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【ブルーピリオド】僕が惚れた青い世界は、矢口八虎の涙の色だった

2020年も相変わらずアツい『ブルーピリオド』。美大受験をテーマにしており、私達が普段触れる機会のない「なんだか凄そうだけどよく知らない世界」の中でも、トップクラスの謎に包まれている藝大・美大の裏側が知れるワクワクな作品です。

作品の魅力「矢口八虎」

のまま読み進めるには少し遠い美術の世界と私達を繋げてくれるのが、中心人物・矢口八虎。同級生からは不良と言われ遠ざけられる一面があるものの、定期テストの順位は学年トップクラス、オマケに交流の薄いクラスメイトでも気さくに話しかけるという世渡り上手なキャラクターです。

ここまで極端でなくとも、成績は上位で少し不真面目な学生生活に身に覚えがある人が感情移入するのには、そう時間を必要としないでしょう。

周りから一歩引いた目線で過ごしていた彼が1枚の絵と出会い、本気で取り組んだとしても食べていけるか分からないような美術の世界にのめり込むのですから、読者の感情を揺さぶらない訳がないのです。

天才達と競い合い、実質倍率200倍という圧倒的狭き門に立ち向かう八虎。本作を通じて人は忘れてしまった情熱を再び取り戻すこともあれば、自分には追いかける体力がないからと八虎に夢を託したくなるのではないでしょうか。

「青い」世界について

最近ではアルフォートとのコラボムービーに採用されたYOASOBIさんの『群青』という楽曲の効果も相まって、目からも耳からも絶え間ない激アツを摂取できますよね。移動中のプレイリストに迷ったらついつい『群青』を選んでしまいます。

ところで、ブルーピリオドと言えばイメージカラーは「青」。マンガを読んだことのある方ならばこの色が主人公・矢口八虎にとってどのような意味を示すのか、重々承知のことと存じます。YOASOBIさんの『群青』だけを聴いててもなんとなく想像が付くかもしれませんね。

八虎にとっては、人生の転機となった渋谷の「青」。同じく八虎の心を動かした人物である森先輩の「あなたが青く見えるなら りんごもうさぎの体も青くていいんだよ」という言葉を借りるのならば、僕がこの作品で心を揺れ動かされた「青」は、矢口八虎の涙の色でした。

僕が考える「涙」の意味

口八虎という人物は、定期テストも人間関係もゲームのごとくパスする器用さを持ち合わせている人物です。しかし、美術に出会うことで文字通り世界が色づき、感情も豊かになりました。その結果として、作中で頻繁に涙を流すようになったのです。

最初に泣いたのは、友達に絵を褒められたとき。厳密に言えば、八虎が絵に込めた想いが伝わったとき。僕はアートに造詣がないのですが、イラストレーションを作ることがあります。イラストレーションとはサービスや人物に込められた想いを誰かに伝える表現方法。なんだか八虎の感動が他の人より少しだけ分かるような気がします。


そして次に泣いたのが母親に進路を告げたとき。僕が信じている考え方の1つに、デッサン力とは観察力である、というものがあります。対象を正確に書き写す能力も、元を正せば圧倒的な観察力。そして対象への理解が不可欠です。それを踏まえて八虎がキッチンで料理をする母親の姿を絵にしようと考えた事実を反芻すると、涙の青色が幾重にも深くなるのではないでしょうか。


最後に印象的だったのは、ライバルとの切磋琢磨で流れた涙。美大受験のために予備校に行くことで出会ったのは、真剣に藝大に受かろうとするライバル達。厳しくとも適切なアドバイスをしてくれる先生とは異なり、同じ席を競い合う存在から突きつけられる言葉の重みは計り知れません。俺だってみんなに負けないくらい頑張っているのにどうして伝えられないんだろう、そんな弱さと向き合う厳しさが涙に込められているように感じられます。

カッコいいってだけでもいい

にも印象的な涙のシーンはいくつもあるのですが、あまり最新の巻数に触れてしまうと重大なネタバレを含んでしまう恐れがあるので割愛させていただいています。それにしても八虎の涙はやはり良い。僕自身が泣き虫だということを差し引いても、感情移入せずにはいられません。

ブルーピリオドは美大受験という名のスポ根だという人がいます。好きに立ち向かう姿がカッコいいと言う人もいます。場合によっては自分の受験時代と重ねて自問自答する人もいるかもしれません。

僕はそれらの意見には無限に繰り返される首肯をもって同意すると共に、やはり全ての背景を1つの感情に落とし込んだ涙の青さに心を動かされました。

だって矢口八虎の涙は見紛うことなく青色に見えるのに、情熱的でずるいくらいにカッコいいんです。

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