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笑って老年 唐突にパソコン・パソコン講師 Web制作も [体験記]


パソコン、ある日唐突に


 パソコンは大好きである。楽しい。
授業で学生たちに教えるのも楽しい。
最初のパソコンを買ったのはもう15年以上前だったように思う。
実はその以前から欲しかったのだが、なにせ当時は高価なしろものだった。
知り合いのデザイナー仲間が、パソコンを使った仕事の話をしているのを、よだれがたれそうな思いで羨ましく聞いていたものだ。
パソコンを購入したのは、仕事で急に必要になったからである。
私はフリーの工業デザイナーで、デザインが決まると製図作業がある。それまでは、図面はドラフターで作図していた。
ドラフターというのは、大きな製図板の上に取り付けられた、可動式の大定規のようなもので、好きな位置に好きな角度の直線を画くことができる手動式の機器である。
製図板の上に用紙を固定し、鉛筆で作図するのである。
 
突然きた仕事は、バーコードリーダーのデザインと設計であったが、これをCAD (キャド)で製図してほしいという注文だった。
バーコードリーダーというのはコンビニで会計の時、店員が商品のバーコードをピッと読み込むあの機械である。
CADというのは、ドラフターと鉛筆で製図する作業を、代わりにパソコンでやってしまうものだ。
私は、ついに来た、と思った。
うすうすいつか、こういう時が来るに違いないと思っていたが、突然その日が来た。
その日のうちに私はパソコン店に飛んでいき、ローンでパソコンを購入した。
このとき購入したパソコンは、マッキントッシュのパフォーマという機種で、マッキントッシュは当時のデザイナーにとってはあこがれのブランドであった。
メーカーはあのリンゴマークでおなじみのアップルコンピュータである。
この頃はまだウィンドゥズはあまり知られていなかったように思う。
フリーのデザイナーは仕事の注文が来たら、どんな仕事でも即引き受ける。手がけたことのない分野の仕事でも絶対断らない。
えり好みしていたら、仕事なんか来なくなってしまうのだ。
それから大急ぎで資料を集めたり調べたりして、その仕事の対応をする。
パソコンだけ買ってもソフトがなければただの箱である。
さすがに今からCADを買って使いこなすには、時間が足りない。
私はCADの代用に「クラリスドロー」というドローイングソフトを購入した。
CADよりは安価で、CADほどの機能はないが、一応作図可能なソフトであるということは、パソコン誌などから知っていた。
これなら短期間でマスター出来ると思ったのである。
私は今回の仕事は、代用CADでやることにした。
こういう形で唐突に、私のパソコン生活は始まった。

「クラリスドロー」は使いやすいソフトですぐ使えるようになり、さっそく仕事にとりかかった。
しかしCADまがいソフトなので、色々苦労した点があった。
二本の線が交わり、交点の外側にはみだした部分を削除したい場合がある。
CADにはトリムという機能があり、いらない部分をチョンチョンとつつけば、一瞬で無くなるのだが、このソフトではこれができない。
で、どうしたかというと私は白い四角形をいくつか作っておき、消したい線の上に置いた。
こうすると見た目、線が隠れるので無くなるのである。
また、寸法を記入するには、CADでは記入したい二点をチョンチョンとクリックして横に引きずれば、両端に補助線があらわれ、その間に矢印のついた寸法線ができて真ん中に数字が並ぶ。
なんてことない一瞬の作業なのである。
しかしこの「クラリスドロー」には寸法記入機能がなかった。
そこであらかじめ長短何本か直線を作っておき、寸法記入部分に配置していくのである。
もちろん矢印の先も小さな「く」の字の形を作っておき、直線の両端に並べる。
さらに別に数字を作って、矢印の上に配置する。
一度作ったものはコピーして使いまわしが出来るが、それにしても手間がかかった。
さらに困ったのは、この非力なソフトを能力限界で使ったため、ゴーストのような予期せぬ図形が出現してきたのである。
これらは先ほどと同じく、白い図形の目隠しでなんとか隠してごまかしたのだった。
後々、本当のCADを使った時、専用ソフトの便利さ、すばらしさに感動したものだ。
バーコードリーダーは精密電子機器であるから、学生に画かせているような単純な図面ではない。
CADでもないソフトでよく仕上げたものだと、今思い出しても冷や汗がでてくる。
この仕事は、図面をプリントアウトして先方に持っていき、毎回渡して進めていった。
あの時もし、データで欲しい、と言われたら、本当のCADでないことがたちまちばれてしまったはずだ。
あの時の社長さん、技術のみなさん、ごまかしてしまってごめんなさい。
 
