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Space Xの民間初有人飛行にみる、”らしさ”と戦略的ポジショニング

まず断りを入れますがこれは、宇宙を語る話になるのではなく、

”人生の選択について”

語る話になるので、ターゲット読者は20代前半から50代前半程度の、この先の生き方について深く考えたい方々であり、少しでも参考になればと考え執筆致しました。

考える事が好きじゃない人にはちんぷんかんかと思います。

(最近よくキャリア選択の相談をお受けするので、そういった背景があります。)

お恥ずかしながら、私の頭の中を少しだけ、公開してみようと思います。

私が約4年前、過去世界最強と言われた投資銀行を退職した際に、間違いなく影響を受けたのがSpace Xでした。世界ではこんな強烈なインパクトを残している人達がいる。他には、Google X(当時、現在の”X”)のような”ムーンショット”と言われる世界をひっくり返すようなアイディアに没頭している人たちがいる。感動をしました。

先日Space Xが”民間初の有人飛行”を達成しましたが、この端的な言葉だけでは、そこにある物語も重さも幾多の試練も何も表現できません。

それほど偉大な業績であると言えると思います。

まさに人類がまた月(ムーンショットの由来)に近づきました。

当時、抑えきれない気持ちがピークに達して、3ヶ月後には会社を辞めていました。人間は空間と時間という枠組みの中で存在していて(正確には、人間が近似値的に理解している空間と時間)、すると死を当然意識せざるを得ず(時間)、リスクリターンを2次元的に捉えていましたが、3次元的かもしれないと気がつきました。(空間)

この4年間は要約すると”失敗と挫折の連続”です。(現在進行形)

本日の大事な話はこの”挫折”と関係しています。

そして、自分”らしさ”とは何なのか。

これらの”挫折”は自分”らしさ”と深く結びついており、起こるべくして起きている挫折だったのです。

自身が”らしさ”を深く理解した結果、悪くいうと”ただの挫折”が、”戦略を考える機会の創出”へと変容して行きました。

”らしさ”とは東京大学先端科学技術研究センター准教授で”当事者研究”を行う医師・熊谷晋一郎氏は

”身体と自分史”

であると定義します。

変えられること、変えられないこと、その境界は極めて曖昧であるのだけども、過去の自分史だけは変えられることはできなく、わたし”らしさ”が宿ります。

わたしの”らしさ”については、本質的な話ではないので割愛しますが、メタ認知に基づき、大雑把に表現すると、

”日本人として一般的な家庭で育ち、一般的な価値観の下、感情の起伏はあまりなく、デフォルトが穏やかで、自分なりに努力を積み重ね、こうやったら成功するのではないかと考え、軌道修正を繰り返しながら、時には全く異なる領域に手をだし、リスクコントロールを行いながら進んできた積み上げ型。”

という事です。繰り返しますが、自分史を変える事はできず”らしさ”はここに宿ります。そして説明しませんが、ここには様々な考えるべき要素が含まれています。

この”らしさ”から逸脱する事ができないならば、その”らしさ”の中で生き、戦略を立案・実行しなければなりません。

”戦略”について説明を加えます。

”戦略”とは己の軍勢の軍力・特性・兵站を客観的に認知する事が最初の一歩となります。加えて、敵の同じく軍力・特性・兵站および軍略、戦地の地形・気候条件を認知・推測することが必要となります。

一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏は、

「実際には戦争あるいは戦闘の勝敗の行方や市場・技術の競争状況の変化は予測しがたいものであり、その都度、混沌のただなかで、ことの本質を直観し、物語りに表出化しながら実行していく面もある」

と戦略について付け加えます。

世界屈指の戦略研究家と言われるロンドン大学キングスカレッジのローレンス・フリードマン氏の表現をお借りすると、

「戦争が始まってしまえば、数多くの変動要因が働くため、理論はほとんど役に立たなくなった。その時点で戦争はアートに属するものとなった。戦略は体系的かつ、経験に基づいて論理的に策定されるものであり、あらかじめ計画しうること全てを網羅し、計算に左右されるという点で、科学に属する事ができた。一方、見通しが思わしくない情況で並外れた成果をあげる事のできる「大胆不敵」な指揮官の行動を含むという点で、戦略はアートでもあった」

