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(書評) 最近読んだ本からランダムに②---虫と山の本

私の読書傾向には一貫性がなく何でも読むので、ご紹介する本も色々です。

★「足もとの楽園 ちっちゃな生き物たち」ぺんどら(さくら舎)


子供の頃、東北の田舎で育ったので、放課後はいつも外で遊んだ。ワイルドな野遊び。あちこちに林や草むらがあって虫も多く、男子だけでなく女子も虫捕りが好きな子が多かった。でも私はテントウムシとチョウ以外の虫は駄目だった。今も特に虫好きではないけれど、コウモリに関わるようになって彼らの主食である虫について調べる機会も増えて、「好きという程じゃないけど嫌いでもないかも…」くらいには進歩したかなあと思う。

だからといって進んで虫の本を買う程ではないのに、これは表紙のトビムシがあまりにも可愛くて、気づいたらポチっていた1冊。虫の中でも超、超、超ミニサイズの土壌生物の写真集だ。

「本書は粘菌、菌類、苔など5つの環境で暮らすさまざまな土壌動物の姿と暮らしぶりを紹介する写真集。跳躍器を使って高速ジャンプするトビムシ、天使のように愛らしいオドリコトビムシ、とんがった口のテングダニ、カレーパンのような姿のゴミツケタカラダニ、真っ赤なハサミをもつカニムシ、黒鼻顔のフサヤスデ、糸を吐くキノコバエの幼虫、極小サイズのカタツムリ、火星人みたいな手足のザトウムシなど、奇妙でユーモラス、カラフルな生き物たちが美しい写真で登場する。彼らもまた小さいながら大自然の一部であり、生態系の物質循環の一翼を担っている。足もとの小さな世界で多種多様な生き物が共存している姿は、見る者をほっこり、幸せな気分にしてくれる。」(Amazonの紹介文より)

以前書いたように、世界最小の哺乳類はキティブタバナコウモリという体長2cmのコウモリ(とっても可愛いですよ!)。それでも十分小さいけど、この本に出てくる虫たちの小ささはスケールが違う。小アリより小さいのだ。


たとえばトビムシは、0.5mm、1mm、2mmのミクロの世界。普通の人は虫メガネや顕微鏡を使わないと見えないので、実は私たちの近くの地面にもいるかもしれないが、気づいていない。彼らを愛する著者は、あちこちで(肉眼でも!)彼らを見つける達人だ。森林や洞窟だけでなく市街地でも、キュートでユーモラスな(同時に生きるために懸命な)姿を撮っている。

私が可愛いなと思ったのはミズマルトビムシ、シママルトビムシ、オドリコトビムシ。都会でも町なかのゼニゴケ、ギンゴケ等の苔類の中にはダンゴムシ、トビムシ、カイガラムシ、ダニ等が生息しているという。

これがトビムシだ!こんなに小さいのに目もあり手足もある不思議… (出典)
Amazonの本書部分より


「街なかで苔を探すと、水の流れをコントロールする人工的な環境を巧みに利用し、その水の通り道に点在しているのが見えてくる。人の暮らしをちゃっかり利用している苔たちに日常で気づくと、「いいとこ見つけたな」とほっこり気分がよくなるが、そこに小さな生き物が生きているとわかると、いっそう楽しい気分になる。あまり自然が豊かでない場所でも、そんな小さき者たちのオアシスを発見するとどんな生き物が住んでいるかと探すようになった」(本書より)


トビムシは「陸のプランクトン」と言われるほど数が多く、菌類等を食べる。菌類は、ある程度食べられることで成長が促進され、死骸等を分解して、大きな生き物から小さな生き物へ資源の再分配をする「物質循環」の役割を果たしている。生き物はみんな繋がっているんですね。


ただし、可愛い写真ばかりではないし、基本的にはマニア向けの本だと思うけれど、私たちの足元にこんな生き物たちがいることを意識すると、外歩きがちょっと楽しくなるかも。


★「山怪 朱」 田中康弘 (山と渓谷社)

前に紹介した「山怪」シリーズの一番新しいやつ。


このシリーズは読み始めたら止められない。上の記事に書いたように、いかにも…のおどろおどろしい怖さじゃなくて、実話ならではのジワジワくる怖さ。前のシリーズ同様に、マタギ、猟師、登山者、林業関係者、山間部の住人等の「山人」たちが実名で実際に体験した山の不思議な話を語る。

タイトルの一部を紹介すると、こんな感じ。ゾクゾクしません?