こんなことがあったので、この仕事が終わると、さっそくCADを購入した。
「miniCAD」(ミニキャド、現在はベクターワークスとなっている)というマック用の本格的CADで、すぐ慣れ、とても使い易かった。
しばらくして、今度はバーコードリーダーのスタンドのデザインの仕事がきた。
バーコードリーダーを置いて充電する機器である。
置きやすさ、つかみやすさ、ラフに置いても定位置に確実にセットされ、充電端子が接触しなければならない。
なによりもまず、デザインが機能的で美しくなければならない。
内容の濃い大きな仕事である。報酬も期待できる。
当然CADでするわけだが、予期せぬことに、ウィンドゥズのAUTO CAD (オートキャド)でやって欲しいと言われた。
せっかくミニキャドに慣れていたのだが、仕方がない。
またもや私は速攻でウィンドゥズのパソコンとオートキャドを購入した。
バージョンがウィンドゥズ98なので、多分1998年ごろのことだと思う。
オートキャドはミニキャドに比べて操作がめんどくさいが、まあすぐ慣れてその仕事を仕上げた。
あとで分かったことだが、オートキャドは日本における最もメジャーなCADなのであった。
 

突然のパソコン講師 CAD担当


 2000年に東京都下、某デザイン専門学校の非常勤講師に採用され、CADコースの学生達の授業と、その年の秋の社会人向けCAD講習会の講師を務めた。
学生達の授業も社会人の講習会も、オートキャドを担当したのだが、考えてみればほんの一~二年前にマスターしたばかりであり、しかも自己流で身に付けたものなのだ。
一度もこれらに類する教育を受けたことがない。
そんな人間が講師として人に教えるのだから、不思議なものである。
そこで私は思ったのだが、これは仕事のために覚えたから一気にある水準まで達したのだと思う。
学校の先生がいうのもおかしなものだが、学校の授業などではたいして力が付かない。
学校の授業は基礎の基礎なのである。
わからなければ、先生が親切に教えてくれるし、まちがっても責任はない。
しかし仕事となると、そうはいかない。
もし間違った図面を画いてしまい、金型でも作ってしまったら、たちまち数百万円という損害になる。
大変なことである。
会社なら首である。間違いは許されないのだ。
操作の分からない場合、誰も助けてくれない。
自分で本屋で解説本を探し回って、解決しなければならない。
真剣味が違うのだ。
教え子の学生時代、そうたいして出来るとは思えなかった学生に、久しぶりに会って話を聞くと、私も知らないような高度な専門的CADや3Dソフトを使って、最先端の仕事をしていることがある。
これはやはり、仕事でやっているから、高度な知識、技術が身に付いたのだ。
 
