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【蘭英紀行5】 彼らは親切でもある

 前回は「人に席を譲る」英国人を紹介した.今回は「人に親切である」というお題.この経験談を二つ、どちらもロンドンでの話だ.

 ケンブリッジからロンドンへは,鉄道でリバプール・ストリート駅まで行く.ロンドン中心部からすこし東よりにあるターミナル駅だ.市内各地へはここから地下鉄に乗り換えるのだが,その場合「Oyster」というプリペードカードを購入しておくとたいへん便利である.

 しかし、われら老夫婦は事前になにも調べておかなかったので、リパブール・ストリート駅の構内ですこし右往左往するハメになった.やっと自動発券機が並んだ一角にたどりき、案内板を読み始めた...クレジットカードでのチャージのやり方,5ポンドのデポジットが必要なこと,使い終わって返却するときには未使用分が払い戻されること云々...

 コマゴマした説明のまえでモタモタしていたときだ.後ろから「メイ アイ ヘルプ ユー?」という女性の声がした.振り返ってみると、駅員ではない、中年の上品なご婦人だ.彼女の流れるような「クイーンズイングリッシュ」を耳にし,その簡潔なる説明に思わず聴き惚れた.おかげで要点は呑み込めた.遠いアジアの島国からやってきた老夫婦にとってはたいへんありがたい一幕と相成った次第.「サンキュー ソ~マッチ!」.

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 このカード、JR東日本の「Suica」のロンドン版を想像すればよい.サービスの内容は違うところもあるが、基本はほぼ同じ.名称も「Oyster(牡蠣)」海の幸、対するに「Suica(西瓜)」は畑の幸.ロンドンにはじめて行かれる方、詳しい説明がネットに出ているのでぜひご覧あれ.上の写真は両開きのビニールケース(無料で貰える)に入れたもの.なかなか重宝した.

 次の話に進もう.毎朝午前11時に行われるバッキンガム宮殿の閲兵の交代の儀式を見物するため、このカードを使って地下鉄ビクトリア駅まで行った.急いで地上に出たのはいいが、いったいどの方角へ行ったらいいのかさっぱり分からない.あと数分しかない.

 とっさに、信号待ちをしていた隣の男性に宮殿へ通り道を訊ねた.彼は颯爽(さっそう)たるスーツを着こなしているビジネスマン.さっそくポケットからスマホを取り出してなにか指を動かしている.「スイマセンネ~」という気持ちで「恐縮」いっぱいのわたしに向かって,彼は「いや,自分も知っておく必要があるからね」と云いながら,ピンポイント表示したマップの画面をわたしに見せてくれた.「おそらくこっちの方向だよ」.
 
 ふたたび,「サンキュ~ ソーマッチ」.見学の後ビクトリア駅のほうに引き返したのだが,その途中宮殿のアートギャラリーのショップでわが老妻は、王室御用達と称するティーなどを家族や友達などへの土産として買いもとめた.いとご満悦のご様子であったことはいうまでもない.

 あとで気がついたのだが、あのスマホを差し出してくれたビジネスマン氏のセリフが少し気になった.何故「自分も知っておく必要があるからね」なんて言ったのだろう.日本で謂えば、東京駅の大手町あたりに務めているビジネスマンだ.皇居への道を尋ねられて、そういうセリフをはくものだろうか.小生想うに、愚にもつかない田舎者風の質問をした老人に対して「気にしなくていいよ」という代わりにとっさの気転で思いついた「シャレた表現」ではなかったか.

 以上、ロンドンでのさわやかな経験を書いたが、最後にふたたびお礼を云いたい.「サンキュー ベリーマッチ!」 from our ♡s.

 


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