見出し画像

配信演劇「反復かつ連続」座談会企画〈最終回〉

 この記事は、3/26~28に上演する配信演劇「反復かつ連続」(柴幸男原作)公演のマガジン記事です。公演の詳細はこちらをご覧ください。

 今回は公演主宰メンバーであり、慶応義塾大学ミュージカルサークルEMの出身の有賀、金子、松橋が、配信会場としてお借りしているお家の家主さんをゲストにお呼びし、座談会を行った模様をお伝えします。最終回は《バリアフリーとエンタメ》《座談会の総括》についてお伝えします。(全3回)

__________________________________

参加者の紹介


ゲスト:藤尾さん(仮称)
 公演に貸し出して頂いたのは藤尾さんの実家。実家は浄土真宗本願寺派「立雲寺」を営んでおり、藤尾さんのお父さんが住職だった。藤尾さんは現在、学校の教諭や手話通訳など、聴覚障害児・者に関わる活動を行っている。

公演主宰メンバー
演出:有賀実知
 学生時代は主に役者や脚本・演出を務めてきた。現在は長野県にある実家で暮らしており、本公演では完全リモート参加で演出をしている。4月からは社会人。
note / Twitter

役者/制作チーフ:金子晴菜
 学生時代も役者や制作を務め、サークル外での演劇活動にも数多く携わってきた。4月からは社会人。
note / Twitter

テクニカル演出/制作:松橋百葉
 学生時代はサークルで照明を務めるほか、メディアアートの研究や、サウンドパフォーマンス、配信イベントなど行っている。「演劇ユニットいき」のメンバー。4月からは大学院生。
note / Twitter

__________________________________

 座談会はオンライン上で行われており、藤尾さんはこの日、ご実家(配信会場)から参加されています。

 今回は、学校の教諭や手話通訳などを行っている藤尾さんとの出会いをきっかけに、「聞こえない人」「聞こえる人」どちらの方にも楽しめるエンターテインメントについて考えます。

 

【告知】
 3月28日13時回、15時回はどちらもバリアフリー字幕付きの公演となりました。初めての試みですので不備もあるかと思いますが、ぜひ聴こえる人・聴こえない人どちらの方にもご覧いただき、アンケートで感想をお聞かせください。


最近気になるバリアフリー演劇


___バリアフリーとエンターテインメントについて、皆さんはどんな関心がありますか。

松橋 最近注目しているバリアフリーなエンターテインメントの取り組みとして、theatre for all」というバリアフリー型の動画配信サービスがあります。

THEATRE for ALLとは

だれでも、いつでも、どこからでも。
ひとりひとりが繋がれる “劇場”。
劇場体験に、アクセシビリティを。
それが『THEATRE for ALL』のミッションです。

子どもから大人、そして、お年寄り。聴こえない人、見えない人、
車椅子で移動する人。使う言葉が異なる人、育児・介護をしている人、
海の向こうで暮らしている人。
環境や身体のちがいから劇場を訪れなかった人が、別の方法で“劇場”に
アクセスできるようになれば、ひとりひとりの日常もひとつひとつの
作品も、もっとおもしろくなるはず。
『THEATRE for ALL』はそんな思いから生まれた、アクセシビリティに特化したオンライン劇場です。

体験できるプログラム
・現代演劇やコンテンポラリーダンスの上演映像、映画、ドキュメンタリー番組
・バリアフリー、多言語翻訳対応をしている映像作品や番組
・鑑賞前後のワークショップや感想シェアなどのラーニングプログラム
など              
                   (THEATRE for ALL公式HPより抜粋)


松橋 最近できたばかりのサービスなんですが、毎週のようにトークイベントが開催されていたりとか、既に面白い取り組みが沢山あって。私の興味分野にも近いので、すごく興味があります。私の少し上のゼミの先輩も、THEATRE for ALLの現場に関わっていたのですが、その方が藤尾さんとご友人だと聞いてびっくりしました。