話は前後するが、「クラリスドロー」を使い始めた頃、「湯河原ゆかりの美術館」という美術館が新設されることになり、そのシンボルマークとロゴのデザインが公募された。
ロゴというのは、ロゴタイプの略で、文字のデザインのことである。
私は応募し、一等で採用となったのだが、このデザイン制作に「クラリスドロー」を使った。
ところが先方は「イラストレーター」のデータで欲しいといってきたのである。
「イラストレーター」というソフトがあるのは知っていたが、「クラリスドロー」でも、工夫すれば結構正確に色々作図出来るので、「イラストレーター」はまだ手を付けていなかったのだった。
しかし色々調べてみると、プロのグラフィックデザイナーの世界では、「イラストレーター」がスタンダードな定番ソフトなのであった。
その後「イラストレーター」を使うようになって、「クラリスドロー」などはるかに及ばない本格的多機能があることを知った。
現在は学校でこの「イラストレーター」も教えている。
「イラストレーター」は、ベジエ曲線という作画法が、最初の関門としてあり、慣れるまでみんなてこずる。
しかしここをクリヤーすると俄然楽しくなり、学生達の目付きが変わってくる。
どんなイラストでも自由に描けるようになり、手書きでは絶対描けないような面白い効果がさまざま試せるので、パソコンから離れられなくなる。
こうなると教える私も楽しくなり、場合によっては、学生と一緒に新しい表現にチャレンジすることもある。
教師をやっていて幸せを感じるひとときである。
 
私よりもかなり年配の著名な作家の随筆に、ものを書くというのは手仕事中の手仕事で、頭で書くというより手で書く、万年筆で原稿用紙に字を書きつつ考える、パソコンのキーなんか叩いては、たぶんなにも書けないだろう、というような趣旨の文章があった。
私は今この文章を、WORD (ワード)というソフトを使ってパソコンで書いている。
WORDはたいていのパソコンに最初から入っている、スタンダードな文章作成ソフトである。
WORDには様々な便利な機能があるが、文章作成中に、指定した一部文章を切り取って、別の文章の間に差し込むことができる機能がある。
コピーアンドペーストだが、これによって、文章の構成を自由に変更できる。
色々試みて結局最初のがよかったとなれば、簡単に元に戻すこともできる。
この間、様々なシミュレーションの中からベストの表現を探して、頭の中はぐるぐる働く。
この自由な入れ替え、組み合わせ作業を原稿用紙でやるとしたら、どのようにやったらいいのだろう? 
歳をとると誰でも老眼になる。私も老眼鏡をかけている。細かい文字が見づらくなる。
こんなとき、WORDでは文字を簡単に拡大して見ることができる。
ご高齢のこの作家の方は、いまさら永年の習慣を変えて、とっつきの悪そうなパソコンなどで苦労して原稿を書きたくないと思われているのだろうが、もしパソコンを使ってみたら、その便利さに驚かれると思う。
万年筆など埃をかぶって、パソコンを手放せなくなってしまうと思うのだが。
 

