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e-Motorsportsの現在地とその未来

こんにちは、ドイツレースチームで働く山下です。
2020年はコロナの影響で世界中のモータースポーツ活動が中止、延期を余儀なくされました。また開催出来ても多くのカテゴリで無観客や収容人数を制限するなど、従来のモータースポーツから祝祭性が失われた1年だったと思います。
その一方で、バーチャル上のモータースポーツはe-Motorsportと呼ばれ、徐々に盛り上がっています。ここ数年で急成長すると思うので少しまとめてみました。

(1) e-Motorsportとは?

e-Motorsprtsはその名の通りモータースポーツのe-sportです。実はF1も統括するFIA (国際自動車連盟)が新世代モータースポーツの世界選手権として、「FIA GTチャンピオンシップ」を立ち上げています。そして車両の物理挙動に定評があり、約835万人のプレイヤーを抱える「グランツーリスモSPORT」を用いて競技が行われています[1]。

ワンメイクレースなど様々なカテゴリがありますが、マニュファクチャラーシリーズと呼ばれる3名ドライバーの団体戦形式もあります。2020年はスバルが優勝して2018, 19年のトヨタに続き日本メーカが3連覇しています。トヨタとマツダが公式スポンサーです。日本発祥のグランツーリスモということもあり、宮園選手を始め有力な日本人ドライバーも多く、国内ファンには一見の価値があります。

2020年は外国メーカからはBMW、ポルシェ、フォード、ランボルギーニ、シトロエン、フォルクスワーゲン、シトロエンなどが参戦しており、車両を見ているだけでテンションが上がります。

(2) e-Motorsportとリアルモータースポーツとの差分

PC画面上を通して観戦する分には、リアルモータースポーツと比較しても遜色ありません。スリップストリームの使い方、タイヤ劣化を考慮した戦略はレースファンとして十分に楽しめます。接触時は審議されペナルティなどもあるので不要な接触は非常に少ないことに個人的には驚きました。

ドライビングにおいてもe-Motorsportとリアルモータースポーツに共通点が多いことは、グランツーリスモ出身でプロドライバーとなったルーカス・オルドネスの活躍を見れば明らかです。GTアカデミーの活動でルーカス・オルドネスがGT300クラスにデビューした頃、彼のドライバーコーチと少し話をしたことがあります。その際に「情報処理能力と運転能力は非常に高く、実車に慣れたら直ぐにプロレベルになれる。体力面はトレーニングすれば問題ない。ここから一流になれるかは実車での恐怖感への耐性次第」と聞きました。

つまり、ドライバーに求められる要素は殆ど同じということです。
具体的には車両状態を把握して、最適な判断を行い、ステアリングやアクセルを操作するということです。ここにはとても可能性を感じます。

F1エンジニアの神野さんはシムレースにおいてドライバーへの車両挙動の情報量が少ないことをリアルレースとの違いとして挙げています[2]。僕はデータエンジニアとして働いていますが、ドライバー用のディスプレイに映るデータ情報に加えて、振動、温度など目に見えない情報を考慮すると、やはりリアルの方が情報量は多いと思います。

両フィールドにおいて、ドライバーはラップタイム短縮を目的に運転技術の優劣を競います。その中で、1番大事とも考えられる車両情報量が異なるというのは興味深いです。

(3)e-Motorsportの未来

グランツーリスモを用いたe-MotorsportがFIAの承認を受けたということは、バーチャルとリアルでのドライビングが同格と認められたことになります。シーズン終了後のFIA授賞式ではF1王者ルイスハミルトンの横にバーチャルレース出身ドライバーが並ぶということです。ここまでリアルとeSportの垣根が無くなりつつある競技は少ないと思います。

eSportのメガトレンドは、人気低迷が叫ばれるモータースポーツにおいてゲームプレイヤを取り込める絶好の機会です。僕はFIAのe-Motorsportsの承認は英断だと思っています。

一方でまだe-Motorsportsはリアルモータースポーツの一部を切り取ったものです。世界がオンランで繋がり、インフラとしての5G通信技術とXR技術が発達する未来においてはポテンシャルしかありません。昨年書いた記事も僕の予想よりずっと多くの反響がありました。e-Motorsportを通してモータースポーツの可能性が広がっていけば嬉しいです。

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参考資料
[1] https://toyotagazooracing.com/jp/e-motorsports/about/2020.html
[2] https://www.f1engineer-jp.com/2020/09/4.html

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