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(書評) 20世紀ホラー系文学の金字塔 、“こわ美しい” 名作---『丘の屋敷』

★「丘の屋敷」 シャーリィ・ジャクスン (創元推理文庫)

私はスプラッタ系のホラー映画は見ないが、超常現象系のホラー映画は好きで結構見る。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とか『サイン』とか、そっち系。コアなホラー映画ファンに比べると見ている本数も少なく、傾向も偏っているけれど、今まで見たホラー系映画の中でのマイベストが、ロバート・ワイズ監督の『たたり』(1963)。
有名な映画なのでオールドファンにはご存知の方も多いかもしれない(ロバート・ワイズは『サウンド・オブ・ミュージック』等の名作を多数監督)。


『たたり』は中学生の頃、地元テレビ局で毎日夕方に昔の洋画を放送していて、何の気なしに見たら怖くて引き込まれてしまった。
CGや特撮は無い。幽霊も出てこないし残虐な場面も無い。いかにも恐怖を煽るのではない抑えた演出だが、緊張感が凄い。モノクロ画面には格調の高ささえ…

そういう映画だから、現代の刺激的で展開の早いホラー映画に慣れている人にはたぶん物足りない。でも本当に怖いのは、派手な見せ場や仕掛けがなくても心理や生理にジワジワ訴えかけて、悪夢のように残るタイプのものではないか。実際に私は長い年月が経ってもまだ覚えているのだから。


その映画の原作が、この『丘の屋敷』(原作も以前は『たたり』のタイトルだったが改題された)。" 魔女 ” と呼ばれたアメリカの鬼才シャーリィ・ジャクスンの代表作で、20世紀ホラー系文学の金字塔。私の愛読書でもある。


「この100年に出た怪奇小説で傑作の名に値するのは、この『丘の屋敷』とヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』の二作だけという気がする」
(スティーヴン・キング『死の舞踏 恐怖についての10章』より)

この作品は海外のホラー、ファンタジー、ミステリー系作家に愛読者が多く、評価が高い。彼女の影響を受けた作家も数多く、「シャーリィ・ジャクスン賞」という文学賞も設けられている。彼女のトリビュート本にはジョイス・キャロル・オーツのような人気作家や大御所も競って参加している。


私はキングの『死の舞踏』も読んだ。恐怖やホラーについて書かれた力作で、中でも『丘の屋敷』の研究書と言っていいほど深く詳しく分析しているのには驚いた。キングは筋金入りの愛読者で、ホラーの帝王の創作にも大きな影響を与えているようだ(キングは映画『たたり』も絶賛している)。


物語は、古典的なゴシックホラー。
幽霊屋敷と呼ばれている丘の屋敷で心霊学者が研究調査を行うことになり、若い男女数人の参加者が招かれる。その一人が主人公のエレーナ。ルックスも野暮ったく、恋人もいない。地味で孤独な生活を送っている。もう一人の参加女性が華やかで社交的なのとは対象的だ。

エレーナは丘の屋敷に滞在するうちに不気味な家そのものに惹かれていく。魅了され、取り憑かれていく。やがて彼女にとって、丘の屋敷は自分の故郷であり居場所になっていく…。
ラップ音や超常現象は出てくるが、具体的な何かが出てくるわけではなく、ホラーというより怪奇幻想小説と言ったほうがいいかもしれない。
シャーリィ・ジャクスンについては、翻訳家の宮脇孝雄氏の考察が秀逸。

「「幽霊」「グロテスク」「ゴシック」などという言葉を目にすると、ホラー作家だと誤解されるかもしれないが、ジャクスンさんの本質は登場人物の微妙な心の襞(ひだ)を繊細に描く心理分析家である。
その登場人物の心が壊れていると、ホラーの要素が強くなる。しかし、あくまでも心理的グロテスクであり、怖さというのも、日常の生活がくるりと裏返るような、透明な怖さである」
(宮脇孝雄『洋書ラビリンスへようこそ』より)

得体の知れない不気味さ、正気が狂気に変わっていく怖さ。それでいて夏の夜の悪夢のように幻想的で、美しく儚い…
その後、国内外でこういう系統の作品は沢山出ているけれど、純度の高さという点では、これを超える作品は出ていないと私には思える。

著者は実際に魔女的要素のある人だったらしく、オカルティックなことにも興味があったとか。実生活ではワンパクな子供達に手を焼く主婦でもあったが、老年を迎える前に亡くなった。


ところで、ゴシックホラーの大半が人里離れた、いわくありげな屋敷を舞台にして、閉ざされた空間の中での怪異や事件を描いている。
実際に家(部屋)は住人の体調やメンタルに影響を与えることがある。シックハウス症候群等の化学物質だけでなく、家そのものの発する「何か」によって。
借家の場合は、平穏に幸せに暮らした住人ばかりではないだろうし…。


怪異現象が起きなくても、家と人との相性はある。人は家を選ぶが、家も人を選んでいるかもしれない。
家と人が感応するのを本能的に感じている人が多いから、家を舞台にしたホラー作品も多いのだろう。雨穴氏の『変な家』がヒットしたのも、家という身近な場所に潜む闇を描いたからでは。

シャーリィ・ジャクスンに話を戻すと、彼女は人間心理の恐ろしさを描いて比類ない短編『くじ』でも有名だ(この作品が雑誌「ニューヨ―カー」に発表された当時、衝撃を受けた読者からの抗議が殺到したという。そうだろうなあ…(;´_ゝ`)

『なんでもない一日』という短編集も日常の中の人間の悪意や心理を秀逸に描いた作品集でおすすめ。

【追記】なんと! シャーリィ・ジャクスンの伝記が映画になって、いま公開中なんですね!(知らなかった) 予告編も見れます。


★続・私の体験した不思議な話★

だいぶ前の話。スーパーで買い物していたら、3〜4歳位の女の子が突然タタタッと寄ってきて、黙って私の左耳の上あたりを指さして、じーっと見た。
私は小さい子の興味を引くようなヘアスタイルではないし、イヤリング等も付けていなかった。
母親が飛んで来て「こら、止めなさい」と言ったが、女の子は指差したまま放心した感じで凝視していた(怖がってはいなかった)。

怖がっていないので、妖精みたいなものが見えたのでは?と私は思っているけど、何だったんだろう…(((^_^;)

スティーヴン・キング著


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