パソコン授業初日


 四月になり新学期が始まった。
二年生の「イラストレーター」の授業が開始だ。
パソコン室に行って教室の鍵を開ける。明りをつけエアコンをいれる。やがてどやどやと学生たちが入って来た。
二年生なので全員の顔、名前はわかっている。
出席をとる。欠席者はいない。新しい授業の始まりなので、みんな期待と好奇心の顔つきでこちらを見つめている。
まず「イラストレーター」の説明から始めた。
パソコンで設計製図するCADは、モノづくり関係、技術系メーカーに就職するひとには必須の勉強だが、それ以外の会社で働く場合には宝の持ち腐れになってしまう。
一方「イラストレーター」は、需要範囲が広い。
たとえば販売員希望の人でも、店のチラシやポスターぐらい出来る人が求められている。
また絵が好きな人にとってはたまらなくおもしろい勉強になる。
絵がうまくない人でもパソコンを使って立派な絵が描けるようになる。
というようなことをざっとしゃべった。
ひととおり説明が終わり、作品紹介にうつる。
部屋の明かりを消してプロジェクターのスイッチを入れる。
教壇の大きな白い画面が明るくなる。
「イラストレーター」で制作した私の過去の作品、学生たちの作品などを見せていく。
チョコレートのパッケージを作る課題、図面風のもの、ロゴ、マークなど色々ある。
しばらくしてチャイムが鳴り、休憩時間になった。
ひとりの女の子が話しかけてきた。
「先生、私、高校でパソコンけっこうやったんだよ」という。
聞いてみると彼女は商業科出身で、ワード、エクセルの授業があったという。簿記の資格も取ったそうだ。
でもこういう絵を描く授業は初めてだという。
「たのしいからがんばるんだよ」とはげました。
休憩時間が終わり授業再開だ。
「みんな、もう早くパソコンをいじってみたくて腕が鳴っているね」と冷やかすと、「そうでもないよー」といった顔で苦笑いされた。
早速「イラストレーター」を開く。
まず直線の描き方から始めた。
「クリック、クリック、ちょんちょんちょん」と変なリズムをつけながら、手本を描いていく。
学生達はそれを見ながら同じように真似していく。
「最初の点と最後の点をつなぐときはスナップマークを確認してからつなぐこと」
なんていっても、みんななんてことなくついてくる。
次は曲線である。最も簡単な半円形の山を作る。
「クリックしてそのままボタンを押したままずーっと斜め上に引きずって、ボタンを離して離れた所でクリックして、今度は斜め下にまたボタンを押したまま引きずって」
「あれ、変な山になっちゃった」
「山が描けない」
ちょっと声が出てきた。
次は直線と山の組み合わせである。
「畑(水平線)を描いて山を描く」
「途中で一回クリックして髭を一本にしてから山を描くんだよ」
何人かは描けない。先生来てと手を上げる。学生のパソコンでやってみせる。
「畑山大五郎はできたかな?」といって笑わせると、
「なにそれ先生?」と、優秀な女の子に笑われる。
「次は山畑小次郎」と笑わせながら進んでいく。
ほとんどの子はパソコンが好きである。機械を操作しながら何か作業していくのが楽しいのである。私と同じである。
なかに一人二人モニター画面がまぶしいという子がいる。ハンカチを出して目を拭いている。
その子のモニターを少し暗くしてあげる。
この調子で「山山山山山」「雲」「へび」など描いて線の練習をした。
若者は憶えるのが早い。どんどん新しいことを教えていったほうがいい。
これを何回か繰り返し復習するのが一番効率がいいのである。
「じゃあ、次は図形にいこう」
丸、四角を描く。色を変えてみる。輪郭線の太さを変える。回転させる、拡大縮小させる、移動させる、コピーさせる、整列させる。
「丸からハートを作ってみよう」
このあたりから色々声が出てくる。
「リンゴみたいになっちゃった」
「私のハートかわいくないよ」
「右と左がそろわない」
「私イラレに向いてないかも」
向いてないなんて初日から縁起の悪いこと言わないで、大丈夫だよ。
みな手を上げ私を呼ぶ。順繰りにまわっていく。ゆっくりやってみせる。
「こんどは最初は正方形、これを星に変えよう」
みんな楽しんでいる。
こういう授業は楽しいのである。面白いのである。教えている私も楽しい。教わっている学生も楽しい。
やりかたのわかった子が隣の子に教えている。変な星ができて大笑いしている子もいる。時計を見るとあと十五分ほどである。
「じゃあ、このあとは今日やった課題をもう一回繰り返して練習する」
そんなこんなで「イラストレーター」初日は終わっていったのであった。
 

