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うそのある生活 5日目

6月4日    曇り  生ぬるい風のある日

5月までで妻の時短勤務が終わり、6月からはフルタイムになった。平日妻が家にいる時間が2時間近く減ることになるので、それに備えて週末に食事を作りおきをしたりしたのだけれど、やはり生活がかわったので家のことが追いかないでいる。

とくに家の中の散らかり具合はなかなかのもので、工作ブームを迎えた娘が紙切れやテープの屑を大量にだすのだが、それを片付けている暇がない。家が散らかるほどに妻がぴりぴりとしていくのがわかるのだけれど、こんなときに限ってわたしのほうも仕事も立て込んでなかなか早くは帰れないでいる。

今日は家に帰ると、リビングに猿のぬいぐるみが置いてあった。ずいぶん前、まだ独身の頃に友人からもらったもので、振動で動き出すしくみになっている。長らく電池を抜いて玄関の置物にしていたのだが、それに妻が電池を入れて、娘の遊び相手にしたらしい。軽く叩いてみると、20センチくらいの猿が両腕を上下させながら、キャキャキャ、と鳴き声をだした。なかなか楽しいので、目につくとついつい叩いてしまう。

娘もこの猿がずいぶん気に入ったようで、風呂上がりに着替えをさせようというときにも、すぐにそちらに興味がうつっしまうので困ってしまった。オムツを履かせたと思うと猿を叩き、肌着を着せたと思うと猿を叩く。そんな調子なので、着替えが遅々として進まない。

なんとか夜の準備を終えて妻と娘が床についたあと、ふと猿を見ると、そういえばこの猿は掃除をしてくれるのだったと思い出した。スイッチを入れておけば夜に部屋を片付けておいてくれるというのを、友人からもらった時に説明されたはずなのだが、どういうわけかいままですっかり忘れていた。

猿を逆さまにしてお尻のところを見るとたしかに、片付け、というスイッチがあった。自分の寝る準備も急いで終わらせて、猿のスイッチを入れると、目が光って猿が少し動いた。どうやら動きそうで、これで家が片付くようになるし、妻の機嫌も少し落ち着くはずだと、良い気分で床についた。

ベッドでうとうととしはじめると、リビングから、キャキャキャ、と例の猿の鳴き声が聞こえた。静かになった家の中に響いたので、ずいぶん大きく聞こえて驚いてしまう。

リビングに行くと、小さな猿が鳴きながら手を上下させて、紙切れやテープの屑を集めていた。どうやら掃除をするときにもあの鳴き声をだすようで、喚声をあげてはゴミを拾っている。あわてて猿を捕まえてスイッチをきったのだが、その鳴き声で娘は目を覚ましてしまったらしい。すぐに寝室から泣き声が聞こえて、妻からはずいぶん文句を言われたし、そのあと娘もなかなか寝なかったので、寝不足になった。

やっと家が片付くと思ったが、猿はおもちゃなので夜しか動かないのだというからもう使えそうにない。いい方法が見つかったと思ったが、そう簡単にはいかない。やはり家は自分で片すしかないようだ。



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