礒部晴樹

横浜生まれの工業デザイナー。絵画、小説、詩画集、絵本、体験記、を投稿します。 夢幻の絵…

礒部晴樹

横浜生まれの工業デザイナー。絵画、小説、詩画集、絵本、体験記、を投稿します。 夢幻の絵画。魔法や闘いとは無縁の別世界ファンタジー小説。3度のガン手術から生還した80歳の私の世界観は詩画集に。老講師時代のチョイときめき体験談。ラジコンヨットと自転車、そしてコッソリ酒の日々。

最近の記事

この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第85回]

香炉峰下新卜山居    香炉峰下 新たに山居を卜(ぼく)し 草堂初成偶題東壁    草堂 初めて成り 偶(たま)たま東壁に題す 日高睡足猶慵起     日高く睡り足りて 猶(な)お起くるに慵(ものう)し 小閣重衾不怕寒     小閣に衾(しとね)を重ねて 寒きを怕(おそ)れず 遺愛寺鐘欹枕聴     遺愛寺の鐘は 枕を欹(そばだ)てて聴き 香炉峰雪撥簾看     香炉峰の雪は 簾(すだれ)を墢(かか)げて看(み)る 匡廬便是逃名地     匡廬(きょうろ) 便(すなわ)ち是

    • [エッセイ] 盆栽風の盆栽 ──盆栽まがいを楽しむ

      盆栽風の盆栽まがいを三鉢育てている。 なぜ盆栽風というのかというと、 これは盆栽ですと名乗るのが、少々おこがましいからである。 幹は細いし、ほとんど手を加えていない。 盆栽作りには、一定のセオリーがあるが、私の盆栽はそうしていない。 盆栽の鉢を使っているだけなのである。 しかし私は十分満足しているし、楽しい。 盆栽と書は、美の評価点がよく似ている。 どちらも造形の感性とセンスが問われる。 素人が、白い半紙に筆で文字を書けば、一応これは書である。 ただしなんの感動もないし、魅

      • この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第84回]

        学生時代、「緑の館」W.H.ハドソン という本を読み、 一読、一生の付き合いになってしまいました。 政変をのがれて、アマゾンの密林に逃げ込んだアベルという若者が、 そのジャングルで神秘的な娘リーマと出会います。 一口でいえば、密林を舞台にしたラブロマンスです。 まず、出会うまでのプロセスに引き込まれます。 鳥の声やサルの呼び声とも違う不思議な声、 高い樹々のむこうにちらりとみえた白い影、 そして圧倒的な緑の世界の描写に魅了されました。 以後、「森の奥の神秘な娘」というモチー

        • この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第83回]

          清明          清明時節雨粉粉    清明の時節 雨粉粉(ふんぷん) 路上行人欲断魂    路上の行人 魂を断たれんと欲っす 借問酒家何処有    借問(しゃもん)す 酒家は何処に有ると 牧童遥指杏花村    牧童 遥かに指さす 杏花村 杜牧 気持ち良い清明の時節というのに あいにくの雨ざんざん降り 春をさがして散歩にでた私は 魂も消えいらんばかり 通りがかりの牧童に 雨宿りの飲み屋はあるかとたずねると 遥かかなた 杏の花咲く村を指さした *李白ほどではないとして

        この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第85回]

        • [エッセイ] 盆栽風の盆栽 ──盆栽まがいを楽しむ

        • この絵はこの物語から生まれました ──物語の世界をアートに [第84回]

        • この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第83回]

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第82回]

          江村即事 罷釣帰来不繋船    釣りを罷(や)め 帰り来たりて舟を繋(つな)がず 江村月落正堪眠    江村 月落ちて 正(まさ)に眠るに堪(た)えたり 縦然一夜風吹去    縦然(たとえ) 一夜 風吹き去るも 只在蘆花浅水辺    只 蘆花浅水の辺に 在(あ)らん 司空曙    川辺の村の即興の詩 釣りをやめて帰ってきて 舟も繋がず陸に上がった 川辺の村は月も落ちて ちょうど眠る時間 もし夜中 風が舟を吹き流しても ただ 蘆の花咲く浅瀬のあたりに 引っかかっているだけ