自分のホームページ


 私は自分のホームページを作っている。ペーパークラフト「紙彫刻村」という名前である。
どういうわけかあまり人気がない。
マイナーな趣味を公開しているせいかもしれない。訪問者が増えないのである。
ヤフーに登録しようと再三手続きしているが受け入れてもらえない。キット販売という商売を掲載しているせいかもしれない。販売記事を削除すればいいのかもしれない。
現在七千名ちょっとの方々に来ていただいている。
千人目のとき、ちよっとしたハプニングがあった。
もうだいぶ前のことになるが、クラスの女子学生たちに、ちょうど千人目の人にごちそうする、と言っていたのである。
ところが千人目だという子が何人もあらわれた。誰が本当の千番目なのかわからない。
そこでその女の子たち全員六、七名を引き連れてイタリアンレストランへ行った思い出がある。あのときはちょっとした散財だった。
ホームページを最初に作ったのはもう随分昔のことになる。十年以上たっていると思う。
その頃は「青い水晶の村」という名前だった。
「イラストレーター」で描いた絵を発表していた。メルヘンチックな、ファンタジックな絵だった。
その後、ペーパークラフト作品を作るようになり、これらも発表するようになった。
次第にそのバランスが逆転し、現在ではペーパークラフトだけになっている。
普通「ペーパークラフト」というキーワードでインターネットを捜すと、子供向けの簡単なペーパークラフトのページがいっぱい見つかる。
切り抜いて動物や電車を作ろう、といったものである。
あるいは逆に超細かいペーパークラフトが見つかる場合もある。
リアルで本物そっくりのバイクのモデルなどの制作作品である。これらは子供には作れない。
大人でも普通の人では無理で、手先が器用で根気強くしかも暇のある人でなくてはだめなのである。
私の作品は大人向けである。
子供の興味を引くものではなく、大人でも手先が器用な人でないと作れない。
モチーフは風景で、漁港、ヨットハーバーといったどちらかというと地味目なものである。
緻密にリアルなものではなくその反対に単純化をめざしている。詩の世界でいうと俳句をめざすようなものである。
俳句はたった三語だけでつくられる最小でもっとも単純化された詩である。
しかし奥が深くすばらしい世界であることは説明するまでもない。俳句のようにシンプルでなおかつ詩的な造形を目標としている。

ペーパークラフトの制作はアイデアスケッチから始まる。
まずイメージがなくてはならない。
映画で見た荒涼とした辺境の大地、外国の雑誌でたまたま見かけた心惹かれる風景、三浦半島先端近くで出会った小さな漁港、などから造形をまとめていく。
平らな紙から折り曲げて立体化するので、形におのずと制限がある。たとえばボールのような球形は作れない。
設計にはCADを使う。CADがなかったらとてもではないが設計などできない。
設計のメインは三面図作成である。
粘土をこねて造形する場合は、どんな形でも作れるが、ペーパークラフトでは展開図が可能な形でなければならない。展開図を考慮しつつ三面図を完成させる。
三面図が出来上がれば設計は終わったようなものである。
展開図を画いて設計製図が終了し、用紙に印刷して切り抜き、折り曲げ、接着して作品を仕上げる。
このようにして作られた作品がならんでいるホームページである。
しかし訪れる人が増えない。
もっとも訪問者を増やすためのあれこれも全くしていない。
ホームページ維持のための営業活動をなにもしていないのである。商売人には向かないのである。
がらりと内容一新してみようかなという誘惑も時々頭をかすめる今日この頃なのだった。
 

ひとのホームページも作った


 ひとのホームページも二、三作った。
女房のものと某司法書士事務所のものである。
女房は着付教室をやっていてそのホームページを作ったのである。作ったというか作らされたのである。
このときはずいぶん沢山絵を描いた。イラストレーターで作画したのである。
振袖姿の娘、花嫁、留袖の女性、七五三の親子の絵、浴衣姿の娘、その他もろもろ・・・・。
注文がきつく、七五三の子供の着物の柄が古くさいから直せとか、娘の髪形が変だから修正しろとかさんざんだった。
色やレイアウトにもうるさく、派手すぎるからもっと落ちついた感じにとか、並べかたがおもしろくないから変化をつけてとか、言いたい放題だった。
しかし他人のホームページを作るのは、自分と違う分野、感性との巡りあいであり発見があって楽しいものである。
女房のホームページは私と違って盛況である。
当初女房は毎日のように自分のホームページとにらめっこで、あちこち修正、変更の指示をだした。
着付料金なども上げたり下げたり色々試していた。
熱心に、気を使って、まめに手入れしていれば、ホームページは生き生きと活性化してくるのである。
人をよびこむようになるのである。
恋と同じである。ほったらかしではいつのまにか立ち消えしてしまう。
その後このホームページはプロのホームページ制作者に引き継がれ、さらに注目されるように手を加えられている。
活発なホームページというのはあちこちからすぐに顔を出す。
いつでもすぐにお客様のところに飛んでいけるように仕組まれるのである。
おかげで女房のところにメールや携帯がばんばんやってくる。
商売繁盛なのであった。
 
