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【乗車記】下町から観光地へ[2022.3 きりふり②]


東武線の浅草駅に鎮座している350型きりふりは、発車準備が整い、乗客に関しても各々の座席に座して缶ビールを開けたり、ビデオカメラを回したりと自分の時間を楽しんでいる。
私は通路側の座席なので、窓側の客に配慮しながらの車窓見物となる。実は、このようなクロスシートの指定席制列車で通路側に座るのは初めてのことで、多少どころかかなり緊張をしている。どのような面持ちでいれば良いか分からないからだ。
幸運なことに、窓側の客も同業者であった。現状においても、終始窓のほうに釘付けになっており、私も気兼ねなく車窓を楽しめるはずだと確信する。このような場所に書いても気がつかないかもしれないが、御礼申し上げる次第である。

定刻の10:38にきりふり281号は浅草駅のホームを発つ。先ほどまで350型の先頭部分(いわゆる”顔”)を撮りたいばかりに集っていたお見送り勢も、入線時と同じように、ホーム上の好き好きな位置で撮影に励んでいる。
浅草駅を発つと、すぐにきつい右カーブがやってくる。床下から普通なら聞けないような音がここでは体験できる。そのため、低速どころか徐行で走行する。この区間に普段から乗っている人々は、もしかするとヤキモキされる区間かもしれない。

そこを通り過ぎると隅田川の橋梁を通過し始める。先述したとおり、徐行しながらの運転となることから、写真や動画を撮る人々には絶好のスポットとなっているようで、河川敷(と呼べるかは微妙だが)には多くの撮影者が見られる。

通過駅である鐘ヶ淵かねがふちでも、停車駅である北千住でもカメラを構える姿が見え、「お疲れ様です」とでも声をかけたくなってしまう。
その北千住で空いていた座席がすべて埋まり、鉄道ファン10割の特急列車が完成したことになる。これがラストランが近づいていることを如実に示す好例であろう。

列車は北越谷までの複々線区間に入り、外側の優等列車専用線路を通る。先ほどまでゆったりと流れていた景色も、目の運動にはうってつけの速度にまでなる。
あっという間に北越谷を通過してしまい、また複線区間へ戻ってしまうが、都内と異なる点は速度が速いことが挙げられるだろうか。
忙しなく、というか特急列車らしくキビキビと走る様は、外から見れば大変絵になるだろうと想像できてしまう。そのような妄想を繰り広げているうちに、春日部を通り過ぎ、伊勢崎|《いせさき》線との分岐駅である東武動物公園をも通り過ぎる。
ポイントの揺れでふと我に返り、それが日光線に入ったのを告げてくれる。

ここからは”北関東”といっても失礼でないような地域へ入っていく。
田畑が車窓の大勢を占めるようになり、遠くには山並みがうっすらと見える。しかし、今日は強風が吹き荒れているようで、砂埃が舞っているのが時たま見受けられる。
この列車の写真を撮りたい人々には大変お気の毒である天候となってしまっている。もちろん私たちも煙っていて、あまりよく見えなくなる瞬間があるのだが。
ただ、これもご愛嬌。平々凡々な時を過ごすより何か刺激を与えるような出来事があったほうが記憶に残るもので、実際に、今もなお脳裏にこの光景が焼き付いている。

そのような中、列車はJR両毛りょうもう線との交点である栃木に到着。ご存じのとおり、ここは県庁所在地ではない。全区間乗車にこだわらない乗り鉄は下車していく。これは次の停車駅である新栃木でも同様であった。
「全区間乗車にこだわらない」というのは多少批判的な物言いに受け取られるかもしれないが、言い方を変えておくと、”観光鉄”である人々なのだ。

栃木市内には数多くの観光スポットがあることで知られており、私もぜひ訪れてみたいとは思っているものの、1日では到底回り切れないほどのボリュームがある。そのような観光スポットがあるから、その人たちはここで降りるのだろう。

世の中には千差万別、様々な趣味があるものだ。
いがみ合うことなく、お互いに相互不可侵の憲章を掲げて、讃えあうのが一番良いはずだ。私もそのような信念を完璧に取り込めるよう精進していきたい。


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