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(48)運動脳

【運動で、ストレス物質、コルチゾールをコントロール】

定期的に運動を続けていると、運動以外のことが原因のストレスを抱えている時でも、コルチゾールの分泌量はわずかにしか上がらなくなっていく。

【世界のストレス研究がこぞって運動の効果を発見中ー運動がおそらく最も優れた解毒剤】

運動を覚えると、コルチゾールの血中濃度が下がり、次回からはあまり上がらなくなる。またストレス反応のブレーキペダルである海馬と前頭葉が強化され、不安の引き金である扁桃体の活動が抑えられる。さらに「ニューロンの乳母」が増え、脳内の興奮を鎮めるGABAの作用が活発になる。加えて、筋力がつき、ストレス物質を無害化する働きが促進される。

【食欲調整にも運動が効く】

運動して、ストレスに対する抵抗力が高まれば、その効果は体重計にも現れるのである。
そのわけは、コルチゾールの「身体の脂肪の燃焼を妨げる作用」にある。
コルチゾールの血中濃度が増えると、腹部に脂肪が蓄積する。その上、食欲が増え、高カロリーのものが食べたくなる。
もしあなたは、多くのストレスを抱えていてコルチゾールの血中濃度が上がったままの状態が続いていたら、ウェストの周りにますます脂肪がつき、甘いものが無性に欲しくなることだろう。だが、運動によってストレスにうまく対処できるようになれば、コルチゾールの血中濃度が下がり、やがては、食欲がおさまって、蓄積された脂肪も減り、その一方でカロリーの燃焼量は増えていく。結果は体重計とウエストを見れば一目瞭然である。

【人間の集中力を決める生物学的要素】

報酬と関係のある脳の部位はいくつかあるが、つうじょうは「側坐核」が報酬中枢といわれている。この側坐核は脳内の様々な領域とつながっている細胞がたくさん集まったもので大きさは豆粒ほど。この場所から「報酬」をもらうとあなたは心地よい気分になる。
何を隠そうあなたを動かしているのはこの側坐核なのだ。
脳には細胞から細胞へと情報を伝えるための物質がいくつかある。専門用語でいう「神経伝達物質」だが、なかでも最も知られているのが「ドーパミン」だ。
おいしいものを食べたり、社会と交流したり、また運動やせいこういなどあすると、側坐核でドーパミンの分泌量が増える。
ドーパミンがたっぷり放出されるとポジティブな気分になりその行動を繰り返したくなる。脳がまた同じことをしろと催促するのだ。
ではなぜ脳は、あなたに食事や人との交流、運動、性行為をさせたがるのか。
進化の見地では、そういった行動が生存確率を上げ遺伝子を次の世代へと手渡すことになるからだ。
運動は、私達の祖先が、狩猟や住処を探すときに走っていたためだと考えられている。

【あなたは「正常」「異常」どちらでもない】

放出中枢でドーパミンが放出されて快感を得るためには、細胞膜の表面にある受容体とドーパミンが結合しなくてはならない。ドーパミンが受容体に取り込まれると脳細胞がそれに反応して快感が引き起こされる。
しかしドーパミンを取り込む受容体がなければ、この反応は起きない。
ADHDの特性を持つ人は報酬中枢におけるドーパミンの受容体が少ないという。
これは報酬系がうまく働かず、快感を得るには通常よりも多くの報酬が必要ということだ。

ドーパミンは、好奇心や、何か新しいことを進んで試そうとする気持ちを促す作用がある。
一方セロトニンは、相手に譲歩する柔軟さを生むが、神経質な側面につながることもある。

【海馬は運動で最も恩恵を受ける部位】

海馬は記憶を短期から長期へと固定させる役目を果たしているが、海馬の仕事はそれだけにとどまらない。物事を前後の流れの中で捉えたり、今体験していることを過去の記憶と照合して感情を暴走させないようにしたりもする。
それだけではない。自分の居場所を空間的に認識するという役目も担っている。
いいかえるなら、海馬は記憶の中枢という仕事以外にも、感情を抑制したり空間を認識したり過去に訪れた場所を見つけたらするといった重要な仕事をしているのである。

【アイデアの科学】

運動が創造性を高める。

【創造性とは何か】

創造性の研究において、この能力は2つの思考の枠組みで分類されている。「発散的思考」と「収束的思考」だ。
「発散的思考」はいわゆるブレインストーミングのことだ。多角的で相関性のある答えをできるだけ多く想起することである。
「収束的思考」は、唯一の正解に素早くたどり着くための思考である。つきつめていうと、与えられた情報の本質的な要素を見抜くことだ。
収束的思考は、発散的思考よりも速さと論理性が求められるため、脳の負担はこちらのほうが大きい。
それでも収束的思考は「突拍子もない、非現実的な発想に飛ばない」という点で創造において重要な思考だ。