某司法書士事務所のものは、ひょんなことがきっかけで依頼された。
自分のものや女房のものなど、ホームページ作りに慣れていたが、知らない他人から制作料をいただいて制作したのでちょっと緊張した。
まず制作料がどのくらいかわからない。
色々調べてみるとかなりまちまちである。
会社単位の仕事を引き受けて、法外な料金をとるホームページ制作会社もあれば、そこそこの料金ですむところもある。
初めての仕事なので謙虚に、そこそこの料金で仕事をさせてもらうことにした。
法律関係というのは、デザイナーにとって最も遠い世界である。
法律関係の人というのも身近にだれもいない。
依頼者の事務所の所長さんは、社会人なりたての若い男性だった。
ビルの一角に事務所を新設し、これからオープンして事業を開始するのである。もちろん事務所はこの所長さん一人である。
まだ机と椅子ぐらいしか置いてないがらんとした事務所に行って、制作の打ち合わせをした。
事務所のホームページということで、まず最初、平和で明るくあたたかい感じのバックにタイトルなどをのせ、そこからとんで事業概要や料金のページ、営業日時や地図が出て来る、といった数ページのホームページを作ればいいのかな、と予想していた。
軽く考えていたのである。
ところが違った。どっしりとかなりの枚数のコピーを渡されたのである。
細かい文字がびっしり並んでいる。法律家は緻密なのであった。論理的でもあった。
借金の返済に困っている人がいて、金額、契約条件などで色々な場合がある。
その各場合ごとにA、B、C、D・・・・、とボタンをつけ、ボタンを押すとさらにその先の細かい条件に行く。
そこでまたA、B、C、D・・・・、と分かれていく。また更に先に行きまた分かれていく・・・・。
そのようなホームページを作って欲しいということだった。
シンプルで、すっきりと、美しいもの大好き人間の頭脳はガーンと割られた。
きびしい現実の反撃をくらったのである。
翌日から、しこしこホームページ作りの作業が開始された。
なにしろ文字ばっかりである。絵など最初の画面だけである。
ほとんどワープロ打ち込み作業である。
ただ同じような内容の文章が多く助かった。コピーアンドペーストでなんとか楽できるのである。
1、2カ月後ホームページは完成した。
最初のページは白雲浮かぶ青空をバックに若い所長さんの顔写真を配置した。明るくさわやかなイメージである。
各ボタンを押していって動作確認をする。
間違いはないようである。
日記ではないが、所長さんの日々のちょっとしたコメントをのせるページも設けた。
折々になにか気のきいた短文を書いてもらう。
こうしておくとその都度更新され、ホームページの活性化がはかられるのである。
無事作り終えて久しぶりにデザイナーの幸せを感じた。
何かを作り出すということ、その楽しさ、それが他人に喜ばれるということ、デザイナー冥利につきる。

この笑って老年シリーズは全8篇あります。
ご興味ありましたら、他の篇もどうぞ。

1       笑って老年 不良講師お花見デート作戦
2       笑って老年 老ガンダム 年甲斐なき教師
3       笑って老年 自転車通勤13km
4       笑って老年 模型工作少年 鉄道・飛行機・ラジオからラジコンヨットまで
5       笑って老年 猫とリスの島 娘たちと江の島へ
6       笑って老年 唐突にパソコン・パソコン講師 Web制作も
7       笑って老年 iPod音楽生活 クラシック 好きな曲・作曲家
8       笑って老年 盗読 乱読 随筆 小説 児童文学 絵本出版
 

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