・白い着物の女  ・二度と行かない  ・白目を剥く女
・なぜそんな所にいるの?  ・時空のゆがみ  ・騒ぐ水
・山の呼び声  ・人魂が飛び交う村  ・神様と呪いの木 


どの話も面白いが、私は地元の話が印象的だった。宮城県の山間部(すぐ隣は山形と福島)に七ヶ宿(しちかしゅく)町がある。行ったことはないが、昔は栄えた所なのは聞いている。この七ヶ宿町を舞台にした怪異談が豊富に載っていて、どれも面白い。

たとえば、林業関係者が晩秋に親友と二人でキノコ採りに山に入った。
親友と楽しく会話して歩いていたら、突然、後ろを歩いていた友の声がしなくなった。振り向くといない。トイレでもない。途中に滑落するような所はなく、悪戯をするような人でもない。
直前まで普通に会話して、足音もはっきり聞こえていたのに、突然消えてしまった。消防団も出て捜索したが不明のまま…。

その4年後、偶然遺体が見つかった。不思議なことに遺体はまるで2〜3日前に行き倒れたような綺麗な状態で傷んでいなかったという(( ;゚Д゚)
七ヶ宿町では、作業服を来た身長20cmの「小人」のおじさんとか、釣り竿を持ってトンボ(虫)に乗ったお爺さんとか、摩訶不思議な目撃談が色々…

前作に続いて狐狸話も多い。「狐だの狸だのアホらしい」という人は、次の話をどう思うだろう?

世界遺産の白神山地で、林業関係者たちが山の小屋で寝ていると「トンボで行くぞー!」の声がして、いきなり木が倒れて転がる音がする。しかし外に出ても何も起きていない(トンボというのは、木の倒し方のこと)。
それが続いて不審に思った関係者は、ある夜、声がすると同時に一斉に外に飛び出した。すると、目の前の斜面を狸がゴロゴロ転がってきたという。

狸ですけど何か?

ーーこの「山怪」シリーズにはこういう実話が満載で、何が起きたのか、周りの人たちも、おそらく本人にも分からないようなことが、今でも山では普通に起きている。

著者は「全国的に山へ入る人は確実に減っている」と憂慮する。白神山地の住人も「人が山へ向かうきっかけが無くなったというか、若い人や子供の山に対する興味も無くなっているようにも思いますよ」と言う。

時代を考えると仕方ないのかもしれないが、多くの人が興味を失くす=日本人が脈々と受け継いできた、豊かな何かに触れる機会を失うーー気がするんですけどね。


★この記事をご覧になったエトさんが、当記事のご紹介と、ご自分の山での不思議体験をお書きになっています。ご一読を (゚ω゚;A)


★「遥かなる未踏峰(上・下)」ジェフリー・アーチャー (ハーパーBOOKS)

エヴェレスト(出典)

前に書いたが、私は現存する海外の小説家の中で最高のストーリー・テラーは、ジェフリー・アーチャーとスティーヴン・キングだと思っている。


どちらも多作で長編も短編も巧い。特にジェフリー・アーチャーは、今までの総発行部数が2億7500万部を突破。114ヶ国47言語で出版されているという、名実共に世界No.1のベストセラー作家で、私も長年愛読している。とにかく巧いし、根底に流れるヒューマニズムが好きだ。

これは彼の作品の中ではかなり異色の山岳小説で、意外にも(?)彼が自作の中で最も好きだという作品。以前は新潮文庫から出ていたが、今年、ハーパーBOOKSから新装版が出た。

前列左端がジョージ・マロリー(出典)


この作品は「悲劇の登山家」といわれるジョージ・マロリーのエヴェレスト登山記である。彼は19世紀末にイギリスで生まれた、傑出した才能と実力の登山家。エヴェレスト初登頂に挑んだが、一度目は失敗。もう後がない二度目の登山で(おそらく雪崩のため)消息不明になってしまい、彼がエヴェレスト初登頂を果たしたかどうかは、いまだに謎に包まれている(しかし、世界の登山関係者は彼の初登頂を疑わないそうだ)。

「なぜ登るのか?」と聞かれた彼が「そこに山があるからだ」と答えたのは、あまりにも有名な話。

山岳小説というと、そっち方面に興味のない人や女性読者は「ちょっと…」かもしれないが、さすがアーチャーで、この作品はジョージ・マロリーと妻ルースの純愛やマロリーを巡る人間模様、当時の社会状況等が描かれて、特に山に興味のない人でも読みやすい物語になっている。

夫に危険なエヴェレストに行ってほしくないルースは、著名な探検家スコット大佐の未亡人に「残りの人生を夫なしで過ごすのは耐えられない」と相談に行く。未亡人は静かに言う。「ご主人の宿命の前に立ちふさがることはできませんね。いえ、してはならないというのが本当のところです。本来なら自分が成就すべきだった夢をもっと劣った他人が成就するのをご主人が見るようなことになったら、終生後悔するのはあなたかもしれませんよ」


彼が行方不明になり、最後にルースに届いた手紙は感動的だ。ルース・マロリーは残りの人生を、毎日同じ時間に夫の手紙を読み返して過ごしたという。その夫婦愛に涙する女性が多いのではないだろうか。


「…新しい小説ばかりがいい小説というわけではない。典型的な人物をきちんと動かし、ストーリーテラーの伝統を頑固に守り続ける、そんな小説作法こそがアーチャーという作家の真骨頂なのである。」

「たとえその道は死へも繋がるものだとしても、人として生まれたからには、自ら信ずるところのものを、時には命を賭けてでも成し遂げねばならない。この物語は、家族の愛に支えられながら、そんな思いを不屈の精神で貫き通した男の物語である。現代人がややもすると忘れてしまいがちな信念と誇りの尊さを本作で堂々と描ききったジェフリー・アーチャーの物語作家としての矜持に、改めて大きな敬意を表したいと思う」(三橋 暁)

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