スクリーンショット 2021-03-11 11.45.52

写真:テクニカル演出/制作の松橋百葉

有賀 藤尾さんも、エンターテイメントの分野でのバリアフリーについてご興味があるんですか。

藤尾さん(以下敬称略)
 私は公務員なので、今までそうした分野に関わったことがなかったんですが、今話題に上がった友人から色々と制作現場の話を聴いて、興味を持ち始めたところです。

内在の意識を言語化すること


___日常の中にある手話通訳などを使ったコミュニケーションと、エンターテインメントの中にあるそれらの違いはなんでしょうか。

藤尾
 エンタメという括りで言えることかは分からないですが、「言語化できない内在の意識」みたいなものを手話や字幕で表すのは難しいかもしれませんね。例えば、日本語を手話にするときには、頭の中で、話している人の言葉を受容し、理解し、翻訳し、表現し…というような行程を経ているんですが、 アートはそもそも、その人の表現していることを受容し、理解することが難しい。概念的な表現が多いし、感じ方は人それぞれなので。表現者とお客さんの間に通訳者が入ってしまうことで、伝えたいニュアンスが、通訳者のフィルターを通したものになってしまうのが難しいところです。

有賀
 なるほど。

金子
 昨日、私たちもまさに概念的な話し合いをしていました。聴こえる人と聴こえない人、見える人と見えない人、皆を内包する演劇をつくるにはどうしたらいいかっていう話題で。まあお互いにお互いの言っていることが全然伝わらなくて(笑)。まさにそういう状況が起きていたので、わかるなあという感じです。

藤尾
 アートのことは詳しくはありませんが、そもそも言語化できないものを表現するのがアートだと思うので、それを言語にする通訳者はきっと大変ですよね。

有賀
 演劇の場合はチームでつくるので、言葉の壁がない現場であっても、表現したいものを言語化するっていう作業はとても必要で。私の表現したいことを分かりやすく言語化してくれる通訳さんに居て欲しくなる時があります(笑)。登場人物の心境を役者に説明しようとして、「こんな感じの時ってあるじゃん!」って一生懸命に話すけれど、細かいニュアンスまではなかなか相手に伝わらなくて。毎度苦労します。最後はもう、同じの釜の飯を食うなりして、一緒に体感したことでないと、すり合わせることができない気もするし。でもそれが、面白いところですね。

スクリーンショット 2021-03-11 11.57.17

写真:演出の有賀実知


ハイコンテクストとローコンテクスト。演劇は…?


___「言語化できないものを表現するのがアート」という言葉がありましたが、日本語、手話、アート、それぞれに、得意な表現があるのでしょうか。

藤尾
 言語学で“ハイコンテクスト”“ローコンテクスト”って聞いたことがあるかな?

松橋
 あります。

有賀
 (???)

松橋
 ローコンテクストは、1つの言葉が持っている意味が少ないから、言葉を沢山使って、具体的なものを並べていく、みたいなことですよね。

藤尾
 そうそう。日本語はハイコンテクスト。文脈から読み取って察していくのが得意な言語。対してローコンテクストは、具体的に伝えることが得意な言語ですね。前に、「イタリア語とか日本語はハイコンテクストで、文脈に依存する言語だからこそ、ラブロマンスの物語が多いんだよ」って言われたことがあって。「月が綺麗だね」って言われた時、日本語なら文脈によっては愛の告白で、別の文脈なら本当に月が綺麗な時もあるから、1つの表現にいろんな捉え方がありますよね。でも、(ローコンテクストの)ドイツ語で言ったら返事は「Yes」だけで終わっちゃいます(笑)。どっちが良いとか悪いとかはないけれど。

有賀
 なるほど~

藤尾
 で、手話はローコンテクストなんですよ。だったら、手話を日本語に訳す時は、いっそ全部具体的に言ってしまえば良いと思うかもしれないけれど、そうすると日本語としては残念な感じになってしまうんです。そう考えると、アートってハイコンテクストですよね。1つの表現にいろんな捉え方があるからこそ、アートになる。

松橋
 アートってハイコンテクストなんですね。

藤尾
 いや、わからないです、わからないですけど!