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第82回]

          [詩] ぼくは旅人 きみも旅人 この花も旅人

          ぼくは旅人  きみも旅人  この花も旅人 火球が冷えた 太古の海の 渚の奥の岩陰で 泡が重なり分裂し 無限にくりかえす 偶然と必然の中から 生まれた私たち生命 火山が噴火し 大地が震動し 天空を隕石が大声で飛び交い 恐竜たちが駆けぬけていった 砂時計は果てしなく流れ続け 生命の樹は成長分枝し、 哺乳類にまでたどりついた この星は時をはこぶ舟 この舟は人と花の積み荷を載せて 銀河のかなた走り去っていく 銀河の潮騒に洗われ 時間の波に洗われて 舟は青い宇宙の夕暮

          [詩] ぼくは旅人 きみも旅人 この花も旅人

          この絵はこの詩から生まれました  ──詩の世界をアートに [第81回]

          春江花月夜     張若虚 前回の続編、この甘美で長い詩の後半で、 結末の四句です。 斜月沈沈蔵海霧    斜月沈沈 海霧に蔵(かく)れ 碣石瀟湘無限路    碣石(けっせき)瀟湘(しょうしょう)無限の路 不知乗月幾人帰    知らず 月に乗じて 幾人か帰る 落月揺情満江樹    落月 情を揺るがして 江樹に満つ 斜めにかかった月は 静かに沈み 海霧にかくれた 北の果て碣石から 南の果て瀟湘まで はてしない道 この月のもと 何人の人が家路をたどっているだろう 落月は私の

          この絵はこの詩から生まれました  ──詩の世界をアートに [第81回]

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第80回]

          春江花月夜  張若虚 たいへん長い漢詩なので、 前半途中の一部のみの抜き書きです。 白雲一片去悠悠 青楓浦上不勝愁 誰家今夜扁舟子 何処相思明月楼 白い雲が ひとひら 流れ去る 青い楓の 入り江のほとりで 愁いに堪えかねる人 この夜 舟で旅する人は どこにいるのだろう その旅人を想う人は  この明月の下 どこの高殿にいるのだろう *「春江花月夜」は、春江の花、月の夜景とともに、 流麗甘美に流れゆく詩です。 小舟で旅する男と、その男を想う妻の想いを、 河のながれのように

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第80回]

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第79回]

          酔下祝融峯      酔って祝融峯を下る 我来萬里駕長風    我れ来たりて万里 長風に駕(が)す 絶壑層雲許盪胸    絶壑(ぜつがく)層雲 許(かく)も胸を盪(ゆる)がす 濁酒三盃豪気発    濁酒三盃 豪気発し 朗吟飛下祝融峯    朗吟 飛び下る 祝融峯 朱熹 私は祝融峯に登った。 頂上の 吹きわたる強風に乗って 万里も飛んで行けそうだ 切り立った絶壁 重なる雲々が 私の胸をなんと激しく揺さぶることか 濁り酒三杯で 豪快な気分になり 高らかに詩を吟じながら この

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第79回]

          [エッセイ] 書道展 ──謎解きパズルの楽しみ

          書道展をのぞくのは楽しい。 植物園で、珍しい花を見つけたり、巨大な植物と出会っておどろくのと同様である。 大規模な公募展から、数人のグループ展、そして画廊での個展等、いろいろ公開されている。 自宅にいながらパソコンで、無料で見られるのだからありがたい。 公募展などは作品数が膨大で、ひととおり見るだけで疲れてしまう。 日本にはこんなにたくさんの書家がいるのかと思う。 書は日本の文化として深く広く浸透しているのである。  もちろん書は、漢字、ひらがなを書いているわけだが、その

          [エッセイ] 書道展 ──謎解きパズルの楽しみ

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第78回]

