浦沢直樹のMONSTER（モンスター） × 虐待サバイバー　PART１

浦沢直樹のMONSTER（モンスター）という漫画には、旧東ドイツにあった511キンダーハイムという孤児院で行われた人体実験（虐待）によって、そこの出身者たちが大人になったときに殺人鬼となっていくサスペンス漫画なのですが、実は、虐待の後遺症で愛着障害や解離性障害となってしまった登場人物がたくさん出てきます。

そこで、浦沢直樹のMONSTER（モンスター）という漫画を虐待サバイバーの私が分析・考察してみたいと思います。この漫画をあえて全１８巻すべて読まれている読者向けにこのブログを書いています（※ネタバレ注意）。

この漫画に出てくる絵本『なまえのないかいぶつ』についての分析・考察は以下のnoteの記事にて独自の解説をしています。虐待を受けた子どもが大人になったときに罹患しやすい「愛着障害」と「解離性同一性障害」の合体バージョン絵本であるという考察を合わせてお読みください。

さて、三匹のカエルの看板のある建物から、ヨハンかニナか、どちらかが秘密警察に連れ去られ赤いバラの屋敷に連れていかれます。成人したニナは、この三匹のカエルの看板を見て、幼少期の記憶が断片的に戻りだします。そして、ニナ自身が赤いバラの屋敷に連れ去られたのか？あるいは、双子の兄であるヨハンが連れさられたのか？どっちなのか？記憶がはっきりせず、混乱を起こしていきます。

赤いバラの屋敷から三匹のカエルの建物に戻ったニナには、

おかえり

と言う自分とそっくりの女の子の姿をした双子の片割れが迎えてくれる記憶があります。

なので、ニナは、自分が赤いバラの屋敷に連れて行かれたのか？あるいは、双子の兄であるヨハンなのか、益々、混乱を起こします。
ここからは、私独自の見解で語りますが、このMONSTER（モンスター）という漫画に登場するニナとヨハンという双子は、虐待の後遺症で罹患しやすい解離性同一性障害を象徴した存在であり、ニナとヨハンは、主人格と解離人格の同一人物でもあるというのが私の見解です。

東ドイツから西側へ、リーベルト夫妻の養子としてニナとヨハンが亡命した際に起きた殺人事件も、後に、ニナはヨハンの犯行であった記憶を取り戻します。ヨハン（解離人格）はニナ（主人格）にこう言っています。

君は僕で……僕は君……

話を戻しますが、三匹のカエルの看板の建物と、赤いバラの屋敷を行ったり来たりしながら、ニナ（主人格）は一体、何をしているか、分かりますか？赤いバラの屋敷でワインに毒を盛られ、大量に人が死んだあの事件を、ニナ（主人格）はどうして、兄のヨハンが見た光景なのか？ニナ自身が見た光景なのか？何度も何度も記憶を想起しては、どっち？どっちが犯人なの？とやり続けているのは、解離性同一性障害（DID）の人間には、実は多い現象です。

どういうことかというと、DIDに長く苦しんできた私も稀にあったことなのですが、自分がしでかした今回の加害なりトラブルが主人格が犯人なのか？解離人格が犯人なのか？主人格は、どっちが犯人か判らないことが稀に起きます。主人格は自分（主人格）がやったのか？それとも、解離人格がやったのか？大混乱を起こすことがあるのです。
なので、作中で、ニナ（主人格）は、赤いバラの屋敷に連れていかれたのが、主人格であるニナなのか解離人格であるヨハンなのか、どっち！？どっちなの！？と大混乱を起こしている。これが、解離性同一性障害の症状の１つです。

ところで、三匹のカエルの看板ですが、三匹のカエルとは、何を象徴した存在だと思いますか？虐待を受けた子どもが大人になった時、虐待した親とそっくりになってしまうことがよくあります。残念ながら、「虐待の連鎖」というものは起きやすかったり、虐待サバイバーは犯罪率が高かったりして、元々、被害者だったのに、被害体験から「加害者になってしまう」ことはよくあります。当然、被害者全員が加害者になったり、虐待を連鎖させてしまうわけではありませんが、可能性としては高いと言われています。

ヨハンという解離人格（攻撃人格）を生み出したのは、お母さんの憎しみです。つまり、三匹のカエルの看板が象徴しているものは、蛙の子は蛙、という虐待の被害者が、大人になって虐待した親と同じく加害者にいつの間にかなってしまうという虐待の連鎖の象徴を意味していると私は思います。

Part2は、以下より。

※虐待の後遺症の典型的な症状については、以下の書籍に詳しく描いています。精神科医の和田秀樹先生の監修・対談付き。

わたし、虐待サバイバー