「DIY」 けっち
料理家リュウジさんはご存じですか? コンビニに売っているものを組み合わせるだけでレストランや居酒屋の味を再現してしまう話題の料理人です。
ごはんを作るのがめんどくさいし、冷蔵庫も空っぽ、しかたないなコンビニ行ってインスタントラーメンを買ってくるか……というような方にとっての救世主にちがいない【リュウジのバスレシピ】は僕のつくる料理にも欠かせません。たとえばおでん。
リュウジさんのつくるおでんのレシピでは「大根の下ゆで」もなければ「アク抜き」や「昆布でダシをとる」必要もない。かといって「市販のおでんの素」とは比べ物にならないおいしくなるおでんの秘密があります。その秘密、ここでネタバレすると白だしをベースに「オイスターソース」を隠し味にする、というもの。フライパンに、だいこん、こんにゃく、ねりものいれて水と白だし、オイスターソース、塩。あとは別鍋のゆで卵(だいこんの皮むきのあいだにできる)の殻をむいて加えれば1時間弱で完成。たくさんできるし、なによりも完成度がたかすぎて、本当においしいおでんができます。おすすめです。
さて、そのリュウジさんが或る人のつぶやきに「はやく僕のアカウントをフォローしてほしい」と書きこんでいました。
そのつぶやきは要約すると「節約レシピなんて低賃金長時間労働者には自炊する時間もないし1人分の食材が高すぎて外食のほうが安くなる。自炊は時間と金がある奴の贅沢」ということが書いてあったわけです。
このお二人の書込みを読んでどう思われますか? お金も時間もない、でも「めんつゆ、焼肉のタレ、バター」を混ぜてつくるタレで焼けばどんな安い肉も最強になる! というような発想で、多くの人たちの食環境を改善するべく活動しているリュウジさんに僕はものすごく助かっている一方で、「自炊は時間と金のある奴の贅沢だ」という意見がなんとなく僕の心に刺さっています。
僕も自分の経験で、1時間30分かけて働きに行っていた時期があります。往復で3時間。しかも朝早いシフトのときは始発の5時過ぎの電車にのらなければいけなかった。休みは週1で、土日祝日なんて関係なく、数ヶ月に1回くらい連休がもらえたときは本当に「休めるってすばらしい」と何もしなくていい2日間、ほんとに何もせずに過ごした、そんな時期がありました。
その時期の自分がリュウジさんのバズレシピをみて「よし、カレーにバナナをいれて店のカレーよりうまいカレーをつくってみよう!」なんて思っただろうか。休みの日に出かけるより、ただひたすら何もせずにいたい、と思っていたあのとき「大根の皮むき」すらやりたくなかったにちがいない。
当然そのころの食生活は、コンビニ弁当は高かったので、スーパーの半額になった弁当だったり「まつやで白ごはんだけで注文できないだろうか」ということを考えていたり(結局、白ごはんだけの注文はしたことないです)、どうせ1人で食べるのに「ちょっとおいしい」の「ちょっと」は必要だろうか? と普通に考えていたのです。
でもその生活は感性をすり減らし、自分のなかの人間レベルを動物レベルにまで下げていく毒の沼地のような生活にちがいありません。
今日はDIYということについて書く日です。僕は子どものころから本当に不器用で、図画工作はおろか流行していたミニ四駆でさえ弟につくってもらっていたような子どもだったので、自分で木材を買ってなにかをつくるなんて、ときめきもないし、その労力が無駄にしか感じられませんでした。そんな僕がDIY大好きな妻と暮らすようになって、彼女が本棚やテーブルや複雑極まりないIKEAの家具などをガンガン組み立てていくので自然に手伝ううちに、いまは少しDIYの良さに気づきはじめています。
でも、DIYの家具をつくる楽しみや、そのつくった家具をつかって暮らしていくことの良さを実感するためには少しおおげさな表現かもしれませんが、料理とおなじで生活を愛していないとできません。奴隷のように社会のなかで苦しんで、食べることにも生活することにも無関心になっていては、料理もDIYも読書も音楽も絵画もぜんぶ「どうでもいい」ものになってしまう。もちろん生きるために金を稼ぐことは重要にちがいないですが、いつも「感性を守る」ことと「生活に愛をもつ」ことはぜったいに意識していきたいと或る時期の自分をふりかえって思います。今日もありがとうございます。
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