見出し画像

執筆中〜作業療法実践のカオス〜

 OTの学生時代は、実習の中で実際にこどもを担当し、「評価結果から問題点の確定、治療仮説と治療プログラム立案、具体的な作業活動の選択と実施、そして再評価」という流れを学習する。
 OTとして働くようになると、主に科学的リーズニングに基づく治療的関わりとして「ハンドリング」や「治療的遊具の利用」、「感覚刺激を加える」等の具体的手法を身につけていくことが多い。こうした一般的な手法が身につくと、次に出てくる悩みは、臨機応変さに関することが多い。CI療法を、「導入の段階で拒否されてしまう」、「適切な段階付けが出来なかった」や、「母親を観察者のままにしていた」等、自由なこどもと推論通り進めたいOTとのベクトルが合わず、悩むことが多い。
 OTとして熟達してくると、事例5のように、臨機応変さを備えそれぞれの想いを遊びの中でまとめ上げていく。その作業療法の場面には色々な要素が絡み合っている。参加している対象児とOT、利用されている遊具、保護者や他の職員、周囲の様々なものがOTの治療的意図によって、即興劇のように展開されていく。主人公である対象児の傍らで、OTは「脇役のような存在」であり、「大道具係」のようであり、「即興劇を進行させる狂言回し」の役割をもち、また観客の一人でもある。
熟達したOTの臨床場面では、無意識の中で、科学的リーズニングに叙述的リーズニング、実際的リーズニング、相互交流的リーズニング、倫理的リーズニングのフィルターが複雑に絡み合っていて、随所に臨機応変な対応が行われ、即興劇でありつつも、こどもや家族、関係者を劇に参加させることで、一緒に人生の台本を描いていくことにつなげていく。
 それぞれの意図が複雑に交錯しているだけでなく、今この場面で交わるまでに、その意図には歴史があり、一人一人の物語があり、作業療法の実践文脈となる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?