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理学療法におけるTheory vs Practice

こんにちは。

今日は徒手理学療法に関わる大切な考え方についてお話していきます。

今日のテーマは「理論を重視するか vs 反応を重視するか」です。


まず、理論重視と反応重視の考え方とは一体なんなのか、右肩の痛みがある以下の症例を通して一緒に考えてみましょう。


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30歳男性、職業はデスクワーク

週3回筋トレ(全身満遍なく)している

x日のトレーニングでは普段より負荷を増量(ベンチプレス、アームカール)、かなりヘトヘトに

筋トレ実施中、直後は特に痛みなどなし

x+1日目から肩・胸回り〜背中全体に筋肉痛あり、日に日に痛み軽減するが、x+2日目頃から右肩甲骨の違和感を感じ始める

x+4日目、筋肉痛がほぼなくなるが、常に右肩が重だるい感じと、腕、首、体幹を動かすと右肩甲骨付近に痛みを感じる

x+5日目になると右肩の重だるさは少しだけ減ったが、腕を挙げると90度くらいで右肩に鋭い痛みが走ったため受診

首、体幹を動かすと変わらず右肩甲骨に痛みがある

横からの姿勢を観察すると、頭部がやや前方に突出しており右肩(上腕骨頭)もやや前方に偏位している

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ここまでの情報でThinking timeです。

この男性の右肩の痛みを改善するため、評価から治療に至るまでの戦略を考えてみてください。

ちなみにred flag(重篤な疾患)やyellow flag(心理社会的要因)など禁忌事項はないものと仮定しましょう。






考えてみましたか??

ここでは、2通りの評価〜治療までの考え方をご紹介します。(細部は省きます)


①機能解剖や事実をベースに姿勢を分析し、関節の状態と筋のインバランスを評価して治療を進める方法

評価内容
・姿勢の評価→頭部前方偏位、肩甲骨外転位

・肩関節の副運動を評価→肩甲上腕関節下後方の滑り運動が制限

・筋の長さ・硬さを評価→胸筋群の短縮と肩後面筋群の硬さあり

・胸椎の柔軟性を評価→上位胸椎の伸展可動域が制限

・肩関節の運動方略を評価→腕を挙げると80度くらいから肩甲骨の挙上が出現、90度で痛みが発生、胸椎伸展性は少ない


上記の評価から、治療は以下をチョイス

a.胸筋群・肩後面筋群の軟部組織モビライゼーション
(フリクションマッサージ、ダイレクトストレッチング)

b.肩甲上腕関節下後方への関節モビライゼーション

c.胸椎の伸展モビライゼーション、自動伸展運動

d.姿勢を修正した上で肩甲骨挙上を抑制した肩関節active〜active-assistive運動


多くの方が考える評価〜治療の流れなんじゃないかなー、と思ってます。

姿勢と動作分析の結果と機能評価の結果が比較的リンクしており、その結果に基づき治療を行う、理論重視的な考え方です。

ちなみにマッスルインバランスやNordic systemの考え方、手技を用いてます。


②痛みが出現した原因と思われる姿勢・動作から悪化する/改善する方向性を推定し、試験的治療の反応から治療方針を定めていく方法

※デスクワークのため元々頭部前方偏位姿勢であったことに加えて、ベンチプレス(主に大胸筋のex)、アームカール(主に上腕二頭筋)の過剰収縮により上腕骨頭の前方偏位を起こしたことが痛みの原因と推測。

評価(試験治療)内容

・頸部のretraction(顎を引いて頭を後ろへ並行移動)×10
→その後の腕挙上で少しだけ痛み軽減

・ 上位胸椎の伸展×10→痛みが大幅に軽減、可動域も120度くらいまでアップ

・さらに胸椎伸展×20→痛みなく腕を挙上できる、可動域は130度くらい

・上腕骨頭を後下外方にグライドさせて腕挙上×10
→痛みなく腕を挙上でき、可動域も170度まで拡大

上記の評価から以下をセルフエクササイズとして指導

a.胸椎の伸展

b.上腕骨頭を後外方へグライドしながら腕の挙上


おいおい、機能評価してないじゃん!と突っ込みたくなりますが、こちらのアプローチでも痛みは減っています。

なんなら、試験治療で行ったことをそっくりそのままセルフエクササイズとして指導もできており、患者さん自身でも容易に対処できるようになっています。

こちらは「痛みが減る」という反応を重視した考え方と言えますね。

こちらはMcKenzie conceptとMulligan conceptをベースに評価を組み立てています。


①でも②でもどう考えようが、結果として患者さんがよくなっていれば、まずは目的達成と言えるでしょう。

みなさんはどちらの考え方を支持しますか??



①の理論を重んじるか、②の反応を重視するのか、私の結論としてはどっちの考え方も大切だと思っており、私自身は臨床現場においてどちらの考え方も用いて評価治療を行っています。

というか、どっちの視点も持っていないとうまくいかないと考えてます。


①理論重視の考え方のメリットは因果関係をはっきりさせやすいですが、現実の臨床では辻褄が合わないことも多いです。

例えば、脊柱管狭窄症の人が腰椎伸展により症状が軽減した、なんてこともザラにあります。

理論は突き詰めすぎると複雑になりすぎて難しいですし、何より解明されていないことが多すぎるのです。

結果、理論ばかりを重視すると治療の方向性を見失いやすい、と私は思ってます(というか若いころの私がそうでした)。

一方で反応重視の考え方は理論的な説明はできないものの、シンプルに考えやすく、良くなる方向性さえあればちゃんと結果を出すことが可能です。

よって、両者をうまく組み合わせてより良い治療を突き詰めた上に、現段階での最良なエビデンスが乗っかってくれば良い理学療法ができるのではないでしょうか。

どっちを重視するかは人それぞれで、どちらかの考え方に全振り!というのがよくないと思います。


ちなみに、McKenzie conceptやMulligan conceptが理論を重視してない訳ではないですよ!

それぞれ独自の理論がきちんとベースにあり、その上で痛みが軽減する反応を重んじるコンセプトですからね。

どちらの考え方も、それぞれのコンセプトに則り治療を行なった結果、大変有効であるというエビデンスが世界的に認められています。

噛み砕いて言えば、理論や機序はまだ不明瞭だけど、結果が出るという証拠ははっきりしてるよ!って感じ。


日本の理学療法においては理論重視な考え方が多数派であり、どんどん理論の細部を突き詰めていってるような傾向があります。

最近の日本における運動器理学療法ではエコーを用いた研究が盛んで、各関節の細かい機能解剖が明らかになってきています。

それは本当にすごいことだし、もっともっと研究を進めていって欲しいと思います。
(特に英語ができる方、どんどん世界中へ発信してください!!)

そしてより細かい機能解剖が明らかになってきている一方、こんなに細かくみなくてはならないのか!と、評価や治療体系が複雑化してきているという印象も受けます。

理論を重視することは、ここが弊害な気はします。

エコーがないと見れない!とか手技が難しすぎる!とか。

そして何より、新しくわかってきたことに対して、評価や治療の効果を証明する十分なエビデンスが少ないです。

もちろん、新しくわかってきた事実に対して、その組織に対する特有のアプローチは必要でしょう。

しかし、だからといって今までご説明してきた治療体系は古いから通用しないとも思いません。

今よりもっと情報が少ない時代に、先人たちが並々ならぬ努力の結果積み上げて洗練されてきた考え方も、現代で十分通用すると思います。



みなさんはどのように考えていますか?

色々な方の考え方を知りたいです!

徒手理学療法に興味ある方!ぜひお話しましょう。


今日はこれまで。

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