となります。

サイエンス、アート、戦略においてどちらを重点的に使うかは情況次第であり、そのバランスはダイナミックにかわります。言い換えると、サイエンスだけでは戦略と言えず、アートまで含めて戦略を昇華させる事が重要であると言えます。

「戦略とは、矛盾を解消するパワー創造のアートである」

とフリードマンは喝破しました。

キングダムのファンであれば、”あーいう事か”と分かるかもしれません。戦局を見極めながら、武将は意思決定の判断と実行を繰り返すのです。

中間要約をしますと、

”憧れは簡単であり、言葉は安く、成すまでの距離は遠く、成せる人になるのは著しく困難”

と、自分史と相関する数ある”挫折”を経験して気づかされ、戦略を深く理解し、練り、実践しなければならない=勢いだけではどうにもならないという事が分かってきました。

現実は、変化と安定、アナログとデジタル、適応と革新など、様々な対立項や矛盾に対峙します。知略は、流動する関係性のなかから生み出される矛盾を二者択一によって解決するのではなく、どちらも真理だが、どちらも半面の真理でしかないと認め、”中庸”を取ります。

「”中庸”とは矛盾する両極の中間ではなく、完全な調和はないと知りつつ、情況に応じて、より良い均衡に向かって矛盾を高次のレベルに止揚することを意味する」と、野中郁次郎氏は語ります。

”中庸”とは矛盾する両極の中間ではないのです。

そして知略は中庸を採るのです。

相反しながらも相互補完的な性質を持つ二つの要素は、両極の一方のみがつねに正しいのではなく、どちらも一面的に正しいのであり、両者を相互作用させながら、情況と文脈に応じて両者の重点配分を変えつつ、ダイナミックに実践し、有効であることを実証してこそ真理であるという、という考え方に基づいているのです。

”二項対立”ではなく、両者の利点を生かす”二項動態”として捉えるのです。

この”二項動態”という考え方に出会った時に閃きを覚えました。

今の時代は様々な事象が深く複雑に絡みあい、かつ流動的であると言えます。ノンバイナリーな世界になっているともいえます。量子論的にいえば、0でも1でもなく、0も1も同時に取りえます。あらゆる状態を同時に取り得る事ができます。”もつれ”(entangled)状態にあると言えます。

何が正解かは誰にもわからず、昨日までの正解が明日の不正解かもしれない。半導体にはSingle Event Upsetという事象が存在し、イオン化された放射能を浴びると0と1のデジタル回路の状態が反転する事があります。いきなり状態遷移が起きるのです。一つのイベントがいきなり状態を著しく変えるのです。

そう、コロナのように。

これだけ複雑で変化が早く、正解が不正解になるかもしれない”世界=戦況・戦場の地形・条件”では、”らしさ=軍力・特性の認知・理解”を基に、知略を生かして、”二項動態=戦術”を用い、私の”戦略的ポジショニング”を形成していくという話につながります。

具体例を示します。

私自身は、“Telexistence”という”ムーンショット”になる可能性のある事業を作り上げてきながらも、道半ばの中責務を以前対比限定的にし、Airbus Venturesというシリコンバレーのベンチャーキャピタルで、Space Xに続くようなムーンショットを生み出す可能性のある企業に世界中で投資をしているファンドで投資家として働いています。

この選択には矛盾が多くあると感じ、苦しみました。

しかし、NYに拠を構えるUnion Square VenturesのPartnerであり大物ベンチャーキャタリストのFred Wilsonは言いました。

「I have never been an entrepreneur and I think that’s a bit of a liability that I’ve overcome just because I’ve been doing this business for a long time now. But I think that the VCs who have been entrepreneurs, if they can truly make the switch to being a VC, are the best VCs 」

