品の売りだろう情交シーンは官能的で美しかったです。
局部を映さずに演技だけで、あそこまで艶かしくなるとは。

ホラー映画というより、オカルト風味の恋愛映画という感じ。
でも、閉塞感ある村の因襲、しきたり、しがらみなど。
じっとりとした人間の嫌らしさがまとわりついててホラー的に良い雰囲気でした。

作中の女性たちが、今の時代からでは考えられないくらい、本当に不遇でならなかったですが、田舎の旧家ならまだある風景なのかも……とも思わされてしまいます。

一番の見どころは、美希がどんどん強く美しく変わっていくところかと思います。

はじめは、不条理に耐えてひっそりと生きるだけの女だったのに、晃の愛と覚悟を受け取ってからは、「何があっても生き抜いてやる!」という気概を感じ取れました。

頭を撃たれて瀕死の晃を見ても、諦めずに先に進もうとする美希に、強い生命力を見出しましたね。

バイクが消えたのは、誠二が撤去したんじゃなくて、美希と晃の逃避行に使われたと信じたいです。
村のしがらみから解き放たれて、幸せになってほしい……!と思わせるラストでした。

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