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フリーランス主婦、家に帰れなくなる。


夜10時。朝から外出していて、へとへとになりながらやっと自宅の最寄駅まで帰ってきたわたしは、かばんの中を見て愕然とした。


……え?


とりあえず、一度かばんを閉じよう。


そんなはずない。


深呼吸をしよう。すうぅー。


かばんを見る向きを変えてみよう。


またまたあ〜。そんなばかな。すうぅー。


見えないはずのものが見えるのもこわいけど、見えるはずのものが見えないのもこんなにこわいのか。


ない。家の鍵が、ない。


朝、夫に送り出され、鍵を持たずに出てしまった。ふつうの日ならいい。夫に開けてもらえばよいのだから。でも、この日夫は…出張。


帰ってくるのは…明日。まぬけだ。わたしは底なしのまぬけだ。


こんなとき、どうすればよいのだ?歯磨きだ。わたしは、スーパーへ行って歯ブラシを買った。歯が汚れていては戦はできぬ、と思った。

とりあえず口の中がすっきりした。けれど、すっきりしたわたしはどうしたらよいのだ?noteだ。noteを開いて、あ、スキ押してくれてる人がたくさんいる、うれしいな。閉じる。充電が残り5%。

どうにか士気を上げようと「そして、フリーランス主婦の大冒険がはじまった!」と、脳内でナレーションしてみるけど、まっったくテンションが上がらない。身から出たサビによって超不機嫌。よりによってわたしは疲れている。家に帰りてぇ…。お気に入りのくたくたのパジャマを着て、甘ったるいシャンプーのにおいがする自分の枕に顔をうずめて寝たい。

それに、この駅の周りにはホテルなんてない。この時間から「ちょっと泊めてよ!」と言えるような間柄の人物も、いない。自分の生き方を反省させられる。

とりあえず電車があるうちに街へ出よう。ということで、大きな駅へ行き、スマホの充電器を買い、ホテルを探した。さらに2駅離れたところにホテルの空きを見つけ、とぼとぼ向かった。


午後11時30分、ホテル到着。



あれ。


あれあれ。


テンション上がってきた(((o(*゚▽゚*)o)))



久々のホテル泊。丁寧でやさしいスタッフさん。ひろびろとしたお部屋。ほどよい弾力のベッド(ツイン)。充実のアメニティ。朝ごはんもちょっとついてると。…快適ですやんか。自分のシャンプーが最高と思ってたけど、こっちのシャンプーもなかなか甘いですな。

結局、独身気分で深夜までテレビのチャンネルを回しまくり、ベッドの上を縦横無尽に転がりまくって眠った。置かれた場所で眠りなさいだなあ…などと思う。

翌朝も、旅行客ですけれど何か顔をしてサービスの朝食をとり、チェックアウトギリギリまでくつろいでホテルを出た。

夫が午後にならないと帰ってこないため、昼食を食べることにした。今日が何も予定がない日でほんとうによかった。まだ神様に見捨てられていない気がする。

たまたま見つけた定食屋さんが、これは名店の佇まい。メンチカツをいただくことにした。おじいさんシェフが、手を震わせながらデミグラスソースをかけてくれている。あれはきっと継ぎ足しで育てられたやつだ!テンションが上がってきた(((o(*゚▽゚*)o)))

なんだこれ。外はサクサクなのにお肉がふわっふわ!メンチカツってふわふわなものだったのか?ソースもさすが継ぎ足し(想像)だけあって深みがあって最高。またかならず来たい!


その店の近くに、これまたおいしそうな洋菓子の店を発見(((o(*゚▽゚*)o)))。家に帰れないという非常事態の中で、かねてから抱いていたおいしいキャロットケーキを食べるという夢をあっさりと叶えてしまった。

公園で、鳩たちに羨望のまなざしを向けられながら味わった。そして、お日さまに見守られ、蚊たちに足元を採血されながらnoteを書いた。


はぁ。もう、家に帰れない生活も十分満喫しましたなあ…早く帰りてぇ…と思ったところで、やっと夫が帰ってきた。遠くからキャリーケースを引いて歩いてくる夫の姿を見つけたとき、脳内にアルマゲドンの主題歌が流れ始めた。

その夜。くたくたのパジャマも、甘ったるい香りの枕も、いつも以上に尊くて寝心地最高だった。


おわり

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