金子
 ものによるのかもしれないけれど。抽象画とかハイコンテクストの極みですね。

藤尾
 そうそう!ここに何か描いてあるから読み取れ…っていうハイコンテクスト感がありますよね。ピカソ的な。

金子
 多分演劇にはハイコンテクストな演劇とローコンテクストな演劇と両方あるんですよね。好みが分かれるところですけど。「反復かつ連続」は…ローコンテクストな設定とセリフで、ハイコンテクストな構造をやってるのかな…

藤尾
 おお、かっこいい。

金子
 そういう感じだと思います。

スクリーンショット 2021-03-11 11.44.25

写真:役者/制作の金子晴菜


聴こえる人にも、聴こえない人にも価値があること


___配信演劇の場でバリアフリーを実現する際の、課題は何でしょうか

藤尾 映像に字幕や情報補助をつけていくとなった時に、例えば、オノマトペはどうするか、みたいな話があります。物音がしたときに〈ガチャ〉とか〈ピチャピチャ〉とかって文字があれば、そのような音が鳴っていることが分かります。でも、漫画的な表現である〈シーン〉という文字を見ても、聴こえない人は〈シーン〉という音があると思ってしまう、というエピソードはよく耳にします。映像の字幕でも同じことが起きるのではないでしょうかね。聴こえない人と聴こえる人の認識のズレ。そこが難しい。情報保障のまだ開拓されてない部分です。

有賀
 どんなものだったら分かりやすいんでしょうか。

藤尾
 画面の下の方に出る普通の字幕なら、鍵括弧つきで“「ピチャピチャ」”と表示することで本当に鳴っている音を表すとか。画面に映っているコップの隣に〈ピチャピチャ〉という字幕が配置されていたり、〈ガシャーン〉という音のフォントを変えたりしている字幕も見たことがあります。今までは画面の下に網掛で文字が出ているだけのものが字幕だったけど、新しいものが生まれてきつつあります。

有賀 『反復かつ連続』の脚本を提供してくださった劇団の「ままごと」さんは、初演の時に英語字幕をつけていて。まさにそういった字幕のつけ方をされていました。一人芝居なんですが、舞台の背景がスクリーンになっていて、実際にはそこに誰かがいるという場所に、あっちからこっちから英語の字幕が出てくるという。

藤尾 そううのは私も面白いなあって思います。

スクリーンショット 2021-03-11 11.44.03

写真:家主の藤尾さん

有賀 でも、バリアフリーということを考えた時に難しいのが、聴こえる人にとっては字幕があることが邪魔に感じてしまうことですよね。演技から読み取りたいのに、わざわざ字幕で説明しないで、って。本当は、聴こえる人・聴こえない人、両者にとって作品の価値を高める字幕になるべきだと思うんです。難しいことです。

松橋 考え方を変えると、今挙げられた、文字が画面のあちこちに散らばっている字幕をTVなどで日常的に使いたいとなった時に、それが上手くいくかどうかって、簡単には分からないですよね。演劇は、そういう新しい発明をデモンストレーションする場に使えるし、私は使いたいなって思っている部分があります。演劇で可視化することで、聴こえない人達の意見も聞いてみたいし。

有賀 なるほど。今回の公演でも、試作的に字幕付きの回をつくってみたいって話しているんだよね(笑)

藤尾 すごーい!宣伝する。

松橋 技術的にも人手的にも、やれる!!と明言は出来ませんが…やりたいです。

 28日のバリアフリー字幕は、初の試みということで、画面の下に台詞が表示される字幕になりました。ぜひ、アンケートでご感想をお寄せください。今後の作品作りのために活用させていただきます。


