見出し画像

【蘭英紀行4】「彼ラハ人ニ席ヲ譲ル、本邦人ノ如ク我儘ナラズ」

 この言葉はいまからざっと120年もむかしの明治34年1月、英国に留学していた夏目漱石の日記にある.ここに「彼ら」とは英国人、「本邦人」とはもちろん日本人のことだ.今回の旅行でこのことを追体験した.

 英国ではケンブリッジのカレッジにあるゲストハウスに10連泊.広々とした居間と寝室、共同キッチンなども完備した快適な宿であった.イングリッシュ・ガーデンに囲まれながらゆったりした贅沢な時を過ごすことができた.

 ゆっくり歩いて20分もあれば、古いカレッジが集まっている中心部に出ることができるのだが、ロンドンへの日帰り旅行などケンブリッジ駅から鉄道を利用することになる.駅まではすこし遠いので路線バスを利用した.また、ロンドンではもっぱら地下鉄であちこち訪ね歩いた.

 こうようにバスや地下鉄に乗っているときの話だ.老人や妊婦,体の不自由そうな人が乗ってきたら,間髪をおかずにすっと立ち上がって席を譲る光景に何度も出くわした.すべてはごく自然に進行し,譲られた方は軽く会釈をして着座し、譲った方は少し離れたところに、まるで何もなかったかの如く移動する.それも2~3人が同時に席を立つことも珍しくない.

 さて、この「席を譲る」という習慣は、英国に根付いたマナーであり文化といってもよかろう.英国人のフェアープレイ精神と無関係ではあるまい.これに引き換え、日本でもたまにこういった光景に出くわすこともあるが、英国のようにはいかない.若人から年寄りまで、寝ているか、寝ているふりをしているか、さもなくばスマホをいじっているか、ほとんどがそのいずれかである.

 本邦人のみなさま、師の「本邦人は我儘である」のとおり、まだまだ学ぶべきことがあるようですな.

 ちなみに今回の旅ではヘルプマークをリュックに結わえていったのだが(【蘭英紀行1】)、一度も席を譲られたことはなかった.古希を過ぎ老骨の身をひしひしと感じはじめてはいるものの,まわりはそのようには見てくれなかったようだ.では、また