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夫はチョコレートが減っていることに気づくのか?


バレンタインデーに夫に30個入りのチョコレートをプレゼントしたところ、自分も食べたくなってしまった。普段、チョコレートにあまり興味がないし、自分のために買おうとは思わないのに。人の手に渡った途端、輝きを増してくる。渡してすぐ、「ちょっとちょうだい」と言って恵んでもらったが、その翌朝も、どうしてももうひとつ食べたい。夫はすでに出勤している。

箱の蓋を開けてみた。とても、いけないことをしている気がする。だけれど、店で万引きすることに比べれば、または昼顔妻になることに比べれば、夫がいない間にチョコレートのひとつを勝手に食べるくらい、どうってことないことのようにも思う。もしも夫に何か言われたら、また何かチョコレートを買って渡すというリカバリー方法だって思いついた。

チョコレートをひと粒、口の中へ。ちょっと塩気のあるしゃれたチョコレートで、とてもおいしい。人のものをいただいたのだから、せめてゆっくりゆっくり感謝して味わう義務があると思った。

夫が帰宅して、うれしそうにチョコレートの箱を開ける。わたしが食べたことに気づく様子はなく、今日はどれにしようかな〜と上機嫌でチョコレートと向き合い、バクバク食べていた。

味を占めてしまったわたしは、翌朝も同じように箱の中からひと粒取り出し、ソファに正座し、謹んで味わった。そうしてわたしは、20個を19個にし、15個を14個にし、10個を9個にしていった。ちなみに休日は、夫が目覚める前にこっそりといただいた。


しかし昨日の朝、慣れた手つきで箱を開けると緊張感が走った。残りがたった4つになっているのである。4つを3つにする。それは、20個を19個にしたときや15個を14個にしたときとは比べ物にならないスリルを伴う。けれど、引き返そうとは思わなかったし、夫はこのまま気づかないような気もした。これが最後のひと粒になるだろうと、名残惜しみつつゆっくりと口の中で溶かした。

夕方。仕事から帰ってきた夫が、チョコレートの箱の蓋を開ける。そして彼は不思議そうにつぶやいた。

「減ってる…?」


バレた。それは決して「チョコが減ってるぞ勝手に食べただろ!」とわたしを問い詰める口調ではなく、(あれ、なんだか減ってる気がするなあ…)というひとり言のような口調だったので、「気のせいじゃない?」と言ってごまかすこともできたかもしれないが、嘘をつくことは隠れて食べることよりも良心が疼き、「ごめんわたしが食べた」と白状した。夫は、やっぱりなといった感じで、意外にもそれで終わった。

それにしても、こっそり食べたチョコのおいしかったこと。もしかして世の中の人はこの感覚を背徳感って呼んでいるんだろうか。一年後のわたしへ。夫にあげるチョコレートは、数の多いものにしておくように。そして、数が減っていることに夫が気づくのは残り4つが3つになったあたりだよ。


おわり


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