***********


アフタートーク


___座談会は以上になりますが、いかがでしたか。

有賀
 私は『反復かつ連続』を、家族によって人が受ける影響は何で、それを乗り越えて自立していった先に、母親の存在や家族の存在をどう受け止めていくのか、その女性の人生を深く追求した作品になればいいなあって思っていて。自分の実体験だけではなく、こうして、藤尾さんから家族のお話を聴けたことで、「やろうとしてることは間違ってないぞ」という気持ちになれたのが嬉しかったです。

 それから、正直にいうと、今回、藤尾さんのお家を貸していただいた経緯は、劇場で演劇ができないからどこかのお家をお借りしたいっていう、それだけだったんです。なので、そこに何か付加価値みたいなものはあるんだろうか?とぼんやりしていて。今日お話を聞くことで、長年の生活の蓄積があるお家で演技をやるってすごく魅力的なことなんだということを実感できてよかったです。

藤尾
 noteに書いて宣伝してください(笑)。この家魅力ありますよって。

有賀 はい(笑)

金子 私は、「このお家、間取りが不思議だなぁ」とかって家に対して感じていた疑問がスッキリしたことがまず嬉しいです。それから、ちょうど私も、手話に興味を持ち始めていたときで。コロナで家にいることが増えたんですが、「エンタメって別にいらなくない?」という風潮が高まった時に、じゃあどうやったら人の役に立てるエンタメができるだろうと思って注目していました。

 今回の公演の話があがったときに、見える人・見えない人、聴こえる人・聴こえない人、みんなが楽しめるものを、いつの日かできたらいいな、くらいに思っていました。ちょうどカラーコーディネイターの勉強をしていたので、色覚の障がいの方に向けても。それがまさか、今回の公演で字幕に挑戦することになるとは。藤尾さんが、手話通訳などをされてきたと聞いて、「うあわ、今やったらいいじゃん!」って気持ちになれたんです。面白い”人の出会い”ってあるんだなあって思っていました。

 それから、藤尾さんのお話は、人生の先輩のお話としても面白くて。私たちばっかり、沢山勉強させて頂いちゃいました。私は今回、制作と役者をやっているんですが、別の誰でもなく、藤尾さんがお宅を提供してくれたということを、宣伝や作品にうまく表出したいなと思いました。がんばります。


松橋 藤尾さんからも、ご感想があればぜひ。


藤尾 そうですね…今、コロナ禍の1年は、決して無駄じゃなかったかなと思っていて。コロナ禍でなければ、きっと皆さんのような大学生と出会うこともなかったし。沢山の出会いがあって、その分、沢山の価値観を受容できるようになったから、ありがたかったです。

 皆さんと会って一番新鮮だったのは、この家を居心地がいいって褒めてくれることです。今まで言われたてきたのは「そんな不便な場所の家、早く売っちゃいしなよ」という言葉だけで。だからこそ、人に貸して活用することでちょっとはこの家の評価もプラスになるんじゃないかなと感じました。二次利用の方法の、活路を見出せたというか。

 それから、自分の生い立ちを人に話したことも、初めての経験でした。事前のアンケートの回答をPCで打っている時も、自分のことをこんなに聞かれたことがなかったので、「え~!分かんない!」と思うこともありつつ、こんな機会をもらってありがたかったなって思います。


有賀
 そう言っていただけてありがたいです。ご負担ばかりかけてしまっていたので。

藤尾 割と面白い人生送ってきてるかなって思うので、本当は漫画本でも出したいくらいなんですけど(笑)流石にできないので、皆さんの記事で、どうぞ使ってください(笑)。作品も、楽しみにしてます。

一同
 ありがとうございます!!

画像5


***********

配信演劇「反復かつ連続」

配信URLはこちら
YouTube にてライブ配信 (無料・投げ銭)
https://unitiki.online/hampuku/live

公演リマインドフォーム
こちらに登録していただ方に、公演のリマインドメールを送信いたします。
https://forms.gle/39nexjArZmRjeqdj8

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?