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脱 オムライスは詭弁


小さい時からオムライスが好きだった。
要所要所にはいつもオムライスを作ってもらっていた。

ところが二十歳で上京してきたあたりから、外でオムライスを注文することがめっきりなくなった。オムライスが好きと言うより、記憶の中にあるオムライスが好き、が正しい。

卵の中央を切るとトロッと傾れるようなオムライスや、デミグラスソースの湖に浮かんだオムライスではない。簡素でペラっとした卵がケチャップライスを包んだオムライス。上にはなんてことないケチャップ。

今まで"オムライスが好き!"だと誤認しカフェでオムライスを頼んでは、出てきたものに落胆しながらスプーンを運んでいたが、最果タヒの詩『オムライスは詭弁』を読んで、ああまさにこれだと思い外で食べることは減った。
オムライス、各店の振り幅がなんて広いこと。

そんな中上京7年目にしてようやく見つけた、私の記憶の中をまさに具現化してくれたオムライス。
高円寺にあるカフェテラス ゴン。

細切れのハムが具材で、胡椒がピリッと効いた少し水っぽさのあるケチャップライス。ふわっとぺらっがうまく両立された卵。真ん中にはシンプルなケチャップ。

私が幼少期愛していた記憶のオムライスがまさかここにあったなんて…!
正式にはケチャップライスには輪切りのウインナーが入っていたけど、最早そんなことどうでも良い。特にケチャップライスの良い水分量と、胡椒の効き具合がまさに求めていたものそのもの。これは心のすがりどころになってしまう。

更には、静かな店内に店主がボウルに卵を割りかき混ぜる音、フライパンに流し込む熱の音。それが聞こえてくる瞬間、ふっと暖かい郷愁に浸らせてくれる。

オムライスが食べたいは詭弁。
長年の悩みがようやく雪解けし、後は春を待つのみ。白いシャツを羽織ってこのオムライスを食べたい。

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