では、運動したあとで高まった創造性はどのくらい維持できるのか。
創造性が高まる効果はあくまで短期的だ。創造力が高まる効果は1時間から数時間で、その後は徐々に消えていく。
創造という観点では、全力を出し切って疲れてしまうことは薦められない。それでは創造性は高まらない。
運動を頑張りすぎた被験者はその後の創造性のテストで成績がよくなかった。では、なぜ効果は長続きしないのか。
今の時点ではまだ、解明されていないが、可能性としては次のようなことが考えられる。
前述したように、運動すると脳に流れ込む血液が増える。それによって脳の働きが促進され、認知能力が向上して創造性も増す。だが、疲れるほど運動すると、脳の血流量は逆に減る。血液が脳から筋肉へと流れを変えるためだ。筋肉が最大限の力を発揮するためには、その筋肉により多くの血液が必要になる。
脳の血流量が低下すると、脳自体の効率も落ちると言われている。あなたも、疲れている時に思考力が鈍るのを経験したことがあるだろう。
とはいえ、疲労にともなう創造性の衰えはあくまで一時的なものだ。
激しい運動をしたために創造の力が損なわれても、その状態が長引くという実験データは今のところ上がってはいない。

【創造の発信源を突き止め刺激する】

創造性の研究にたずさわる科学者たちが目を向ける場所は、前頭葉(高次認知機能を司る部位)のような領域だけではない。
彼らの視線は脳の深部にも注がれている。「視床」である。

【視床がキー情報を選出する】

視床は私たちが情報の波にのまれてしまわないよう、意識のフィルターとして働いているのだ。
現代の科学では脳内で情報が溢れてしまう現象は「統合失調症」の症状だと考えられている。現実から乖離し、妄想にとらわれ、視覚や聴覚による幻覚におそわれてしまうのだ。
つまり脳が一度に大量のイメージを受け取ってしまうため、現実の世界が認識できなくなるのである。

【思いつく確率をあげる】

視床のフィルターが正常に働くためにはドーパミンが必要だ。
視床のドーパミンの量が適正でないと創造性が高まる可能性も、精神を病む可能性もあるということだ。
発散的思考の創造性テストにおいて抜群の成績をあげた被験者は視床のドーパミンの受容体が少なく、ドーパミンの値が適正ではなかった。
そのため彼らの視床のフィルターは通常よりも多くの情報を通過させ、結果的に思考の創造性が増していたのである。

【ノーベル賞級の発見に共通するパターン】

創造的な才能と精神疾患がいかに隣り合わせであるかを示してくれる例は歴史上にもかず多く存在する。
人並みさずれた創造力を持つ人の多くは精神病ではないが、家系にその痕跡が見られることも少なくない。
アインシュタインには統合失調症の息子がいた。
バートランドラッセルには統合失調症の親族が多い。音楽界で数十年に1人と言われた逸材、デヴィッドボウイには統合失調症の兄がいた。
こういった人はみな、視床のフィルターが膨大な情報量を通し、そのために人並みはずれた独特の思考が促された。そして脳が過剰な情報量に対処できた人は、その状態を活かすことができた。その場合は天才的な能力を発揮し、いっぽう脳が過剰な情報を扱いきれなかった人は精神病を患ってしまったのだ。

【脳の老化をストップする方法】

70歳を対象にしたHAROLDの研究も、運動に脳の老化を食い止める絶大な力があることを示唆する数多くの研究調査の一つにすぎない。
前に述べたように、運動を習慣にしている人の海馬は萎縮せず、むしろ成長する。
脳の司令塔である前頭葉も同じで、前頭葉も加齢とともに縮み、知的な能力が少しづつ損なわれていく。だがこれも運動によって食い止めることができる。
じつのところ加齢による前頭葉の萎縮の進み具合は、カロリーの消費量と密接に関わっている。
よく動いてカロリーをきちんと消費する人は、加齢による前頭葉の萎縮の進行が遅くなると言うのである。

【脳の最も重要な仕事は移動】

基本的には、移動する生物だけに脳がある。植物は移動しないため脳はない。
初めてこの世に脳細胞が出現したのはおよそ6億年前で、主な機能は原始的な生物の動きを制御することだと考えられている。つまり、地球上に初めて現れた脳細胞の最も大切な仕事はその生物を移動させることだったのである。


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