          春行寄興        春行 興を寄す 宜陽城下草萋萋     宜陽(ぎよう)城下 草萋萋(せいせい) 澗水東流復向西    澗水 東に流れ また西に向かう 芳樹無人花自落     芳樹 人無く 花自づから落ち 春山一路鳥空啼     春山一路 鳥空しく啼く 李華 春の行楽 楽しさのままに 宜陽の町の外 若草が生い茂り 谷川の水 東に流れ また西に向かう 花の香ただよう樹 人影もなく花が散っている 春の山道 鳥の声だけ響いた *本来は山水画、日本画がふさ

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第78回]

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第77回]

          過山家          山家を過(よ)ぎる 流水聲中響緯車      流水声中 緯車響き 板橋春暗樹無花      板橋 春暗く 樹に花無し 風前何処香来近      風前 何処か 香の来ること近き 隔崦人家午焙茶      崦(えん)を隔て 人家午(ひる)に茶をあぶる 高啓  流れる水音にまじって 糸車の音がする 板橋のあたり 春ほの暗く 樹には花が咲いていない 風にのってどこからか いい香り 小山のむこうの家で この昼時 茶をほうじているようだ *今回のこの絵、

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第77回]

          [エッセイ] 樹が好き ──樹は生きた彫刻・樹の造形を楽しむ

          樹をながめるのが好きである。 幹、枝ぶりの造形のおもしろさに惹かれる。 盆栽をやる人なら、樹形について明確な審美眼をもっているが、 私は、樹を生きた彫刻として楽しんでいる。 公園などで、大きなレンズを付けたカメラで、カワセミなどきれいな小鳥を狙ったり、美しい花を写している人はよく見かけるが、じっくり樹を撮影している場面には出会ったことがない。 小鳥は逃げるし、花は時期があるが、樹は逃げないし、いつでも見られるから逆に興味をそそられないのか・・・ 平凡ではあるが、まずモミジ

          [エッセイ] 樹が好き ──樹は生きた彫刻・樹の造形を楽しむ

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第76回]

          赤壁 折戟沈沙鉄半銷    折戟(せつげき)沈沙 鉄 なかば銷(しょう)す 自将磨洗認前朝    おのずと 磨洗もて 前朝を認む 東風不興周郎便    東風 周郎のために 便せずんば 銅雀春深鎖二喬    銅雀 春深くして 二喬(にきょう)を鎖(とざ)さん 杜牧 折れて錆びた戟が 沙に埋まっていた 磨き洗うと 前朝時代のものだった 東風が吹かず 周瑜軍の火攻めが成功しなかったら 喬公の娘の美女ふたり 春深い銅雀台に 囲われてしまったことだろう *戟=げき=刃が縦横に付

          この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第76回]

          [エッセイ]60年ぶりのサン テグジュペリ「人間の土地」文章の一節をさがして

          60年ぶりにサン・テグジュペリの「人間の土地」を読み返した。 この小説の中の、文章の一節をさがしたかったからである。 少し前、このnoteにある漢詩を発表した。 そのとき、詩の感覚、表現が、以前どこかで見たような気がした。 それがサン・テグジュペリだった。 若いころ、たぶん十代の終わりころ、当時「星の王子さま」が出版され、かなり話題になった。 私も本を見てサン・テグジュペリが好きになり、そのあと「人間の土地」も読んでいた。 あらためて再読してみると、かなり読みにくい文体だ

          [エッセイ]60年ぶりのサン テグジュペリ「人間の土地」文章の一節をさがして

          [エッセイ] 趣味を楽しむ中高年  自作して飛ばす模型飛行機

          おやじ達が集まって、ゴム動力飛行機を飛ばしている動画があり、 見ていてほっこり心がなごむ。 同様の動画はいくつかあり、アメリカなどでは、ひとつの趣味の世界として定着しているようだ。 若者もいないことはないが、ほぼ中高年の男性で、腹の出たおっさん、髪の白い老人がメインである。 現代ではRC(ラジコン)が普及し、模型エンジンや電動モーターを使った模型飛行機が主流のようになっているが、彼らは昔懐かしいゴム動力機を楽しんでいる。 よく見ると、自作手作りの機体も多いようだ。 タイプとし

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