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「坂道」 はっち

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Photo by Peggy Anke on Unsplash

我が家の前は、なかなかの角度がついた坂道である。

行きは下りで楽ちんだが、帰り道、つまり仕事でくたくたに疲れていようと、有無を言わさず「坂を登る」という苦しみが要求されるのである。これが結構つらい。なぜなら、ついこの間まで「車移動」オンリーの生活を続けていたため、「歩く」という行動をほとんど行なっていなかったからだ。筋肉は使わないと、あっという間に衰える。

そんな体でいきなり「坂道登り」という、人間がハイハイから普通に歩けるようになるまでの過程でいうとわりと高度な技術が要求される行動をすると、体の方は

「おいおい、いきなり毎日坂道を登れってか? 正気? こないだまで全然歩いてなくて、下手したらiPhoneのヘルスケアで【今日の歩数:38歩】なんて表示されてたのに? 無茶言いますね。勘弁してくださいよ」
などと泣きを入れてくる。

しかし、それでも登らなければ家にたどり着かないので、私の意識は体に

「まぁまぁ。そういわずに。ほら、足をちょっと前に出すだけですよ。あ、体を前傾姿勢にすると足が出しやすくなるから、やってみてください。そうそう、重心を前に置く感じで。どう? ちょっと楽でしょ? ほら、そんなことを言っていたら、あと10メートルくらいになりましたよ。もうすぐじゃないですか!」
などとなだめている。

そんなこんなでなんとかごまかしながら半年が過ぎた。半年もすれば筋肉も戻ってくるだろう、とタカをくくっていたが、一向に楽にならない。10年間の車生活はこうも筋肉を衰えさせるのか…と愕然とする。10年分の借金は、10年かけないと返済できないのか? 「塵も積もれば山となる」とは、いいことにも悪いことにも当てはまるようだ。

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