父と「パーフェクト・ワールド」。
突然だけれど、私は映画を観ることがとても大好きだ。
今までに色んな作品を観てきたから、もちろん自分の「好きな映画」は何本かある。現在進行形で「好きな映画」はどんどん増えていくけれど、誰かにおすすめしたい「好きな映画」は2〜3本くらい。
そのたった2〜3本は、よくよく考えてみれば、父の影響で好きになった作品なのだ。
ひとつめは、「スタンド・バイ・ミー」。
ふたつめは、「ターミネーター2」。(私のベストムービー!)
最後は………「パーフェクト・ワールド」。
クリント・イーストウッド監督の作品なのでかなり有名だと思っているけれど、同年代でこの映画を知っている人はどれくらいいるんだろう。
ちなみに、私は観たことあるよ!という人に出会えたことがない…。(Twitterの映画用アカウントではちらほら出会えます。嬉しい。)
では、ここで「パーフェクト・ワールド(原題:A Perfect World)」のあらすじを簡潔に。
1963年アメリカ。
テキサス及びアラバマ州全土に敷かれた緊急捜査網をかい潜って、
脱獄犯ブッチ・ヘインズは、8歳の少年フィリップを人質に逃亡を続けていた。しかし、追い詰められ、凶暴性をむき出したブッチは、一夜の宿を提供してくれた男に銃を突きつけるのだった……。
(フィルマークスより)
私がこの映画を初めて観たのは、たしか小2の時だったと思う。
けれど、父は1994年公開当時から何度も繰り返し観ていたそう。
映画館でも、レンタルDVDでも、TV放送でも。
だから、私が全然覚えていないだけで実は赤ちゃんの時から刷り込まれているかもしれない。「パーフェクト・ワールド」を観るとむしょうに懐かしくなってしまうから。
初めて観たときは、正直に言ってよく分からなかった。
なんか怖い顔のおじさんが小さな男の子を誘拐していて、でも結局仲良くなって…終わり?って感じ。
あとは、キャスパーのお面がいちばん印象に残っている。作中でフィリップがずっと被っていたお面。
(映画「キャスパー」も面白いので、機会がありましたら、是非。若き頃のクリスティーナ・リッチが出ています。)
そんな映画を、どうして好きになったのか。
上にも書いてあるとおり、幼かった私には最後までよく分からなかった映画だった。それでも、この映画はとくべつだと心のどこかで思っていた。
なぜなら、いつも寡黙な父が、あまり笑わない父が、
顔をくしゃくしゃにして泣いていたから。
あの頃の私にとって父は、少し近寄り難い存在だった。絶対的存在だった。
たぶん、父が子どもの前でも構わずに泣くほどこの映画は、ひとの心を動かすのだと幼いながらに理解したのだと思う。
それから何度かその映画を観ることが増えたけれど、相変わらず私はよく分からなくて、でも父はやっぱり泣いていた。
知りたい、と思った。
父の心をそこまで動かすこの映画の魅力を。
それが分かったのは、高校生になったばかりのころ。
この時はまだそんなに映画が好きじゃなくて、漫画やアニメに夢中になっていた。でもある夜、父がTVで映画を観ていたから私も一緒に観ようと思ったら、その映画だったのだ。
ケヴィン・コスナーが演じるブッチは、相変わらず画面の中でフィリップと一緒にいた。
フィリップがさらわれるところ、銃、車中での会話、キャスパーのお面、ハロウィンのお菓子…。映画だから当たり前だけど、何ひとつ変わっていなかった。
でも、何かが違うと思った。
その「何か」はよく分からなかったけれど、私は初めて父と一緒に最後まで画面に釘付けになった。
飽きるほど何度も観てきたものなのに、その日の私には新鮮に映った。
それでいて、時代も国も全く違うのに私もその場にいたように、奇妙な懐かしさを覚えた。
ブッチの不器用な優しさ、子どもらしさを取り戻していくフィリップがとても愛おしかった。
私は映画を観ているんだ、と思った。
これが、映画を観るってことなんだ。
心を自分の中に留めておきたくても、画面の中に、その世界に優しく奪われていく。
もちろんラストはどうなるか分かっている。
終わらないで欲しい。まだその世界にいたい。
そのままブッチとフィリップの2人で、旅を続けて欲しい。
でもそれはやっぱり叶わないんだよなとわかった瞬間、涙が出た。画面がうるうるとぼやけていたのを今でも覚えている。
父の前で泣くのが恥ずかしくて、見られないようにしていたけど、やっぱり父も後ろで泣いているのが分かった。
そのままエンディングまでずっと2人で泣いていた。
終わったあとは別に2人でそのまま会話を交わすわけでもなく、お互いそれぞれ就寝についた。だけど、私は嬉しかった。
父の心に触れられたような気がして、一緒に泣くことが出来て。
それから「パーフェクト・ワールド」は私の大好きな映画になった。もちろん、内容もとっても魅力的だ。
誰が観てもエモーショナルで、切なくて、涙が止まらない映画だと思う。
ただ、私の中では「パーフェクト・ワールド」と「父」はセットなのだ。
きっとこれからも、例えば私が母親になっても、おばあちゃんになっても、ひとりになっても。それは絶対変わらない。
今では1人でも観るようになって、相変わらず泣いちゃうけど、その時はやっぱり父も後ろで泣いているような気がする。
そういえば、久しく父と一緒にあの映画を観ていない。
土曜あたり、声をかけて一緒に観てみようか。
そしてまた2人で一緒に泣くのだ。
おまえは間違ったモノの見方をしてるぞ。
これはなぁ、20世紀のタイムマシンなんだ。
俺はキャプテン、おまえはナビゲーターだ。
この先に見えるのは「未来」だ。
それから後ろの方に見えるのは「過去」。
生きていくのがゆっくり過ぎるって感じたら、
このアクセルを踏み込んで未来に向かって前進していくんだぞ。
(パーフェクト・ワールド/ブッチの台詞)
2021/08/31
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