正確には”二項動態”の定義には当てはまりませんが、両者を知っている事の重要性を説いております。実際、私は自身をアントレプレナーとは思っておりませんが、VC投資家として活動をしているとベンチャーで学んだ事、および今学んでいる事には本当に価値があり、投資先・投資候補先の起業家からの信頼度は桁違いに違うと実感しています。

まさしく知略が生かされる場面です。知略を駆使し、矛盾される両極の中間ではなく、より良い均衡に止揚させるのです。

両者の経験は、”Intersubjectivity (相互主観性)”と呼ばれる現象学の概念、分かりやすくいうと”共感”に影響し、他者主観性への理解程度が圧倒的に上昇します。

一方、事業家としても(守秘義務は果たしております)、投資家としての学び、視点、情報、経験が大きく生きてきています。

”観察・実践・理論”の三角形を高速でぐるぐると繰り返しているというのが正しい表現と言えます。

創造性と効率性をダイナミックにバランスさせる事により、戦いを有利に進めるのです。

何の為に戦うのかという目的に少しでも近づくのです。

もちろん私など、事業家としても投資家としても駆け出しですが、それでも漸進しており、この戦略が今は正しいと感じております。選択した結果、上記の通り成長も戦闘力の増加も実感していますし、最初に志した”ムーンショット”と呼べる事業や、それを起こす人の周りに、一層物理的に近い距離にいられている事は事実です。(Telexistence自体も日本政府のムーンショットテーマに採択されていますが、加えてSpace XもSpace Xを支えたシリコンバレーの投資家も、世界中の志ある起業家との距離も著しく近くなったのはAirbus Venturesのお陰です。) 

最終的に事業家にこだわるのか、Peter Thielのように投資家として関わるのか、今はまだ分かりません。

これを”戦略的ポジショニング”と表現しました。

私はサッカーをずっとやりましたが、陸上もやたら強かったですし、ピアノも弾きましたし、ダンスも楽しみ、トライアスロンも嗜み、慶應で学び、東大で学びました。工学を学び、経済学に転身し、投資銀行ではマーケターからトレーダーとなりました。ここには浅はかでしたが、少々の”戦略”と本能や性格を表す”らしさ”が詰まっています。

正直申し上げて、上記の自身を否定してきた事ばかりですし、常に自問自答を繰り返しています。しかし否定するだけではなく受け止め、自分史をありのまま正しく認識し消化することにより、変えられない”らしさ”の下、”二項動態”を是とし戦略を実行するしかないと割り切りをしました。

”らしさ”と”戦略的ポジショニング”が繋がりました。

SpaceXやElon Muskはナノスケールの事象であり才能です。ナノとは10億分の1のスケールを指します。人類70億人における、ナノスケールです。

自分はナノスケールでしょうか?全くもってそうではないと信じています。”らしさ”から推測するにきっと届かないでしょう。

しかし、憧れます。そして遠い。遥かに遠い。その遠い目的に少しでも近づくにはどうするのか。その為に、”らしさ”を理解し、抗わず、戦略を遂行していく。そして戦略とは”アート”であり、流動的な戦局=目の前に現れる機会や挑戦に合わせて、大胆に意思決定を行なっていくしかないのです。

せめて死ぬまでにはマイクロスケール=100万分の1で語れる人となり、ナノスケールに近づく憧れを持ち続けたいと思います。(マイクロとナノはそれでも1000xの違いがあります。)

“Space Xの民間初有人飛行にみる、”らしさ”と戦略的ポジションニング”というタイトルを深くご理解頂けたでしょうか?

夢とはガムシャラに進む事なのではないか!?という言葉も聞こえてきそうですが、自分を見切った現実主義者である事も覆す事ができない、否、覆す必要がない、自身の”らしさ”なのです。

各々の方の戦いの将軍(指揮官)は己のみです。そして戦い方もそれぞれです。従い、今日纏めた具体例が正しくない戦もあります。

しかし、”らしさ”を理解し、”戦略”を持つ事に、例外はないと思います。

少しでも人生の選択の参考になればこの上ない喜びです。


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