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day 26|写真の誕生に学ぶ画像生成技術のインパクト

生成AIはどのようなインパクトをもたらすのか?

生成AIが目覚ましい技術革新を遂げ、社会に浸透し、社会にどのような変化をもたらすのか、とても興味深いところです。

画像生成AIの技術進歩も留まることを知らず、例えば、アニメーションの生成(というかコピーに近い?)もできてしまうようです。


このように、誰もが簡単に自分の求める画像を生成できるようになると、自分の身のまわりで一体どのような変化が起きるのか。

アートの歴史を振り返ってみると、そのヒントがありそうです。

今では当たり前の「写真」ですが、一瞬の現実を切り取るこの技術が誕生した当時は、社会に対して非常に大きなインパクトを与えたようです。特に、アートに与えた影響は大きく、ひとつのアートスタイルを誕生させるきっかけとなりました。その経緯について、触れてみたいと思います。



写真の誕生

1837年、ルイ・ダゲールが発明したダゲレオタイプという写真技術をきっかけに、世の中に写真が出回るようになりました。アート界にも影響をもたらし、表現技法のひとつとして写真を受け入れる者もいれば、「価値のないものだ」と反対する者もいました。
また、写真はアートの民主化も引き起こしました。それまでは、上流階級のみがアートを鑑賞していましたが、一般市民でも安価に楽しめるアートとして写真が世に広まっていきました。

Photography had a significant impact in 19th-century society and its reception within artistic circles varied. While some welcomed photography and used it as an aid for their artistic production, others criticized this invention and refused to consider it as worthwhile for artists, as did Gustave Courbet.

写真は19世紀の社会に大きな影響を与えたが、芸術界におけるその受容はさまざまであった。写真を歓迎し、アート制作の一助とする者もいれば、ギュスターヴ・クールベのように、この発明を批判し、アーティストにとって価値があるものと見なそうとしない者もいた。


Regardless of the differing receptions of photography, this invention revolutionized 19th-century European societies. For the first time, art had become affordable not only for the higher classes but also for the lower ones. Middle-class and lower-class families could have their portraits done almost instantly at a photography studio for relatively affordable prices.

写真に対する受け止め方の違いにかかわらず、この発明は19世紀のヨーロッパ社会に革命をもたらした。初めてアートが上流階級だけでなく下層階級にも手の届くものになったのだ。中流階級や下層階級の家庭は、写真館で比較的手ごろな値段で、ほとんど即座に肖像写真を撮ることができた。

https://www.thecollector.com/how-photography-transformed-art/(著者訳)


写真誕生時のアートスタイル

写真が誕生する19世紀頃は、写実主義 というアートスタイルが主流でした。写実主義 とは、現実世界をアートによって忠実に再現しようとする画風であり、現実世界の複雑さや細かさを表現する技法として用いられていました。また、写実主義に至るまでに、均衡・調和・形式的な美を追求する新古典主義や、個人の感情・自然への感動を情熱的かつ力強く表現するロマン主義がアートスタイルとして台頭していました。

Despite their variations, the artistic movements in Europe before the 19th century had always had realism as their focus. Their change and variation manifested primarily in thematic change (what was painted) or technique, but realistic representation had always been valued in all of them.

19世紀以前のヨーロッパのアート動向は、そのバリエーションこそあれ、常に写実主義を中心に据えていた。その変化やバリエーションは、主にテーマ(何を描くか)の変化や技法に現れたが、写実的な表現はどの運動でも常に重視されていた。


At the time of the invention and spreading of photography, the leading art movements in Europe were Romanticism and Neoclassicism. The first had already introduced a shift in the artistic world by emphasizing the artist’s expression.

写真が発明され普及した当時、ヨーロッパの主要なアート同行はロマン主義と新古典主義だった。前者はすでにアーティストの表現を重視し、アートの世界に変化をもたらしていた。

https://www.thecollector.com/how-photography-transformed-art/(著者訳)


写真が生み出した新しいアートスタイル

写真の誕生により、アーティストたちは「現実とは何か」に対する認識を改め、現実の本質は、"constant movement" = "絶えず動いていること" だと言います。そうして、これまでヨーロッパのアートスタイルの主流であった写実主義の範疇を超えた "印象派" というアートスタイルが誕生します。"印象派" の画家たちは、写真では表現できない要素として、色彩、光、動きを追求したのです。

Painters who witnessed the advent of photography developed a different perception of reality and images than their predecessors. These artists understood that reality was transient and that each moment was fleeting and limited. The nature of reality, these painters realized, was to be in constant movement.

写真の出現を目の当たりにした画家たちは、現実やイメージに対して、先人たちとは異なる認識を持つようになった。これらの画家たちは、現実は一過性のものであり、一瞬一瞬がはかなく限られたものであることを理解していた。画家たちは、現実の本質とは絶えず動いていることだと悟った。


For this reason, the artistic movement of Impressionism was the first to deviate from the realistic norm in European art. The artists of Impressionism accepted that photography was the best for capturing fixed images and that they could not outdo it. For this reason, impressionists explored other dimensions of painting, such as color, light, and movement. This style made it clear that painting was not meant to compete with photography, but rather to complement it, to represent that which photography couldn’t.

このため、印象派のアート運動は、ヨーロッパ美術における写実的な規範から逸脱した最初のものであった。印象派の画家たちは、固定したイメージをとらえるには写真が最適であり、それに勝ることはできないと受け入れていた。このため印象派は、色彩、光、動きなど、絵画の他の次元を探求した。このスタイルは、絵画が写真と競争するものではなく、むしろ写真を補完し、写真では表現できないものを表現するものであることを明確にした。

https://www.thecollector.com/how-photography-transformed-art/(著者訳)


今回は、写真の誕生がアートスタイルに与えた影響について触れてみました。写真が与えたインパクトを大まかに整理すると、以下のようになります。

  • 写真が誕生する以前は、現実世界の複雑さやきめ細かさを忠実に表現するアートスタイルである "写実主義" がアートの主流であった

  • 写真の誕生により、アーティストたちは現実世界に対する認識を改め、現実の本質は "絶えず動いていること" だと捉えた

  • その結果、写真では表現できない色彩、光、動きといった要素の表現を追求する "印象派" というアートスタイルが誕生した


手軽に誰でも高品質な画像をつくることができる画像生成AIという技術は、社会はもちろんのこと、アート界にも影響を及ぼしていくと考えられます。写真がアートに与えた影響をヒントにすると、画像生成AIが持っていない要素を追求するようなアートスタイルが新たに誕生するのかもしれません。

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